日常への帰還、冒険の兆し
〜〜〜パルファside〜〜〜
裁判の後、一日の拘留期間を経てメリィは屋敷へ帰ってきた。
「メリィ、おかえりなさい」
「パルファ・・・ごめんなさい」
そう言って深く頭を下げるメリィの肩を、パルファはゆっくりと起こす。
「・・・なんのことか分からないけど、許してあげるわ。父上も、五体満足で帰ってきたしね」
復活の際、ジィファの右手も元通りになっている。結果として今回失ったものといえば、ジィファのスキルだけだった。
蘇生というのはやはり強すぎる効力ゆえか、復活後にジィファはスキルの一切を使えなくなっていた。ステータスからも【火の鳥】スキルが消えていて、もはや少しの火も起こせない。
だとしても、こうして目の前にジィファがいてくれることが、パルファは嬉しかった。
「叔父様、すみませんでした」
ジィファに対してまたもメリィは、深く頭を下げる。
「メリィ、キミのやったことは間違いない犯罪だ。それも大罪と呼べるほどのね」
ジィファは座っていた椅子から立ち上がり、メリィへと近づく。
「だからもう、二度と同じ過ちは起こさないでくれ。キミを愛したサシャのために、キミを守ったアランのために」
そう言って、メリィの頭を撫でるジィファ。
「お父様の手に、やっぱり似てますね」
そう言ったメリィの顔から、ぽたぽたと涙が零れた。
〜〜〜〜〜
今日はメリィが帰ってくる日だ。
ユウは最初パルファ達の屋敷に行こうかと思ったが、今日は親族だけで積もる話もあるだろうと考えて家にいることにした。
「ユウさんが久々にゆっくり家にいてくれて、私も嬉しいです」
隣でお茶を飲むリリアが、顔を近づけてきてそう言う。
「あはは・・・僕もリリアさんとゆっくりできて、嬉しいですよ」
ユウがそう答えると、家の扉がノックされる。
「まったくもー、誰ですか?せっかく楽しんでたのに・・・まさかアルさんじゃあ・・・」
ぶつぶつ言いながら、リリアが玄関へと向かう。
(遅いな・・・)
しばらくしても帰ってこないのが気になり、ユウは様子を見に行くことにした。
「だーかーらー!なんでそうなるんです!?」
「理由はユウに、直接説明します。通してください」
そこには手を広げてディフェンスをするリリアと、そのリリアに侵入を妨げられている荷物を持ったメリィがいた。
「メリィ!?どうしてここに・・・」
「ユウ、今日からここに、住ませて貰いたくて」
変換していない驚愕の感情が、ユウに大声を出させた。
〜〜〜〜〜
「領地を返上した・・・?」
「そう。領主であったお父様が、事件を起こしたから、さすがにね」
なんでも、メリィやアランが元々住んでいた領地は、今回の事件を機に国へと返ったらしい。
それにより、メリィは現在家がない状態だそうだ。
家具や資産は後で送って貰えるため問題ないらしいが・・・
「でも、なんで僕のところに?パルファ達と一緒にいてもよかったんじゃ?」
「叔父様に聞いた。お父様が、ユウに私を任せたって。だから、責任を取ってもらうの」
そう言うメリィは、頬を赤らめて目を逸らす。
グラグラと視界が揺れているが、その姿は奥ゆかしく可愛いと感じる。
なぜ視界が揺れているかって?
「ユウくん!責任ってなにかな!?」
そう、リリアが「緊急事態です!」と呼んできたアルが、今ユウの肩を掴んでゆさゆさと揺さぶっているのだ。
「アルさん、これもなんだか久しぶりですね」
揺さぶられながらも、日常に帰ってきたことを実感できてユウは呑気に言った。
「もー!・・・でもどうするの?メリィちゃんを屋敷に住ませるの?」
揺さぶりをやめて、アルが心配そうにユウへと問いかける。
「そうですね、部屋も余っているし、僕は全然・・・なんですかアルさん、その目」
発言している最中に、アルのジト目に気づいたユウ。
「ううう・・・これでまたライバルが・・・じゃあ私もこっちに・・・でも寮を出るわけには・・・」
リリアにもたれかかり指先を遊ばせながら、アルはぶつぶつ何かを呟いている。
そんななか、メリィは2人に近づく。
「ユウに近づく悪い虫は、私が阻止する。2人は私より、早く知り合っていたから、見逃してあげる」
メリィがそう言った瞬間、リリアとアルが勢いよく立ち上がり言葉を発した。
「みみみ見逃してあげるだなんて!先に住んでいた先輩に対して失礼です!」
「ユウくんと最初に知り合ったのは私だよ!悪い虫は、2人なんだから!」
「私とユウは、親公認の仲なの。それでも2人のことは、大目に見てあげるって言ってるのに」
(女三人寄れば姦しい・・・だっけ?)
ムキになって言い争う3人の姿を見て、ユウは苦笑いを浮かべた。
〜〜〜ジィファside〜〜〜
ユウの家が騒がしいころ、王城の一室でジィファが王に頭を垂れていた。
「王よ、英断を感謝いたします」
「・・・いつも通りでよい。2人きりなのだからな」
そう言われると、ジィファはフッと笑って立ち上がり、王と共にそばにあった椅子に座った。
「王ならば僕の言葉に乗ってくれると信じていましたよ」
「余もアランの形見を守りたかった。それだけだ」
2人はそう言って机の上に置かれたワインを飲み、同じく机の上に置かれた写真立てに向かって目を瞑り黙祷を捧げる。
そこに写っていたのは、タキシードを着たアランとドレスを着たサシャだ。
しばしの静寂のあと、王からジィファへと話しかける。
「して、各国への勇者挨拶にはいつ行かせるつもりだ?」
「すぐにでも行かせるつもりです。もちろん、パートナーであるユウも共に」
壁にかかった地図を見ながらジィファは続ける。
「2人は確かに強くなりました。スキルを失った今の私ではもはや勝てないほどに。だがまだ世界の広さと大きさを知らない」
立ち上がり、ジィファは地図の一点に手を当てた。
「まずはここです」
ジィファが指したその場所を見て、王は呟いた。
「ノワール帝国か」




