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予想をはるかに上回る二人のリアクションに、カレンはしゅんと肩を落とした。
「……そっか。駄目か」
正直、ここまで強く反対されるとは思わなかった。
「でもリュリュさんにお金を出してもらうのは嫌。自分でなんとかしたい」
「ですが、リュリュはお金を使わないので使ってもらえたら光栄です」
「あ、僕もそこそこ貯まってるから使ってよ。使うあてなんてないしさ」
「そんなのやだ」
有り難い提案だけれど、カレンは首を横に振る。
とはいっても、先立つものがない以上、何もできないのが現実だ。
いっそ自分のために用意されたドレスとかを、売り払ってしまおうか。いや一番だめだ。だってこれは借りているだけ。アルビスからの支給品なんて誰が受け取るものか。
などとブツブツ呟いていれば、ロタがおもむろに立ち上がった。
「じゃあ、カレン様抜きにして僕とリュリュさんの二人だけで話を進めさせてもらうね。リュリュさん、それでいいよね?」
「さようですね。わたくしも縁あってお知り合いになれた子供達を個人的に救いたいと思っておりますので、今回ばかりはあなたと手を組むことにいたしましょう」
「そうこなくっちゃ。僕さぁ、毒殺できない花の説明を受けたのって、あそこが初めてなんだよね。いいところだよねー。だから無くなって欲しくないんだ。ってことで、リュリュさん、向こうで話を詰めよっか」
「わかりました」
「ちょっ、ちょっと待ってよ!!」
阿吽の呼吸でテーブルから離れようとした二人を見て、カレンは縋るように二人に手を伸ばす。
仲間外れなんてひどい。そんな抗議も入れて、カレンはリュリュの腕をギュッと握った。
カレンの行動は予想通りだったようで、ロタはにんまりと笑うと、ピンっと人差し指を立てた。
「じゃあさ、役割分担しようよ」
「役割……分担?」
「そう。人には適材適所があるからね。僕とリュリュさんは出資者。カレン様は孤児院の交渉役。アイデアはみんなで捻りだそう」
「な、なるほど」
ちょっと無理はあるなと思ったけれど、納得できないものではない。
「どうかな?カレン様。あと、実は来月あそこで寄付金目当てのバザーがあったりするんだよね。そこでなんかバシッとインパクトのある品を出せば、目新しいものに飢えているお貴族様はこぞってお金を落としてくれると思うよ。それに現金をポイッと渡すより、永続的に販売できる何かを教えてあげる方が一時しのぎにもならないし、神殿側も悔しがると思うんだよねー」
将来詐欺師になるのでは?と不安になるほどロタの口調は流暢で心配だし、バザーのことはもっと早く教えてよと思った。
けれど、この情報が完璧な決め手になった。
「わかった。私、やる。えっと……悪いけどお金の面は協力してくれるかな?」
カレンの窺うような口調に、リュリュとロタは満面の笑みで頷いてくれた。
それから仕切り直しに三人分のお茶を淹れたリュリュは、本日始めてテーブルに着席する。カレンはチェストから紙とペンを取り出し、テーブルに広げた。
「じゃ、さっそくだけど孤児院救済の会議を始めよっか」
理不尽な現状にもがき続けることに、時折目の前が闇に閉ざされるような疲労感に襲われる。
ただただ毎日、書物を読み漁って、時間の許す限り神殿に足を運んで……それなのに何も結果を生まない毎日に、何をやっているんだと脱力したくなるが、やめてしまえば何もかもが終わりになる。
(自分勝手で何が悪い。この世界の摂理に逆らい続けなければ、私は私でなくなってしまう)
止めるのは簡単だ。誰かに強制されたわけでも、命令されたわけでも、何かと取引をしたわけでもない。
「カレン様。そんなガチガチにならないで大丈夫だよ。それに、これまでさんざん反抗してきたんでしょ?今更、この程度でビビるなんてらしくないよ」
慰めにしては随分なことを言われたカレンは、ロタに向けて「ちょっと!」と抗議の声を上げながら苦笑する。
【反抗】は自らの主張を貫くこと。【抵抗】は、理不尽な外部からの力を跳ね返すこと。
似て異なるそれは、元の世界でも良く口にしていた言葉だ。けれども、本当のところちゃんと意味を理解していない。そして、これからやりたいことは二つのうち、どっちなんだろう。
そんなことを考えながら、カレンはリュリュとロタに向かって背筋をぴんと伸ばした。




