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復讐の為だけに聖皇后となりましたが……何か?  作者: 当麻月菜
自ら誘拐されてあげましたが……何か?

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6

 ウッヴァの不遜な態度が崩れていく。薄暗く息が詰まる部屋の空気が、哀愁を帯びていく。


 背後に立つリュリュとアオイが、小さく息を呑むのが気配でわかった。


「ねぇ、おじさん……」


 思わず「泣いてるの?」と尋ねそうになって、やめた。


 ウッヴァはカレンが言葉を止めても、項垂れたまま肩を震わしている。何も言わないし、こちらを見ようともしない。


 それがとても、もどかしい。彼が伝えたかったのは一体何だったんだろう。何を求めていたのだろう。もしかして『金と名誉と地位』とかじゃなくって、もっと別の何かだったのだろうか。


 今のウッヴァは、神殿の守り人の仮面を外した、ただのおじさんだ。自分ひとりじゃ抱えきれない悩み事を抱えて、苦しんでいる。


 きっとこの苦しみから解放されたくて、自分に救いの手を求めたのだろう。欲望を満たしたかったのではなく、助けてほしかったのだ。


(だったら、こんな回りくどいやり方なんてしなくていいのに)


 こんなやり方は間違っている。人の心を動かしたいなら、もっと別のやり方がある。


「おじさん、やって欲しいことがあるなら、ちゃんと言って。押し付けたりなんかしないで。思い込みだけで話をしないで。そうしたら、私……ちょっとはあなたの話を聞くよ」


 異世界人だからとか、聖皇后だからとか、そういう線引きをしないで。


「私、おじさんが思ってるよりも、できることは少ないよ。やりたくないこともいっぱいある。でも……できなくても、できないなりに一緒に考えるよ」


 ついさっきまで関わり合いたくないと思っていた相手に、こんな言葉をかけてしまうなんて。急激な心の変化に、カレン自身が戸惑ってしまう。


 でも不思議と不快ではない。


「私に何をしてほしいの?何を求めてるの?ねえ、おじさんの言葉で、聞かせて。教えてくれなくっちゃわからない。なんにも答えられないよ」


 カレンが心を込めた言葉はウッヴァに届き、彼はゆるゆると顔を上げる。そして初めて、()()()()()()


「……あなた様じゃなきゃ、できないことなのです」


 絞りだしたウッヴァの声音はか細く、震えていた。


「私じゃなきゃできないことって、何?」

「……それは」

「うん」

「この神殿の……大切な……」

「うん」

「わ、わたくしが命より大事にしております……」

「うん……ん?ど、どうしたの??」


 辛抱強くウッヴァの言葉に耳を傾けていたが、急に部屋の空気が変わった。


 ピリピリと肌を刺すような緊張に包まれ、ウッヴァの表情が凍り付く。


 何事かと、椅子に座ったままの状態で振り返る。リュリュとアオイを見ようとしたカレンの目が、限界まで開かれた。


「ちょっと、何であんたがここにいるのよ」


 これ以上無いほど嫌な顔をされたカレンに、乱入者──アルビスはバツが悪そうにしながらも、口を開く。


「鐘の音はとうに鳴った」

「は……?」

「門限を守らないなら、迎えに行くのは当然だろう」

「え……意味わかんないんだけど」


 門限が定められているなど、聞いていない。


 何をしてもいいと言われても、結局は護衛と称して四六時中誰かに監視されているのに、一方的に門限まで定められていた現実に、カレンはカッとなる。


 これでは動物園のサルと一緒ではないか。


「そんなの聞いてない」

「聞かれてはいないから、伝えていない」

「なにそれ──もういい。出ていって」


 これ以上付き合っていられるかと、カレンはアルビスに背を向ける。


 姿勢を元に戻した先にいるウッヴァは、委縮しきっていて、もう話せるような状態ではない。


(ああっ、もう!)


 やっとウッヴァと向き合うことができたのに。これじゃあ、台無しじゃないか。


 これまでの苦労が水の泡になってしまったカレンの怒りの矛先は、もちろんアルビスだ。


「どうしてくれるのよ、もう!」


 バンッとテーブルを叩いて立ち上がったカレンは、再びアルビスと向き合う。


「あんたねぇ、突然出てきて……っ、ちょ、リュリュさん──んぐっ!」 


 アルビスに噛みつこうとしたら、なぜかリュリュの手によって口を塞がれてしまった。


 侍女のまさかの裏切りに、カレンはくしゃりと顔を歪ませる。


「ご無礼をお許しください。そして、どうか少しの間だけご辛抱を……後で、どんな罰でも受けますので」


 囁かれた声音は、カレンを案じる響きだった。

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