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5年来の悪友コンビ

【短編】公爵令嬢である私が、5年来の悪友だと判明した王太子殿下と婚約するまで

続編投稿しました

 これはドラセナ王国の象徴である王城で開かれた、とあるパーティーで起きた出来事。


「お初に御目にかかりますフォール公爵家が二女カンナ=フォールと申します。この度は無事に成人の日を迎えられたこと、心よりお祝い申し上げます。そしてこのような大変おめでたい祝いの席に招待をいただけたこと、至極光栄に思いますわ。」


 カーテシーをしながら挨拶をした私に、王太子殿下がこたえます。


「初めましてフォール公爵令嬢殿。この場に出席していただけたこと感謝します。以前から噂は聞いていましたが、フォール公爵家の宝石という呼び名に相応しい素敵な方のようですね。」


「ありがとうございます。殿下のお言葉に沿えるように今後も精進いたしますわ。」


 そうしてひと通りの挨拶を終えた私は顔をあげるが、ふと違和感を感じて思わず殿下の顔をまじまじと見つめてしまいます。目の前にあるのは金髪碧眼の無駄に整った顔面。この感覚どこかで…。殿下のほうも何か思うところがあったのか数秒の空白が生まれる。そして、ある事実に気付いた私達は互いの目を見て心の中で叫びました。



『何でアンタがここにいるのよ!?』

『何でテメエがいんだよ!?』



 ◇



 豪華絢爛。天井で無駄に主張しているシャンデリアに照らされた会場では、派手に着飾った上位貴族達が食事やワインを片手に会話を楽しんでいる。そして、例に漏れず私もその一員です。残念ながら。


 この国では15才になると成人と見なされ、当日は盛大に祝うのが慣例となっています。特に私たち貴族はその格に相応しい規模のパーティーを開かなければいけないのですが、正に今日がその日。国内で最も豪華で格式の高い、王太子殿下の晴れ舞台です。


 そんな一大イベントなので国中から上位の貴族達が招かれ盛大に祝うのですが、正直私にとっては面倒なことこの上ありません。なぜならこのパーティーはただの祝いの席ではないから。思わず溢れてしまいそうになる溜め息を圧し殺して、上っ面だけの会話をこなします。そんな憂鬱な私を癒してくれるのは会場に響く音楽と普段は食べられないお高い料理だけ。


 こんな所に連れてこられなければ、今頃は家の飼い猫であるアーくん(アレキサンダー♂️)とゴロゴロいちゃいちゃしてましたのに。確かに私の家は貴族の中でも特に格が高い公爵家で、殿下とも年が近い私は適任なのでしょう。けれど私はとある問題からパーティーや御茶会には参加した事がありませんでした。


 唯一の経験と言えば、私がまだ幼かった頃に父様に無理矢理に連れていかれた小規模なパーティーくらいです。なんでも古くからの友人に私を紹介したかったのだとか。


 そのため、この日の為に数日前から礼儀作法や貴族特有の裏のあるおしゃべりをみっちり教え込まれたのです。ほんとに辛い日々でした…。何だか思い出したらムカムカしてきてしまいましたね。心の中でもこんな堅苦しい喋り方してたら疲れるし、やーめた。それにしても皆が言ってた通りね。


『どいつもこいつも嘘つきばっかり』


 そう誰にも聞かれないように呟いた私が辺りを見回せば、会場の至る所で薄黒い(もや)のようなモノが漂っているのが目に映りこんでくる。


 これが私が持つ能力。魔術では再現ができない特異な力だ。あの靄は人が嘘をついた時に発生し、嘘をついた人やその相手などに付着して吸収される。多分なにか良くない効果でもあるんじゃないかな。まぁそういう訳で私には人の嘘が分かる。かっこよく言うなら看破の魔眼とかかな?


