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復讐の為だけに聖皇后となりましたが……何か?  作者: 当麻月菜
手のひらで転がされているかもしれませんが......何か?
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5

 窓の向こうで側室達に囲まれているアルビスは、嬉しそうに微笑んでいるわけではないが、迷惑そうな表情もしていない。


 シダナとヴァーリは側近らしくアルビスの後ろに控えてはいるけれど、彼らも同様に女性達を諫めることはしない。じっとアルビスが歩き出すのを待っている。


 一方、アルビスを取り巻く女性達はとても楽しそうだった。


 渡り廊下に寄り添うように、ユキヤナギによく似た常緑低木が植えられている。流れるように咲くその花は真っ白で、明るい色のドレスを着た女性達をより一層華やかに見せている。 


 側室の一人がはしゃいだ様子でその場で軽く撥ねたのが、カレンの視界に映った。


 よほど嬉しかったのだろう。ふわりと女性の黄色のドレスの裾が軽やかに舞った。


(ふぅーん。あの人が今夜の夜伽の相手なんだ)


 そっと息を吐くカレンは、これが安堵からくるものなのか、苛立ちを押さえる為にしたのかわからない。でも嫉妬ではないことは確かだ。


「……最初からそうしてくれればいいのに」


 窓から視線を逸らさずに呟けば、横から強い視線を感じた。


 リュリュが何か言いたげな表情をしているのは、見なくてもわかる。


 今出した言葉が憎まれ口に聞こえたかもしれないが、そのことについて触れられたくない。


 カレンは我知らず俯いた顔を上げて、再び窓へ視線を戻す。

 

 一瞬目を離した隙に、もうアルビスたちも愛人たちもいなくなっていた。


 シダナが議会がうんちゃらと言ってたから、そこに向かったのだろう。


 カレンは復讐の為だけにアルビスと結婚したけれど、アルビスはそうは思ってないのかもしれない。

    

 表面上は申し訳ない顔をしているけれど、彼は聖皇帝になり地盤を固めることができた。好き勝手に女性の元に通える権利だって持っている。


 この結論に至った途端、こうやって感情を揺さぶられることすら、アルビスの手のひらで転がされているようで腹が立つ。


 それと同時に、あの日──凍えるような森の中での出来事を思い出してしまう。


 カレンもアルビスも真冬の外堀を泳ぐという不運に見舞われ、ボロボロの状態だった。そこでカレンは、アルビスに自分のことを好きかと問うた。


 アルビスは好きだと答えた。

 

 続けざまに愛しているかと問えば、何ものにも代えがたい程愛しているとアルビスは澱みなく答えた。


 極限の状態で聞いたあの言葉は、嘘も偽りもなかったはずだ。もしあったのなら、騙された方が悪いと思うほど真実の匂いしかしなかった。


 だからカレンは、アルビスと結婚することにした。


 自分のことを愛しているからこそ、すぐ傍でその気持ちを踏みにじってやろうと思った。それが自分ができる精一杯の復讐だと思った。


 アルビスは結婚を決めた後、カレンが出した条件をほとんど守っている。


 触れないのはもちろん、無遠慮に顔を見せたりもしない。同じ敷地の中で生活をしているのに、2ヶ月間で顔を見た回数は数えるほど。


 女官長であるルシフォーネに説得され、リュリュを同席するならという約束で迎えた初夜ですら、アルビスはカレンに指一本触れることはなかった。

 

 当然のように短剣で自身の腕を斬り付け、それをシーツに押し当てて事が無事に済んだような偽装をした。

 

 さすがに驚くカレンに向かい、アルビスは「悪いが、あまり早いとうるさく言ってくる連中がいるから」とバツが悪そうな顔をして、少し時間を潰して部屋を後にした。


 そう。アルビスはカレンとの約束をほとんど守っている。カレンとて、被害者は無限に加害者へ要求できる権利があるなどとは思っていない。


 でも涼しい顔をして愛人たちに囲まれているアルビスを見れば、どうしたって不愉快な気持ちになってしまうし、自分が執務室を出た後、アルビス達は憤慨した自分を見て馬鹿だと笑っていたのかもとすら考えてしまう。


 こんなふうに悩むくらいなら、いっそ真実を確かめるべきとカレンは思う反面、アルビスが紡ぐ言葉が本当かどうかなど、見極めることができない。


 カレンには騙された過去がある。コケにされて傷付いた実績だってある。


 加えてカレンはアルビスに無理矢理抱かれて以来、甘味を感じることができなくなった。少しずつ味覚は戻りつつあるけれど、それでも完全に戻るかどうかわからない。

 

 そんな状態で何を信じればいいのだろう。


 この半年近くで色んな事がありすぎて、心のキャパはとっくにオーバーしている。これ以上心に負担をかけるのは自虐行為になりかねない。


 悩んだ挙げ句、カレンはもやもやした気持ちを無理矢理押し込めることにした。


「図書室に行きたいんだけど……ごめんなさい、ちょっとここから最短ルートがわからないんで。リュリュさん、道案内をお願いしてもいいかな?」


 カレンは気持ちを切り替える為にわざと明るい声を出して、リュリュに問いかける。 


「……かしこまりました」


 何か言いたげなリュリュだったけれど、少しの間の後、いつものように柔らかい笑みを浮かべ、カレンを図書室へと案内した。


 並んで歩く二人の空気は、ぎこちないものだった。

 ここまでが「皇帝陛下の寵愛なんて〜」のおさらい(?)です。


 この話から読み始めるにあたって、この説明だけで良いのかなぁ?と不安になるうちに、文字数が増えてしまい2章にわたってしまいました。申し訳ないです(><)


 長々とお付き合いいただきありがとうございましたm(_ _"m)


 次の章から、やっと動き始めます(o*。_。)oペコッ

 新キャラもでます。

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