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呆れと苛立ちを抱えてカレンが馬車に乗り込めば、少女も当然のように乗り込もうとする。
さすがにこれは、受け入れられない。
「ちょっと、悪いけど別の馬車で」
「申し訳ございません、聖皇后陛下……実は聖皇帝陛下より必ず同じ馬車に乗るよう厳命を受けているんです」
「いや、でも……それはちょっと困るよ」
「お願いでございます。絶対に邪魔になるようなことはいたしません。どうか、わたくしを居ないものだと思って、お側に置かしてくださいませ」
「えー」
カレンが抗議の声をあげれば、少女は項垂れ肩を震わせてしまった。
なんでだろう。嫌がらせを受けているのはこっちなのに、自分が少女を苛めているような気持ちになってしまう。とても理不尽だ。
だがここで少女に食ってかかったら、到着時刻に間に合わない。現役女子高生のままでいたいカレンは、遅刻という単語にとても敏感だ。
「本当に、お願いだから邪魔しないでよ」
「もちろんでございます」
「馬車の中では静かにしていてよ。話しかけたりしないでね」
「仰せのままに」
「ちょっとでも変なことをしたら、悪いけど一人で帰ってもらうからね」
「かしこまりました」
次々と繰り出すカレンの条件に、少女は不機嫌になるどころか笑みを深くする。まるでカレンから話しかけられるのが嬉しくてたまらないといった感じで。
対してカレンは、少女の反応に戸惑うしかない。はっきり言って気持ち悪い。
(こうまでしてアイツへの好感度を上げたいのか)
愛人業も大変だと、同情する気持ちもなくはない。
とにかく少女がおかしな行動を取ったら、すぐに馬車から放り出そうと決め、カレンはリュリュに出発するよう指示を出した。
馬車は相も変わらず沢山の護衛を引き連れて街道を進んでいく。今日も帝都は平和だ。
ダリアスは馬鹿息子と違い気が回るようで、本日は無遠慮に窓を全開にしたりはしない。そこは有り難いが、一つだけ問題がある。
「……暑い」
カレンはとうとう我慢できずに、ぼやいてしまった。
すかさずリュリュが窓に手をかけるが、カレンは慌てて止める。聖皇后と愛人が同じ馬車に乗ってる絵面は、帝都の人たちにとって見ていていい気分にはならないだろう。
「……ねえリュリュさん、窓を開ける代わりにこれ脱いでいい?」
「……いけません。どうか辛抱してください」
「……もうかなり我慢したよ?でも限界なんだけど」
「……お気持ちはわかりますが、このような場所で衣類を脱ぐのはちょっと」
向かいの席に座る少女に聞こえないよう、小声で訴えてみたが望まぬ返答しか貰えずカレンは溜め息を吐く。
少女は始終無言で、カレンと目が合えば、にこっと笑みを深くして目礼する。とても礼儀正しいし、言い付けを守るいい子だ。
シフォンをふんだんに使った黄色のドレスも見た目は軽くて涼しそうだが、絶対に暑いだろう。なのに、汗一つかいていない。いい子に加え、我慢強い子だ。
年齢は14、15か。ふわふわとした桃色の髪に、薄紫色の瞳。血色の良い頬は、マシュマロのように柔らかそうだ。
(でも愛人なんだよね、この子。って……っ!?)
カレンはげっと小さく呻いてしまった。
だってアルビスは、自分より遥かに幼い少女を抱いているということになる。とんだ変態だ。
(レイプ魔のロリコンが治める帝国……この国本当に大丈夫!?)
カレンは本気でこの帝国の行く末を案じてしまったその時、馬車も静かに停車した。目的地である孤児院に到着したのだ。
御者の手によって馬車の扉が開く前に、カレンはもう一度少女に念を押す。
「何度も言ってクドいかもしれないけれど、本当に余計なことはしないでよね」
「はい。仰せのままに。わたくしは聖皇后陛下の傍にいたいだけですから」
凄むカレンに、微笑む少女。
やっぱり今回も弱い者いじめをしているようで、カレンは思わず親指の爪を噛んでしまった。




