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復讐の為だけに聖皇后となりましたが……何か?  作者: 当麻月菜
ささやかな反抗をしますが……何か?

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 王城に到着したカレンは、自分の部屋にリュリュとロタを招き入れた。そして孤児院での一件──ストーカー守り人のことをロタから聞いた。


 最初はどうやって転ばせたのかを知りたかっただけなのだが、話はどんどん深くなり、気付けば教会と神殿が対立しているという話になってしまった。


 メルギオス帝国には国教はなく、長い間、神殿が民の祈りの場になっていた。

 

 けれど、何代目かわからないずっとずっと前の代の皇帝がラッタという小国を統治下に置いたのを機に、教会がメルギオス帝国に生まれた。


 ただ当時メルギオス帝国において信仰の場はあくまで神殿で、教会は医療や学び舎などの公共施設だった。


 役割をきっちり別けた神殿と教会は、絶妙なバランスを保ちながら年月が過ぎた。でも魔法が廃れてしまえば当然、神殿への信仰心も薄れていく。


 反対に、無償で治療や教育を行ってくれる教会に、民は信頼を寄せていった。

 

 均衡が崩れてしまった今、神殿は民にとってはただの憩いの場。貴族の寄付も少額になり、逆に教会は金銭的に潤いを増していった。


 そんな中、カレンがアルビスによって召喚されてしまった。


 カレンにとったらアルビスとの結婚は復讐のはじまりでしかないけれど、神殿の守り人にとったら、気が狂わんばかりの幸運だった。


 失われた権威を取り戻そうと、守り人たちは「聖皇后陛下が、我々の後ろ盾になってくださる」と、あちこちに伝え回った。


 自分の預かり知らぬ間に、そんなことになっていたことを知ったカレンは怒りのあまり、テーブルを叩きつけて立ち上がった。


「私、そんなこと言ってないよ!!」

「うん。知っている。あとカレン様、話まだ終わってないから座りなよ」

「カレン様、お茶を淹れ直しますので。どうぞこちらのお菓子をお召し上がりください」


 ほぼ同時にリュリュとロタからそう言われ、カレンはしぶしぶ着席したが、怒りは当然収まらない。そんなカレンを、ロタは不思議そうに見つめる。


「ねえカレン様、一個聞いてもいいかな?」

「どーぞ」


 リュリュが淹れ直してくれたお茶で、気持ちを落ち着かせようとしていたカレンは、ティーカップを持ったまま頷いた。


「あのさぁ、僕、カレン様がそんなに怒っている理由が良くわかんないんだよね」

「は?なんで?」

「だってカレン様は、神殿大好きじゃん。毎日通っているし、外に出る時は絶対に神殿に立ち寄るし。っていうか、神殿に行きたいから孤児院に行ってるって感じだし。……ねえ、カレン様。どうしてそんなに神殿が好きなの?」

「あ……あー」


 カレンは何と答えていいかわからず、お茶を飲んで場を濁した。


 そうだ、確かにそうだ。ロタが疑問に思うのはもっともだ。

 

 でも今、彼に向かって『元の世界に帰る方法を探すために、せっせと神殿に通っている』など、どうして言えようか。


 ロタは再会できたことを喜んでくれた。そして自分の護衛になってくれたから、牢屋から出ることができた。


 もし自分が元の世界に帰ったら、ロタはどうなってしまうのだろう。また牢屋に逆戻りか。いや考えたくはないが、最悪、不要と判断され命を消されてしまうかも。


 可能性が十分ありすぎる予測にカレンは思考を止めてお茶をぐいっと飲み干し、気持ちを落ち着かせる。


「神殿は好きじゃないよ。ただ、興味があるだけ」

「ふぅーん」


 ロタは納得できていない様子だが、それ以上質問を重ねることはしなかった。けれど、沈黙はしない。


「王様はね、神殿の連中が勝手なことを言いふらしているのを知ってるんだ」

「……へー」

「でもね、見てみぬふりをしてるんだ」

「どうして?」


 純粋に疑問に思って首を傾げたら、ロタは呆れ顔になった。


「だからさ、それはカレン様の為だよ。……って、カレン様は本当に王様の事が嫌なんだね。眉間の皺、すごいよ。じゃなくってさ、王様はカレン様が神殿に行きにくくなるのを恐れて神殿の連中を放っているんだ」

「いやでも、嘘を吐いてるのを見過ごすのって、皇帝陛下としてどうよ?それに私が行きにくくなるとか、ならないとか、そんなのあの人が決めることじゃないじゃん」

「あー……それは神殿ってのは、ちょっと特殊で門の開閉の権利は神殿側にあるんだ。だから王様が咎めた場合、最悪守り人たちがヘソを曲げて帝国中の神殿の門を閉ざすかもしれないんだ」

「子供かっ」

「うん。アイツらみんなガキ」


 最後はノリ突っ込みのテンポでロタは答えたが、それ以降は部屋に沈黙が落ちる。


 ロタが言ったことが真実なら、神殿を暴走させたのは自分のせいだ。


 国の母である聖皇后が、よもや元の世界に戻る手がかりを掴む為に神殿に通っているなどこの帝国中の誰もが思うわけがない。


 もちろんカレンとて、それを声高々に訴えることはできない。そんなことをしてしまったら、妨害されるに決まっているから。


 アルビスの取った行動は、神殿側の暴走を更に助長させるものだったが、そうせざるを得なかったともいえる。夜会でウッヴァだけ会話を許されたのも、同じく。


 孤児院での行き過ぎたウッヴァの行動を、ダリアス達が止められなかったのは、きっと神殿側を刺激するなとアルビスに命じられていたからなのだろう。


 カレンとて神殿の門を閉じられるのは困る。だからといって、あんな連中にいいように扱われるのは腹が立つ。


 ムカムカとした感情を抑えくれなくて、カレンは親指の爪を噛む。同時にロタが「あ、言い忘れてた」と前置きして、かなり重要なことを語り出した。


「カレン様が神殿の後ろ盾になったってことは、貴族連中も知ってるんだ。馬鹿みたいに、神殿の守り人たちが言いふらしているからね。で、色んな施設に支援するのは貴族のステイタスなんだけど、今、そのお金はもっぱら神殿に集まっているんだ」

「なんですって!?」


 再び立ち上がったカレンに、ロタは何度も頷く。すぐ横で控えているリュリュも、こくこくと頷いた。


「じゃあ、あの孤児院が貧乏なのって私のせい?!」

「……うんとは言えないけど、まぁそれに近いよね……リュリュさん」


 頬をぽりぽり掻きながらロタの視線は、カレンから侍女に移動する。カレンもつられるようにリュリュを見る。


 4つの視線を受けた侍女は、少し迷ったけれど「はい」ときっぱりと言った。その瞬間、


「ああぁぁぁっっ!!」


 カレンは、髪を掻きむしって叫んだ。


 ロッタとリュリュがぎょっとしているのが見えるが、やめられない。


 望みは一つ。ただただ元の世界に戻りたいだけ。憎むべきはアルビスだけ。


 ブレたことなど一度もないのに、知らず知らずのうちにたくさんの人に迷惑をかけてしまっていた。


 そのことがたまらなく申し訳いと思う反面、やっぱり自分の意思は曲げることができない。


 考えれば考えるほど思考の糸は複雑に絡み合い、カレンは途方に暮れてしまった。

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