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ロタにデリカシーのない質問をしてしまったカレンは、すぐに謝ろうと思った。でも、その場限りの”ごめん”は何だが違うような気がして、違う言葉を口にした。
「……君は、私と一緒なんだね」
「一緒?ねえ、聖皇后さま、それってどういう意味?」
ロタは不思議そうに、目をくりくりとさせている。
その姿は、やっぱり冬馬によく似ていて、カレンはこんな時なのに懐かしさを覚えてしまう。
「私ね、カレンっていうの。でも、ここの人達は私の事、聖皇后って呼ぶよね」
「ああ、なるほどね」
頷いたロタは、伝えたいことを汲み取ってくれたようだ。
「じゃあ、僕はカレンって呼んでいい?」
「うん、そうしてくれると嬉しいな」
カレンが笑って頷けば、ロタはすぐに名前を呼んでくれたが、すかさずリュリュが「呼び捨てなどいけませんっ」と口を挟む。
そんな硬いこと言わないでと言いたくなるカレンだが、侍女という立場を考慮して、肩をすくませて終わりにする。
(やっぱ、名前で呼ばれるのっていいな)
名前はとても大切だ。己が己であることを証明できる唯一の手段だ。
カレンは異世界に無理矢理召喚され、たくさんのものを奪われた。名前もその一つだ。
聖皇后と呼ばれる度に、元に戻りたいと思う気持ちを削られていくような気持ちにさえなっていた。
だから心を許せる人には、名前で呼ばれたい。呼ばれる度に、自分がこの世界の住人ではなく、帰るべき場所があることを教えてくれるから。
紆余曲折あったとはいえ、ロタとは友達になりたい。なら、ちゃんと名前で呼び合いたい。
「……ねえ、一緒に考えてみない?君の名前」
「え?」
思わぬ申し出に、ロタは信じられないものを見る目になったが、拒絶はしない。戸惑ってはいるけれど。
「だって”君”とか”ねぇ”って呼ぶのは変だよ。それにいっぱい人がいる時だと、困るし」
「うん、そうだね。でも、僕は聖皇后……あ、カレン様に名付けて欲しいんだけど……」
「え、や、無理」
「無理って……それは酷いなぁ」
しゅんと肩を落としてしまったロタは、もう一度上目遣いで「駄目?」と聞いてくる。
(反則だよ、もうっ)
そういう憎めないところも、冬馬に本当に似ている。
冬馬も大好きなおかずが欲しい時は、決まって上目遣いでねだって、お皿に残った最後のとんかつを奪っていった。
ズルいと思ったし、文句も言ったけれど、カレンはそのワガママを、なんだかんだ言ってすぐったい気持ちになって受け入れていた。
とはいえ名前となると、話は別だ。
「ごめん。私、名付け親になったことがないから……リュリュさん、お願い!私一人じゃ、無理!一緒に考えてっ」
無関係な人間を巻き込むなんてと思うけれど、リュリュは苦笑いをしながら頷いてくれた。
ロタに視線を向ければ、向日葵みたいな顔で「なるべく早くしてね」と、要求が追加されてしまった。
ものすごいプレッシャーがのしかかっているけれど、カレンは思わぬ再会に心が和らいだ。
でも、これで終わりではない。ここからが本題だった。




