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ルシフォーネとカレンの会話を聞いて、リュリュは大体の事情を理解した。
「カレン様、せっかく部屋の外にでられたのですから、図書室に寄られてはいかがです?」
「うん、そうする」
返品すると決めた今、カレンはもうこの品々に興味はない。
ルシフォーネに後を託す言葉をかけて扉へと向かう。けれど途中で、異質なものを見付けて足が止まる。
「これは?」
カレンの問い掛けに、ルシフォーネとリュリュは同時に首を傾げる。
高価な品々の隙間に置かれていたのは、枯れかけた小さな花束。適当に花を束ねただけで、おおよそブーケとは呼べない代物だ。
薄青色の小さな花の名前はわからないが良く言えば素朴、言葉を選ばないなら貧相。視界をかすめるだけで終わりにしてしまいそうなものだが、カレンはそれが妙に気になった。
「カレン様、お目汚しをさせてしまって申し訳ありません。これは神殿から贈られたものではなく、どこかの孤児院からのものでしょう」
花束を持ち上げたルシフォーネは、リボンと包み紙を見て贈り元を判断する。
「あら、カードが添えられておりますね」
「見せて」
孤児院という言葉に予感を覚えて、カレンはルシフォーネの手からカードを取り上げた。
手にしたそれはペラペラの紙で、便箋でもないけれど、そんなことは気にならない。それより差出人のほうが気になる。思い当たる人物であればと、ほんの少しだけ期待すらしている。
わずかに緊張しながら広げたカードに書かれていた差出人の署名は予想通りで、期待以上のことが記されてあった。
【せいおうひさま、このまえはティータをたすけてくれて、ありがとうございました】
「あはっ、上手に描けてる」
カレンは思わず笑い声を上げた。
無地だったカードには、猫もどきと花束と同じ花が子供らしいタッチで描かれている。
(なんか不思議だなぁ)
外出するための大義名分を得る為に適当に選んだ場所のはずなのに、建物の形やそこにいた人たちの顔を鮮明に覚えている。
どうして痛い思いをした場所なのにん、”楽しかった”という感情が芽生えてくるのだろう。今すぐにでも、あの場所に向かいたい。
衝動的に生まれた気持ちに戸惑うカレンだが、深く考えるのはやめた。答えなんて、もうとっくにわかっている。
「ねえ、リュリュさんお願いがあるんですけど」
「はい。なんでしょう」
「この怪我が治ったら──」
カレンの申し出に、リュリュはかしこまりましたと言って、にっこりと笑った。
***
カレンの手が完治したのは、それから2週間後。
日差しは更に強くなり、木々の影をより濃くしている。少し動いただけでも汗ばむ陽気だ。
そんな中、カレンは外出着を身にまとい馬車へと向かっていた。すぐ隣にはリュリュがいる。
「……ねえリュリュさん、暑い。これ、脱いでいい?」
「駄目です。どうか我慢してくださいませ」
「えー」
カレンが不満な声を上げても、リュリュは静かに首を横に振る。このやり取りは、外出前のお決まりの会話になるつつある。
本日、出かける場所は、先日怪我を負った孤児院。カードと花束のお礼を伝えに行く。普段なら、その帰りに神殿に立ち寄るけれど、今はまだ決めていない。
(元の世界の情報を得るために仕方なく孤児院に行ってたんだけどな)
目的が逆転している現実に、カレンは気付かないフリをする。
「リュリュさん、わがまま聞いてくれてありがとう」
「カレン様ワガママだなんて……、リュリュは……いえ。とんでもございます。また何かありましたら、何なりとお申し付けくださいませ」
言いたい言葉を飲み込んで別の言葉を紡ぐリュリュを、カレンは深く追求することはしないで、急ぎ足で馬車へと向かう。
しかし馬車の前に見知らぬ人物がいるのに気付き、その足がピタリと止まってしまった。