 この力が判明した時はまだ小さくて制御なんて一切出来なかったから、パパやママが私を心配してパーティー等の貴族達が多くいる場所には行かせなかったの。


 おかげでついたアダ名が【フォール家の宝石】。両親の美貌を引き継いだありがたい容姿と、社交の場に現れないで宝石のように大切に育てられた事から付いたらしい。他には引きこもり姫なんて呼び名もあるみたいだけどね。



 そんな私もそろそろ15才。能力も使いこなせるようになってきたし、成人してこれから学園に通う身になるからこれを機に社交界デビューって事で無理矢理連れてこられたのだ。まあそんなレアキャラがいるせいで周りから変に注目されるし、ひっきりなしに挨拶をされるから無駄に疲れた。始まったばかりなのにもうクタクタよ。




 と、愚痴をこぼしていたその時。唐突に会場の空気が一変する。音楽が変わり、今まで談笑していた貴族達を含めその場にいた全員が一斉に黙り込んでその場に跪く。そして開かれた扉から本日の主役と、この国の最高権力者一行が現れる。会場の真ん中を堂々とした足取りで進む彼らが奥の壇上に辿り着くと、低く威厳溢れる声が会場に響き渡る。


「面を上げよ。先ずはこの目出度い場に集まってくれたこと感謝する。今日は我が国の王太子の成人を祝う祭り。堅苦しい事は程々に、それぞれ好きにしてくれ。」


 金髪金眼の偉丈夫の男性がそう言うと幾分か空気が軽くなる。あれがドラセナ王国の最高権力を握る御方。我が国の国王陛下か…。そして、その後ろから本日の主役であろう人物が現れる。


「皆さん本日は私の為に集まってくれてありがとうございます。初めてお会いする方も多いでしょうから改めて自己紹介をさせていただきす。ドラセナ王国が王太子エドガー=ドラセナと申します。次期国王として相応しい人間となれるよう日々精進致しますのでどうぞよろしくお願いします。それでは挨拶はこの辺にしてパーティーを存分に楽しみましょう。」



 遠目だからハッキリとは見えないけど金髪碧眼の美男子?がそう言って下がって行くと会場にいた人々は立ち上がり再び会話に花を咲かせ始める。へーあれが王太子ねー。なんだか気にくわないわね。なんでだろ?


 しばらくボーッとしていると後ろから聞き慣れた声がかかる。


「カンナ。早速だが殿下方に挨拶をしに行くぞ」


 振り返れば黒髪のダンディーなおじ様がいて私をエスコートしてくれるらしい。この人が私のお父様でフォール公爵家の当主で私をここに連れ込んだ犯人だ。


「分かりましたわお父様。では皆様機会があればまた後程お話いたしましょう」


 公爵様の登場で浮き足立つ周りの人に適当に話を終わらせてこの場を離れる。あー、やっと抜け出せたわ。いい加減面倒だったから少しでも離れられて清々した。


「それではエスコートお願いしますねお父様(面倒なことは任せるからさっさと終わらせてね)」


「仰せのままに我が姫よ(しょうがないなぁ…出来るだけ頑張るよ)」


 ふふ、血の繋がった家族なんだからこの程度の意志疎通ならお手のものね。家じゃ話さなくても伝わってくれるからすごく楽なんだよねー。


 呑気にそんなことを考えていた私は、この後に起こることなど全く予想していなかった。そして冒頭に戻るのでしたとさ。



 ◇



『何でアンタがここにいるのよ!』

『何でテメエがいんだよ!』


 先ほど感じた違和感。その正体はコイツが以前からの知り合い、もとい悪友だったから。もちろん私たちは初対面で王太子様と面会したことなんて一回もない。しかし人間とは誰しも複数の顔を持っているもので、私達も例外ではなかったということだ。


 幼い頃に能力を発現して社交の場に出されなくなった私は、日々のお勉強や訓練くらいしかやることが無くて退屈な毎日を過ごしていた。しかしある日一定の実力を身に付けたと認められ、制限付きではあるけど好きに外出が出来るようになったの。それからは毎日が楽しかった。


 一応安全の為に変装をした私は街に出て好きなものを買ったり、食べ歩きをしたり、知り合った子供達と遊んだり色々な事をした。


 その中で出会ったのがコイツ。彼は街の悪ガキ達とつるんで遊んでいたのだけど、たまたま私がよく遊んでいたグループと衝突して軽くケンカになったの。女の子もいるこちらに対して、向こうはそれなりにケンカ慣れした男ばかり。当然のように一方的に負かされた友人達を目の当たりにした私は、つい頭に血が上って奴らの元に乗り込んでボコボコにしてやったのだ。



