殻破り
「サリーさん!」
「あ! ユリウスくん!」
お腹の痛みを無理やり我慢してギルドに戻ったフェイは、流れる汗をも無視してサリーの元へ駆け寄る。
まだまだ人の絶えないギルド内で巨大バックパックを整理していたサリーは、お友達は大丈夫だった? と息を切らすフェイに声をかけながら、巨大バックパックのチャックを閉める。
「……ごめんなさい。まだ助けられてなくて、その……」
「……?」
肩で息をしながら謝ったフェイは、サリーの白藍の瞳を見つめ、決意したように声を吐き出す。
「お金は……お金は払います……。だから……僕とダンジョンに来てくれませんか!」
そう言って勢いよく頭を下げたフェイは、固く目を瞑る。
今まで人に物を頼んで許可されたことなどない。
毎回断られ、受け入れられてもその何倍もの対価が必要……。
いつからか物を頼む事すら拒んでいた――
一人で何でもやってきたそんなフェイが今日、サリーさんなら……きっと信用してくれる! と、殻を破ったのだ。
偽友達の命の為に――
そんな本気のフェイの姿を丸くした目で見つめるサリーは、巨大バックパックを背負いあげ、ゆっくり立ち上がり口を開いた。
「ごめん……。それは出来ない」
「……え」
ただ一言だけそう告げたサリーは目を前髪で隠しながら、お金貰いに来るからまた明日ここで。と冷たい声を残し、スタスタとギルドを出て行った。
「…………」
一人残され、頭を下げたままのフェイは、己の角をまた恨み、涙を飲んだ――
そりゃあそうだ。
サキュバスとのハーフである自分を無償で助けるという事は、人間を裏切るということ。
モンスターの子供と言うだけで嫌われるのに、ましては淫魔の子供なんて……。
それは嫌われて当然のことだ――
正直、父が英雄じゃなければ、とっくの昔にこの街から排除されていただろう……。
今までされてきた悪い事は全て自分のせい。皆は悪くない。もちろんサリーだって悪くない……悪いのは、
自分自身――
悔しさを胸に抱き、どうしようもない現実に苛立ちながらサリーの後を追うようにフェイはギルドを出る。
皮肉にも外は死ぬほど快晴、心と対称的なその空はフェイを全力で焼き尽くした。
「――ちっくしょう……! ちくしょう……ちくしょうッッッ!!!」
己の運命のせいで友すら助けれない、弱くて汚い自分が心の底から嫌いだ。
誰も悪くない。お父さんもお母さんも、周りの人達も!
「全部全部、僕が悪いんだッッッ!!!!」
そうして涙を拭うフェイは、己の姿を一目見ただけで距離を取る人達の横を駆け抜けながら、全速力でダンジョンへ向かった――
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