アイテムメイカーの助け
「お腹すいた…………」
ダンジョン野宿二日目。
バックパックに入っていた食料と水分を完全消費してしまった。
「もう僕……ここでのたれ死ぬのかな……」
ぐ~となるお腹を擦りながら寝転がったフェイは、二日間ずっと共にしているモンスター達を見やる。
「ゴブリンにシャドーファイターにリトルオーク……、いいなぁ君達は自由で……」
随時呻き声をあげるモンスター達は、時が来ればこの小さな小部屋から抜け出していき、更なる冒険者狩りへと出かけていく。
実際フェイはもう何十体と見てきた。
そしてその数分後にまた違うモンスターが産まれ落ちるのだ。
終わらぬ出産にもはや希望は無い――
意識が朦朧としてきたフェイは、新たに産まれ落ちたゴブリンを見ながら、おめでとうと笑った。
「仲間だね……」
『ゴブゥ……』
自分が人間なのかなんて産まれた時から分からなかった――
人間として扱われず化け物として扱われた自分が、本当に人間と同じ生活をしていいのかなんて分からなかった――
サキュバスとのハーフの自分が結局何者なのかも分からない――
そんな事を考えてしまったフェイは、現実から逃げるように腕で目を隠す。
「僕、人間からも嫌われて、モンスターからも嫌われるのかな……半端な生物はやっぱいらないよね……」
ヨダレを垂らしながら初めて見た獲物を喰らいつこうとするゴブリン。
冒険者は喰らうべき相手であり、敵だと言わんばかりの形相を浮かべるゴブリンの迫力に負けて、フェイは思わず後ずさる。
「僕は……もう…………」
自分の左側の生え際に生えた小さな角を触ったフェイは、情けなく尻もちを着いた状態で後退しながら涙を浮かべる。
「僕は……もう死んだ方がいいんだ――」
『ゴブゥゥ、ゴブゥゥ!』
そんなお前の事情など知らないとばかりに木の檻を齧り続けるゴブリンは、目を見開き、赤眼を輝かせながら手に持っている棍棒で檻を殴ろうとした……、
その時だった――
「はいはい邪魔邪魔~、私の商売の邪魔する奴は全員殺すからねぇ」
『ゴブゥッ!?』
それは二つの硝子球。
緑色の液体と黄色の液体が入ったそれらは、ゴブリンに当たりパリンと割れる。
直後――
液体のかかったゴブリンは、木を齧るのを辞め、気の狂ったように近くにいたリトルオークを喰らい始めた。
『ゴァァァァ!』
『ゴブゥゥッッッ!!!』
「あはははっ! さすが私のアイテム達! 最高ね!」
何が起きたか分からないフェイはポカンと口を開けたまま、檻の外で起こる出来事を呆然と見入る。
「仲間割れ……?」
ゴブリンに続き、リトルオークが最後の一匹となったシャドウファイターを喰らい初めた辺りで、この小部屋にいたモンスター達は意識を失うようにパタリと膝から崩れ落ち、白いオーブへと姿を変えた。
「はーはっは! さすが私! 天才すぎ~!……っと、それはいいとして、そこの人、お困りのようですねぇ~、私と取り引きしませんか?」
「え?」
そう言ってニヤリと笑ったヒューマンの女性は、その美しい水色の髪の毛を小部屋に流れ込む不気味な風で靡かせた――