 それ以降グループ間のいざこざは解決したのだけど、何故か向こうのリーダー格だったコイツがやたらと突っかかって来るようになった。最初は無視してたのだけど、次第に打ち解けた私達は治安維持だったり子供達の面倒をみながら遊んだりと好き勝手にやるようになったの。そして出会ってから五年がたった頃には立派な悪友になってたとさ。


 確かに最近はお互いに忙しいみたいで全く会っていなかったけれど、こんな所で会うなんて。あまりの衝撃に一瞬頭が真っ白になってたよ。


 それにしてもコイツが王太子様かぁ…。


『『似合わないな…』』


 思わず呟いた言葉が重なった。コイツ…!確かに私はドレスなんて似合わないような女だけど、アンタに言われるのだけは我慢できないわ。周りから変に思われない程度に取り繕った私達は、血走った目を細めながらにこやかに会話をし始める。


「何か仰りましたか?殿下の御言葉を聞き逃すなんて申し訳ありません。よろしければもう一度お聞かせくださいませんか?」


 ※訳(アンタ今なんて言った?もういっぺん言ってみなさいよ。)


「こちらこそ被せてしまったようで申し訳ない。私はただカンナ殿の美しいお姿に感嘆の声が漏れてしまっただけなので、お気になさらないでください」


(お前も何か言ったよな?ていうか似合わなすぎて思わず声が出ちまったよ。)


 そう言う彼の周囲に漂う灰色の靄。あら、嘘がばれていますよ殿下。普段はあまり使わないようにしているのだけど、ついさっき使ってオフにするのを忘ちゃってたわ。


「ふふっ、殿下は口が御上手ですのね。お世辞でもそう言っていただけて光栄ですわ」


(下手くそな嘘ついてんじゃないわよ。虫酸が走るわ。)


「あはは、カンナ殿こそ口が達者のようですね」


(テメエの口調も気持ち悪いんだよ。)


 と、そこまで話したところでお父様から耳打ちをされた。


「そろそろ時間だよ」


 そういえば挨拶に少し時間をかけすぎてる気がする。公爵家たる私達は最初の方に挨拶しなければいけないのだけど、つまり後がつかえてるんだよね。それなら、ここは一旦引いた方がいいかな?


「あぁ申し訳ありません。つい会話に夢中になって時間を忘れてしまっていました。会場の皆様も殿下との会話を心待ちにしているでしょうから、私はそろそろ失礼させていただきますわ。」


(つい頭に血が昇って時間忘れてた。流石にまずいからそろそろ離れるわ。)


「そうですね。名残惜しいですが、この続きはまたの機会にとって置きましょうか」


(色々言い足りないけどしょうがねぇな。次会ったら覚えておけよ。)


「改めて本日を迎えられたこと心より御祝い申し上げます。次の機会があれば是非ともお話しさせてください。では失礼いたしますわ」


(とりあえず今日はおめでと。アンタこそ次会ったらボコボコにしてやるから。じゃあね。)


 一礼をした私達はその場を後にして元いた場所に戻ろうと歩き出す。それにしても本当にびっくりしちゃった。奇妙な縁もあるものね。次会ったら詳しく聞かないと。


 そんなことを考えていた私は、ふとすれ違った使用人が気になって立ち止まる。なんだか嫌な予感がするのよね。こういう時はだいたい何か起こるのが私の経験則だ。


 先程の使用人を注意深く観察するが、特に不審な点は見当たらない。給仕の業務なのかワインを乗せたトレーを運びながら各テーブルを回っているようだ。そして一通り周り終わった様子の使用人が新たなワインを運び出してきた時、私はあることを思い出す。


