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復讐の為だけに聖皇后となりましたが……何か?  作者: 当麻月菜
まさかの再会に驚きましたが……何か?

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7

「あのね、この花はラガーって言って夏に咲くお花なんだよ」

「そうなのね」

「で、こっちはヒバッタって言って、葉っぱにイガイガがあるんだよ」

「まぁ、そうなの」

「あと、お花は太陽と水をいっぱいあげると、綺麗に咲くんだよ」

「ふふっ、わかりましたわ」


 ラークとイルが少女に向かって一生懸命花壇の花について説明をしている。マルファンもすぐ傍で、穏やかな表情を浮かべて子供たちを見守っている。


 カレンはそんな4人のやり取りを木箱に腰掛けてぼんやりと見ている。膝に猫もどきのティータを乗せて。


「……あの子、すごい」

「……ええ、カレン様のおっしゃる通りです」


 カレンがぼそっと呟けば、リュリュは神妙な顔で返事をする。膝にいるティータは、ニィーと合いの手を入れるように鳴いた。


「せいこうごうへーかさまもすごいです」

「え?」

 

 ティータの鳴き声に重なるように、横に座るロッタが目を輝かせた。


「あのね、ティータはとっても臆病なんだ。それに好き嫌いが激しくて、嫌いな人にはガブッて噛みつくんだよ」

「そ、そうなの?」

「うん。でもね、好きな人にはべったりくっつくの」

「ふぅーん」

「……僕たちはティータと仲良くなるのに、2ヶ月かかったんだけど……せいこうごうへーかさまはすごいです。だって、2回しか会ってないのに、ティータはこんなにべったりなんだもん」

「そっか」


 カレンはロッタの言葉に頷きながら、ティータに目を向ける。


 この真っ白な猫もどきの正式名称はシャパンといって、もともと高山地帯に生息する小動物。見た目の愛らしさから近年ペットとして人気が高い。


 けれど警戒心が強く人になかなか懐かないせいで、飼い始めてすぐに野放しにする飼い主もいるという。ティータもその犠牲になった一匹だ。


(こんな可愛い生き物を捨てるなんて最低!飼い主が路頭に迷えばいいのに)


 怒りを覚えるカレンだが、小さな生き物が懐いてくれるのは純粋に嬉しい。たとえイルカが弱っている人に近づいてくるのと同じ原理だとしても。


「教えてくれてありがとう」


 カレンがロッタに微笑みかければすぐに、へへっと照れ笑が返ってきた。


「あのおねえさんは、勉強できたかなぁ?」

「大丈夫、しっかりラーク君とイル君が教えてくれたから、もう先生に怒られることはないよ」

「そっかぁ。じゃあ、僕も教えてあげにいこう!」


 そう言って、ロッタは勢いよく木箱から降りると、パタパタと花壇に駆け出して行った。


「……ねえリュリュさん、それにしてもさぁ」

「はい。なんでしょう」


 ロッタが花壇に到着したのを待って口を開いたカレンに、リュリュも控えめな声で応じる。


「孤児院って言っても貧富の差って……あるんだね」

「ええ……まぁ」

「あの人皇帝陛下のくせに、えこひいきとかしてるの?」

「まさかっ」


 慌てて首を横に振るリュリュに、カレンは「じゃあ何で?」と質問を重ねる。


「わたくしもそこまで詳しくはありませんが、孤児院というのはもちろん政府からの支援もありますが、貴族からの援助で左右されるそうです」

「いい支援者がみつからなければ貧乏になるってこと?」

「言葉を選ばなければ……そうなります」

「そっかぁ」


 カレンは一先ずリュリュの説明に頷いたものの、内心はもやもやが広がっていた。


 アルビスが賄賂とかを受け取って孤児院の援助を差別していたなら、口汚く罵って平等に孤児院に支援が行き届くよう訴えることができただろう。


 でも、そうじゃなかった。カレンも内心、彼はそんなことをしない人だと思っている。


 アルビスは政務に関してはとても誠実で、平等で、厳しい。


 城内を歩けば、アルビスの評価は否が応でも耳に入る。陰口を叩く連中は、きまって腹黒い何かを抱えて、自分の要求が通らなかったことへの愚痴を零している。


 カレンはメルギオス帝国の聖皇后だ。それこそ望めば膨大な資金を動かすことができるし、黒いものを白に変える権力だってある。


 でも復讐の為だけに聖皇后になった自分が、それを安易に使うのはフェアじゃない。


 それにそこまで心を砕く必要があるの?と不満を漏らす自分もいる。とはいえ、ふぅーんと流すことはできそうにない。


 聖皇后が座る椅子が空き箱しかないほど、この孤児院は本当に貧しい。きらびやかな服を着ている自分を申し訳ないと思ってしまうくらいに。

 

 だからと言って、どうすることもできない。アルビスに泣きつくなんて死んでも嫌だ。


「……辛いなぁ」


 カレンは、花壇の前で楽しそうにマルファンに甘えるラーク達を見つめる。


(でも貧しくっても、あの子達には帰る家がある)


 それがどんなに幸せなことなのか、カレンは知っている。貧しくても、彼らはちゃんと幸せなのだ。別に自分がアレコレ考える必要はない。


 そんなふうに割り切ろうとしたが、ギリッと心が軋んでカレンは親指の爪を噛む。何度も歯を当てた

そこは、歪な形になってしまっていた。

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