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復讐の為だけに聖皇后となりましたが……何か?  作者: 当麻月菜
まさかの再会に驚きましたが……何か?

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11

 カラカラと音を立てる車輪に合わせて、カレンはロタの言葉を頭の中で反芻する。


 何度も何度も考えて末、出てきた言葉はたったこれだった。


「……嘘」

「嘘じゃないよ」


 辛抱強くカレンの返答を待っていたロタは、肩を竦めながら食い気味に否定した。


「王様は、ずっと聖皇后さまのことばかり考えているよ。聖皇后さまが傷付かないように、平和に過ごすために、嫌な思いをしないために。僕が牢屋から出ることができたのだって、そのおかげさ。だって、僕がずっと牢屋に入れられていたら、聖皇后さまが苦しむだろうから。でも、僕は自分で言っちゃアレだけど、どこに置いていいかわからない危険な存在だからね。それに城内で僕の世話になった奴だっているし」

「それ誰?」


 鋭く問うたカレンに、ロタは人差し指を己の唇に当てて「内緒」と笑う。


「言っちゃいけないんだ。それに聖皇后さまには危険が及ばないから、安心して」

「……うん」


 納得できないままカレンは頷けば、ロタは再び語り出す。


 余程、聞いて欲しいのだろう。ロタの身体は前のめりになっている。


「それでね、僕から王様に提案したんだ。僕は変装が得意だし、側室が住まう後宮は噂の宝庫。王様にとって為になる情報を簡単に得ることだってできるしね。それに──」

「その辺にしときなさい。あなたは少しお喋りが過ぎます」


 とめどなく語るロタを止めたのは、リュリュだった。


 でも、リュリュがあと少し遅かったら、カレン自身が止めていた。それくらい不快だった。


 傷付かないように。

 平和に過ごすために。

 嫌な思いをしないために。

 

 ロタの口から語られたアルビスの想いを聞いて、カレンは馬鹿なのか?と思う。


 今更そんなふうに想われても遅いのだ。


 そんな他人を思いやる気持ちがあるなら、どうして召喚してすぐに自分の言葉に耳を傾けてくれなかったのだろう。確かにアルビスは、結婚してから大切に扱ってくれている。


 夜会では、官僚から庇ってくれたし、セリオスからの追及だって助けてくれた。読みたいと思う本は、どれだけでも用意してくれるし、書庫になければすぐに取り寄せてくれる。


 外出だって、大義名分があればいつでも馬車を出してくれるし、日々の生活で不便なことなど何もない。

 

 でもこれは、アルビスにとっての帳尻合わせでしかない。


 彼の罪悪感を埋めるために、感謝なんてしたくないし、どれだけこの世界で大切に扱われたとしても、欲しいものはそれじゃない。


(私が欲しいのは元の世界に戻る方法……それだけだ!)


 カレンは暴れる感情を押さえ込むために、窓に目を向ける。しっかりと閉じられているから外の景色は見えないけれどかまわない。


「……聖皇后さま、ごめん」


 ついさっきまでの弾んだ声が嘘のように、ロタは今にも泣きそうな声でそう言った。


 慌てて視線を向ければ、くしゃりと顔を歪めるロタがいた。


「あ、私こそごめん。えっと……君には全然怒っていないから」

「本当?」

「うん。怒る理由なんてないし」

「じゃあ、追い出さないでくれる?」

「当たり前じゃん。何言ってるの?」


 行きの約束をちゃんと覚えているロタに、カレンは律義かと苦笑したが、そうじゃなかった。

 

「僕ね……えっとこれは王様から内緒って言われてるんだけど」

「そう。じゃあ話して」

「え……いいのかなぁ。うん、ま、いっか。あのね、僕は王様から聖皇后さまの護衛を任されたんだ」

「そうなの!?」

「うん」


 なぜそれを早く言ってくれなかったのか。


 カレンは行きのやり取りを思い出して、苦く思う。あれは無駄な時間以外の何物でもなかったのだ。


 思わず親指の爪を噛んだカレンだけれど、ロタはそれを無視して言葉を続ける。


「でも、約束したんだ。一度でも聖皇后さまが嫌だと言ったら、護衛から外すって。だから僕、ずっとドキドキしていたんだ」

「私だって、ある意味ドキドキしてたよ」


 すかさずカレンが言い返せば、ロタはちょっとだけ笑って、すぐに生真面目な表情になった。


「ねえ、聖皇后さま。これからも僕を傍に置いてくれる?」

「もちろん。……あ」


 即答したカレンだったけれど、何かに気付いたように短く声を上げた。


「あのね今更なんだけど、君の名前教えてくれる?」


 カレンにとったらそれは大した質問ではなかった。すぐに教えてくれると思った。けれど、ロタはなかなか答えない。


「実は……僕、名前がないんだ」

「え、嘘」

「嘘じゃないよ。記号みたいに、依頼主から適当に名前を付けられることはあるけど……」

「……そう」


 たったこれだけの会話で、ロタがどんな生き方をしてきたのかわかってしまった。


 目の前にいる少年には、間違いなく両親がいた。なのに、少年は自分の名前を知らない。


 それは与えられなかったのか、与えられたけれど記憶に刻まれる前に、別れてしまったのか。……そのどちらでもないのか。


 カレンは、ロタに向かって安易な質問をしてしまったことを心から恥じた。

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