 そういえば、うちの国って成人と同時にお酒を飲むのが認められるようになるんだっけ。


 私が気を逸らしたその時、事態が動き出していた。トレーを持ったまま王太子殿下の元に向かった使用人の声が遠くから聞こえてくる。


「ご歓談の所失礼いたします。成人となられた王太子殿下にワインを持って参りました。」


「おぉ!ワインか。有り難く貰うよ」


 その声に我に返った私は、反射的にそちらに目を向けると…


「本日の為に厳選した初めてでも美味しく召し上がれる貴重な一品ですので、殿下もお気に召すかと」


 使用人からどす黒い靄が吹き出し、今にも王太子殿下に降りかかろうとしていた。


「それは素晴らしいな。では早速いただくよ」


 グラスを手にした殿下が口を付ける…寸前。



「飲むな!!」


 会場に響き渡る大砲のごとき大声に王太子殿下の動きが止まる。それは昔から聞き慣れた声で、調教された犬のように迅速かつ的確に指示に従う。


 そして声を上げた私の体は反射的に次の行動を開始する。回避行動をとる目標に狙いを付け即座に無詠唱魔術を発動。顕れたるは絶対零度の檻。目標の使用人を鎮圧した直後、もうひとつの魔術を起動し殿下の持つグラスをピンポイントで凍らせる。一連の動きを完了させ、そこで体に意識が追い付く。


 そして、いまだに動かないグズに魔力をぶつけて目を覚ましてやればミッションコンプリート。いつも通りなら後はアイツが上手くやってくれるでしょ。


「静まれ!」


 突然の私の行動にざわつく会場内を一喝した殿下はすぐさま周りに指示を出し始める。


「騎士団員は会場の安全の確保と貴族達の護衛に回れ。近衛兵は直ちにそこに転がってる使用人を取り調べ、事の詳細を聞き出せ。あとはここに何人か宮廷魔術師を召集し、私が飲もうとしたワインを入念に調べさせるのも忘れるな。」


 的確な指示に兵達が動き出すが、いまだに戸惑いが抜けない者が多いせいで行動が遅く見える。


「いつまでもたもたしている!早くいけ!」


 いつも街でしていた感じで不審者を捕縛するために動いたけど、これは少しやらかしちゃったかなぁ…。


 アイツは昔から慣れてるから分かってないけど、いまの私って突然使用人を氷漬けにしたヤバイ奴なんだよね。兵達が戸惑うのも良く分かるよ。捕縛するのこっちじゃないの!?って思ったんだよね多分。ごめんね。


 私がフォール公爵家の人間だから問答無用で捕縛されることはなかったけど、アイツがいなければ結構危なかったんじゃないかな。まぁ私は荒事担当だから、後始末とか細かいことはアイツに任せるけどさ。



 それから数十分後。


 ひとまず調査の結果が出たようで、陛下の元に当事者である私と殿下が呼び出された。ついでに私の付き添いとしてお父様も同行してもらってます。


 たどり着いたのは陛下の執務室。会議室とかじゃないし他に人もいないみたいだから、今回の件で色々と内密にしたいことがあるんだろうなぁ…。なんだか面倒事に巻き込まれそうで憂鬱だわ。


 殿下がノックをすると中から声がかかる。


「入れ」


「失礼いたします」


 入室する殿下に続いて私達も中に入れば、なんだか圧迫感を感じるような重厚な部屋と陛下が出迎えてくれる。なんか緊張してきちゃった。というか今まで普段通りだったのがおかしいのかな?


「早速だが、先程の件について今分かっている事を話そう。」


 そう切り出した陛下は重苦しい雰囲気を発しながら喋り始める。しかし思ってたより話が長くなったので、私の方から簡潔に説明するね。ごめん陛下。


 結果から言うと先程のワインからは致死量の毒が検出された。それを元に使用人に取り調べを行ったらしいが、当の本人は意識が混濁した状態でまともな話が出来ていないみたい。これは私のせいじゃなくて、恐らくは精神に作用するタイプの魔術が使われた可能性が高いとのこと。


