謝罪冒険者の平常運転
「どうして……どうしてこんな事になった……?」
――ダンジョン一階層
冒険者歴一ヶ月の少年フェイ・ユリウスは、ダンジョンのトラップである【樹の監獄】に見事に引っかかっていた。
地面から生え渡る太い木の根が、フェイの頭上で絡まり合い、言葉通りの監獄を作り上げている。
「キール達ここに宝箱あるって言ってたのに……。僕地図の見方間違えたかな……」
特に目立った防具すら付けていないフェイは、手に持っている地図に目を落とす。
ちなみにこの地図は、ダンジョンの入口で同級生であるキールに貰ったものなのだが……。
「どうしよう……宝箱どころか、ここは…………」
『グァァ――』
『ギギギ……』
『ゴァァ――』
怪物の出産部屋――
モンスターが生まれ落ちるこの場所は、冒険者が近づいては行けない危険地帯……。
そんな事も知らないフェイは鼻歌交じりに足を踏み入れ、まんまとトラップに引っかかったという訳だ。
「まぁでも、キール達が来てたら大変な目に合ってたって事だよね……それを阻止出来たってことでいっか!」
フェイは馬鹿である――
騙されたことにも気づかないで、人の心配を優先する大馬鹿者である――
謎に笑顔を見せた後、地図を小さなバックパックにしまったフェイは、何ですかそれと言われそうなおもちゃナイフを右手に持ち、へっぴり腰でそれを構える。
ここのトラップの目的は冒険者の足止め。冒険者が涙を飲んでいる間にモンスターを集めさせ、それから一気に解放させる――言わば迷宮の餌やりだ。
「やばばばば、流石にこれ……死んじゃうよ!」
いつトラップが解除されるか分からない恐怖を味わいながら、フェイは震えながらモンスターを涙目で見る。
「怖い……もうモンスター6体いるじゃん!!」
餌まだですかと眼をギラ付かせるモンスター。そんな殺眼と目を合わせる度に、ひぃぃ! と声を零すフェイは、誰か助けてくださいぃぃ!! と大声で助けを求め続ける。
その僅か数秒後だった。
「そこに……そこに誰かいるの?」
それはフェイが先程来た方向から聞こえる足音。
ザッザッという音と共に鎧が擦れる金属音がダンジョンに響き渡る。
男の人かな? とじっと見つめるフェイの瞳に映ったのは、見慣れた赤髪の冒険者……、
「……キール?」
それはダンジョンに入る前に会ったばかりの同級生の姿。
大剣を担ぎ、ピカピカと輝く鎧を身にまとった、クラスで一番強い冒険者。
そんな頼りになる同級生は、フェイを見るなりバレないようにニヤリと口を歪め、
「よぉフェイー! 宝箱は見つかったか? まさかもうこんな所まで来てたとはなー、さすがフェイだな!」
「~~~~~~~ッ!」
嬉しかった――
助かったとフェイは心から安堵した。
ゆっくり近づいてくるキールの姿が英雄にまで思えた。
流石主席だよぉぉ! とペタリと座り込んだフェイはナイフを鞘にしまい、ありがとうと笑顔を見せる。
「フェイはそんなところで何してるんだー?」
トラップにかかったフェイの姿を不思議そうに見るキールは、笑い混じりにそんな言葉を投げ掛ける。
その言葉にはっとしたフェイは、モンスターが周りにいることを思い出し、咄嗟に声をあげる。
「そうだキール! ここ宝箱があるんじゃなくて、モンスターガーデンがあったんだ! いっぱいモンスターいるから気をつけて!」
そんなワタワタするフェイの言葉と同時に、その場にいる約半分のモンスターの眼光がキールに向けられる。
しかしキールは何処か余裕な笑みを浮かべたあと、大根役者モードで言葉を返した。
「まじかぁ! それは大変だ! じゃあ、俺一人じゃ厳しいなぁ! よしっ! 助け呼んでくるわ! そこで待ってろよフェイ!」
「分かったぁ! 気をつけてね!!」
何故か身を心配する立場に変わったフェイは、高速で帰っていくキールを見て、あんなに心配してくれてるよぉ! と嬉しさで胸を溢れかえらせた。
「やっぱり持つべきものは友達なんだよ~!」
しかしそれから二日間、誰も助けに来なかった――
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「ねぇ……ダンジョンさん。もしかしてさ…………僕の事、冒険者だと思ってないでしょ」
強ければ強いほど冒険者は餌として価値がある。
自動的に選別を行うダンジョンは、フェイを冒険者として判断しなかったのか、トラップはいつまで経っても解除されなかった。
これが運がいいのか悪いのかは分からない。
ただ一つそんな中でフェイが気にしていたことは……。
「キール大丈夫かな……僕を助けようとして無理とかしてないかな…………」
裏切り者の安否だった――