第一章 4話 王都密議
王都ランパール。
初代ヨシトゥーネ王がシャナ王国の首都に定めた都市である。
都市の周りは緑豊かであり、動植物が繁栄を極めていた。
自然が醸し出す美しさと、
その中に存在する白を基調としている王都ランパールは幻想的な美しさを見る者に与えた。
それを見た旅人はその美しさに感動し「緑の宮殿」と呼ぶようになった。
王都はかつて、山だった所に建てられている。
その山を城壁と深い堀で囲んでおり、敵の攻撃を難しくしていた。
城門を抜けると、緩やかな坂道の大通りが一直線に続いている。
見上げてみると、大通りの先には王族が住む城がそびえ立っている。
城の周りはヨシトゥーネ王が改修を加えており、緩やかな坂道だった
大通りも急激な坂道をしている。
また、城の背後は峻険な崖になっており、よじ登るのは不可能であった。
その為、城の背後からの攻撃も酷く困難にしていた。
王都ランパールが建てられた山は現在、段々畑のような形になっている。
山の斜面を段上に作り、その上に建物を建てていった。
また、段を三層に分けると、それぞれの段には住む人の職業が異なっている。
都市外層で下段に位置する住人は狩猟だけでなく
畑を耕して生計を立てている一般の国民。
都市中層の中段は商人が住む住居や店となっている。
特に大通りには商人が出している店が立ち並んでいた。
店を持たぬ行商人も大通りの脇道に座敷を敷いて、
その上に商品を並べて売ったりするので、
王都の中段の道はどこもかしこも人で賑わう市場となっていた。
上段は城の関係者が住まう場所となっている。
そして、最上段にはランパール城が周囲を睥睨するが如く建っていた。
ラファエル、セシリア、ガンドロフの3人が
カズマを訪れているのと同じ時、そのランパール城の会議室には
ケイフォードと主だった第二王子派の幹部がいた。
「フローレンス将軍、近衛騎士団は完全に掌握したかね?」
会議室の奥に座る、ケイフォードが傍らのフローレンスに問う。
ケイフォードは全体的に見れば、細見で顔の造形も整っている。
どことなく、ラファエル王太子に似ているのは血筋によるものだろうか。
ただ、彼の鷹のように鋭い目がラファエルと違う事を明確に表明している。
また、体格もラファエルと似ているが良く見ると、ラファエルとは違い
その細身の体が鍛え込まれているのが分かる。
ボディビルダーの様な観賞用の筋肉ではなく。
不必要な筋肉を削ぎ落とし、実戦用の筋肉によって構成されている。
「陛下、既に掌握しています。出陣のご命令を頂ければ、いつでも出陣出来ます。」
ケイフォードの信任厚く、第二王子派の軍事部門トップを任されている男である。
元々は下級貴族の出身だったが、17歳の若さで、近衛騎士に任命されるや
セントレイズ帝国との国境線での小競り合いなどで
基本に忠実な働きで軍功を上げて、頭角を現した男である。
少々、杓子定規な所もあるが、25歳にして、
下級貴族としては最高位の百騎将に任命された。
しかし、千騎将からは上流貴族がなる慣習になっていた為、
出世もここまでかと思われたが転機が訪れた。
己の右腕を探していた、ケイフォードとの出会いである。
ケイフォードが口利きにより、千騎将を飛び越えて、
31歳で近衛騎士団長に就任した。
「よかろう。一週間後には出陣せよ。」
「はっ!」
「グローブ財務卿は関係者を総動員して、出陣の準備を整えよ。」
「畏まりました、陛下。」
グローブ財務卿が首肯する。
フローレンス将軍を軍事部門のトップとすれば、
内政部門のトップはグローブ財務卿である。
彼は店を持たない行商人だったが、
持前の才覚のみで一代で王都屈指の豪商人として財を築いた。
それに目をつけたケイフォードに引き抜かれ、内政全てを任される事になった。
「ところで陛下。約束通り、セシリアの件をくれぐれも頼みますぞ?」
そして、最後の側近ザーム・フォルラン宰相が沈黙を破って発言した。
彼は他の二人とは違い、生粋の上流貴族であった。
しかし、年齢は30歳をいくつか過ぎただけのはずだが、
暴飲暴食が祟ってか、目の下には隈が出来ており
体も腹が太鼓の様に膨らんでいた。
叩けば、即興で音楽を奏でられそうである。
「あぁ、分かっている。フローレンス将軍、
セシリアを生きたまま、連れてきてくれ。」
「・・・畏まりました。」
納得はしてないが、信頼する君主の命令に不承不承頷く。
「それを聞いて安心しました。
これで名門カストール家も我がザーム家の物になりますな。
それでは私は忙しいのでこれで。」
そういうと、そそくさと席を立ち出て行った。
フォルランは才色兼備で有名なセシリアに酷く執心であった。
何度も結婚を申し込んだが色よい返事を貰えず内心苛立っていた。
ケイフォードに味方をする理由もセシリアを貰えるという条件に飛びついたからだ。
しばらく、フォルラン宰相が座っていた席を眺めていたフローレンスは
「殿下、宜しいのですか?
あの汚れきった豚は我が身の事しか考えぬ、佞臣です。
宰相としては不適格ですが?」
そういった者達を特に嫌うフローレンス将軍はフォルランを激しく嫌っていた。
「分かっている。この件が片付き、
暫くしたら、罪に着せて処刑するつもりだ。
今は筆頭貴族としてザーム家の力も必要だしな。
それまで、せいぜい煽てて、利用させてもらう。
女、一人で言うことを聞けば安いものだ。」
「・・・畏まりました。」
主君の決断が決まった以上はフローレンス将軍はただ従うのみである。
「これで、シャナ王国は統一したも同然だな。
次はセントレイズ、バーネット両国を喰らって大陸統一してやる!」
ランパール城でケイフォードが己の意気込みを天まで届かんとするかのように咆哮した。
この日の一週間後、ついにフローレンス将軍を総大将とする
近衛軍4万人、貴族の援軍が1万人。
約5万人の軍勢がローランド要塞を目指して、進軍を開始することになった。
ついに敵キャラの登場〜。
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