 そもそも王太子殿下に直接お酒を渡せる程には信頼されていた人物らしく、何かしらの思惑に巻き込まれたと考えた方が自然でしょう。


 誰が何の目的で王太子殿下の命を狙ったのかについては未だに不明。パッと思い付く候補としては、第二王子派の連中やハーデス公爵一派が上がるがどれも推測の域を出ないらしい。元々危険のある立場故に候補が多すぎるのね。今までにも命を狙われる機会はあったが、ここまで直接的な行動は初めてで何か事態が動き出したかもしれない。


 以上が今分かっている事のあらましね。


 それにしても流石王太子サマ。色々と厄介な立場なのねー。これじゃあ街でやんちゃしたくなる気持ちも分かるわ。


 そして説明を終えた陛下は一度息をついて、何故か私に目を向けてくる。え、なんですか?もしかしてなんかやらかしちゃった?


「カンナ嬢。此度の働き見事であった。王として、そして一人の親としても感謝する。流石はドラセナ王国の盾と名高いフォール公爵家だ」


 ああ、ただ感謝されてるだけか。変に気構えて損しちゃった。


「いえ、当然のことをしたまでです。」


 そう、これは当然の事。フォール家は代々ドラセナ王国の軍部を司り、当主は王国軍元帥を務める。肥沃な土地柄故か、戦を仕掛けられやすい立場だった我が国を他国の脅威から守り抜いてきた武門の一族だ。まあそれを抜きにしても殿下は悪友だしね。


「そこで君の腕を見込んで一つ頼みがあるんだが、聞いてもらえないだろうか」


 あっ、これまずいやつだ。


「なんなりと」


 これ絶対良くない流れだって。面倒事の臭いがぷんぷんするもん。


「知っての通り、我が国では15才になった年に学園に通うことになる。自慢になるが我々王族や貴族が通う学園には他の学校に比べて高度な魔術的セキュリティや腕利きの教師達が揃っている。故に学園にいる間は安心して過ごせるだろう」


「しかし、今回の件で状況は一変したと見ていい。ここからは敵も何をしてくるか分からない。そこで我が国の王太子が無事に過ごす為に協力してほしいのだ」


 どうしよう、すごく断りたい。確かに私も今年から学園に通うことになるし、そこそこ強いから護衛としては最適なんだろうけどさ。私はもっと平穏な学園ライフを送りたいよ。答えに迷っていると陛下が追い討ちをかけてくる。


「無理な相談なのは重々承知している。だが、君にしか任せられないのだ。どうかよろしく頼む」


 陛下はそう言って頭を下げるが、流石の私もこれには慌ててしまう。国のトップに頭を下げさせるとか実質拒否権が無いのと一緒じゃないですか!はぁ、しょうがないか…。


「頭をお上げください。陛下にそこまで言われれば断る事など出来ませんよ。分かりました。その役目カンナ=フォールが引き受けましょう」


 私の言葉に、陛下は顔をあげ口元を緩ませて僅かに笑顔を浮かべる。あれっ、なんか少し嫌な予感。


「ありがとう。それならば早速会場に戻らなければな。皆にも説明をしてやろう」


「ちょっ、父上?!」


 そう言った陛下は颯爽と部屋を出ていく。そして取り残される私達。えっちょっと待って早くない!?突然のことにアイツも驚いているようだけど、急いで後を追わないと。


「殿下、早くいきますよ!」


 私の言葉に我に返ったらしい殿下の腕を引いて急かす。


「ははっ、アイツは相変わらずだな」


「お父様も急いで!」


 絶対良くないことが起きてる気がするんですけどー!?






 会場から微かに響いてくるのは陛下の声。


「以上が今回の事件で起きたことだ。」


 やばい、もう話終わりそうじゃん!


「フォール家のご令嬢が動かなければ今頃王太子の命は無かった。そこで、彼女の功績を讃えてある褒美を与えることにした」


 徐々に近くなる声だが、まだ届かない。待って待って待ってそんな事一言も聞いて無いんですけど!?


「皆も知っての通り今日は王太子の成人を祝う日であるが、このパーティはそれだけが目的ではない」


 それってまさか…。


 最悪の事態が思い浮かんだ私と殿下は、速度を上げて会場に駆け込む。



「それでは紹介しよう。先程、婚約関係を結ぶ事になったドラセナ王国王太子エドガー=ドラセナとフォール公爵家令嬢カンナ=フォールだ」



 そう。今日はただの祝いの席ではなく、婚約者探しも兼ねたパーティー。殿下の命を救った私に反対の声が上がるはずもなく、会場に集まった貴族が盛大な拍手と共に息の上がった私達を迎える。


 あのオッサン、謀ったな…!


 確かに具体的な協力内容は口にされていなかったけど、いくらなんでもここまでするとは思わないじゃん!


「さぁ、カンナ嬢。婚約者として彼らに挨拶するといい」


 ええい、憎たらしい笑顔ね!アイツのムカつく所まで似てるなんて流石血の繋がった親子。あーあ、ここまで話が進んでしまったらもう後には引き返せないだろう。ここは諦めて話を合わせるしかない。



「ご、ご紹介に預かりましたカンナ=フォールと申します。光栄にも本日から王太子殿下の婚約者となります。未熟な身ではありますが、殿下に相応しい女性となれるよう今後はより一層気を引き締めて精進いたします。皆様どうぞよろしくお願いします」


 くっ…。自分で言ってて鳥肌たってきた!挨拶を終えた私は一歩下がろうとするが、殿下がこちらに向き直ってきたので動きを止める。するとヤツは会場に響く声で話し出す。


「カンナ殿、先程は本当に助かりました。改めてこの場でお礼を言わせていただきたい。私の命を救っていただき誠にありがとうございました。」


 そして、街で遊んでた時と同じ意地の悪い笑顔を浮かべて続ける。


「この話が決まった時にはちゃんと話せなかったので、もう一度私の口から言わせていただきます」


「命を救われたあの時、凛々しくも美しいその姿を見て私の心は貴女に囚われてしまいました」


 目の前で膝をついた殿下は、私の手を取りながら言い放つ。


「どうか私の婚約者となって共に未来を歩んでいただけないだろうか」


 あー、ホント最悪。そんな事までされたらもうどうしようもない。ええ、いいでしょうとも。仕方ないからここは一旦負けてやるわ。だからせめてこの怒りが届いてくれる事を祈りながら応えてあげる。



「はい、喜んで」



 割れんばかりの祝福の声と拍手が響く会場内。これで私達の役目は終わり。あんな事件の後だし、落ち着いたら自然と解散していく流れになるだろうしね。


「素晴らしいプロポーズだった。私の息子は案外役者が向いてるかもしれんな」


 元凶が何やら言っているけど無視でいいや。初めて見たときの威厳溢れる王のイメージはすっかり崩れてしまった。


「それで、私達はもう退場した方がよろしいですよね?」


 もう疲れたし、お父様に確認をとってからさっさと帰ろう。でもその前に一つ言ってやらなきゃいけない事があるんだった。


「そうだな、二人がいると余計な時間が掛かりそうだ。後の事は任せて先に休んでこい」


「はい、それでは失礼いたします」




 会場を後にした私達は、無言で歩を進めながら人気の無い城内の一室に入り込む。要らぬ疑いをかけられないように隠蔽の魔術もかけたからこれで大丈夫。


 そして再び向かい合う私達。暫く無言で睨み合った後、合図も無く同時に口を開いて叫ぶ。



「「アンタ(お前)と婚約者とかマジで無理なんだけど!!」」



 こうして公爵令嬢である私は、5年来の悪友だと判明した王太子殿下の婚約者となったのでした。


叫び声の響く部屋には白い靄が漂っていたらしい


次回「王太子である俺が、婚約者となった5年来の悪友にキスをするまで」


よければポイント、感想などを送ってもらえると作者が嬉しくてニコニコしちゃいます!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 続編も読みましたが面白かったです [一言] 続編、またぜひぜひ書いて下さい!
[一言] ()の訳が面白すぎて、心の中で謎の奇声をあげてしまった私でした。……いいなぁ。私も悪友、欲しいなぁ。(それは絶対間違ってる) 続編もこれからすぐに読む予定です。(正直、感想書くよりも早く読み…
[一言] 続きはよ!はよ!
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