最後に見たもの
〜〜〜アランside〜〜〜
殴り飛ばされたアランの行く先には、実の弟であり勇者だったジィファがいた。
手を伸ばせばジィファに触れられるほどの距離にて、アランは仰向けに倒れている。
「・・・終わったのか」
悔しくも清々しそうに、アランは眼前に広がる青い空を見上げて呟いた。
限界を超えたスキルの使用や深いダメージの蓄積により、その体には人間らしくないヒビが入っている。
ユウの瞳を持ってして、アランの命はもうすぐ潰えることが分かった。
「あと少しだったのに、何がダメだったのか」
「それは、ご自身が1番よく理解しているでしょう?」
アランの呟きにパルファがそう言う。
「ずっと考えていたの。暗殺の手段がある叔父様が、なぜ脅迫状なんて出したのか。自分の力を誇示する、護衛をつけさせてターゲットを割り出すなんてついで。本当は、止めてほしかったんじゃありませんか?」
「・・・どうだろうな」
パルファの言葉に、アランは興味が無さそうに返す。
「俺の炎が暗く染まった日から、勇者の血筋や汚い貴族に復讐することしか、頭になかったんだが」
アランがゆっくりと、横たわるジィファに目を向ける。
「なんでだろうな、今苦しいんだよ」
アランは残った左手を、ジィファの左手へと伸ばす。
「ごめんな、ジィファ」
ジィファの手を取ったアランが、最後に声をかけるのはユウだった。
「メリィを、頼む」
そう言い残して閉ざされゆくアランの視界に、薄らと女性の姿が映った。
この世界で初めて自分を認め、愛してくれた最愛の女性。
(サシャ、すまなかった)
それがある女性がみせた幻影なのか、それとも・・・
ただ確かなことは、アランの瞳に映るサシャは穏やかな顔で微笑んでいたことだった。
〜〜〜〜〜
アランの体に火がつく。
それまでの激しい紫の炎でなく、優しく暖かい赤い灯火。
その火はアランの全身から、手を伝ってジィファへと燃え移った。
「父上・・・」
父の死にようやく意識が返ってきたパルファが、涙を流して呟く。
ユウは座り込むパルファと同じ目線になるよう膝をつき、パルファをそっと抱きしめた。
「ううう・・・父上・・・」
自分に縋り付くようにして泣くパルファの背中を撫でるユウ。
カムス村のみんなを思い出し、パルファの気持ちを推し量るユウ。
(僕も、しばらくは死が受け入れられなかった・・・な・・・)
ユウは前方を見つめて固まっていた。
背中を撫でていた手も止まり、それによってパルファはさらに激しく泣き始める。
「父上・・・父上・・・」
「なんだい?パルファ」
胸に顔をうずめていたパルファが、勢いよく振り返る。
そこには、赤い衣を身にまとった無傷のジィファがいた。
「そんな・・・どうして、父上」
「どうやら僕のスキル【火の鳥】も、あの局面で進化をしたようなんだ。そうだろう?」
ジィファはユウへと問いかける。
実際、ユウはパルファ越しに見ていた。
炎に包まれ灰になるジィファの体が、みるみるうちに再生していくのを。
「ジィファさん、生きててよかっ」
ユウが言い終わる前に、パルファが勢いよくジィファへと突っ込んでいった。
「父上、生きててよかった・・・」
「いててて・・・まぁ、1回死んだんだけどね。進化した【火の鳥】の効果で、1度だけ蘇生ができたんだよ」
娘の頭を撫でるジィファ。そのまま、近くにあった灰を見つめ呟いた。
「アラン。もう一度死んだ時にまた、な」
「さてパルファ、最後にやるべきことがある」
凛とした態度でジィファ、パルファに行った。
「やるべきこと・・・?」
「勇者である自分が、アランを止めたと宣言するんだ」
確かに決着は、周囲に集まった民衆を落ち着かせるために必要だろう。
「それならば、父上が行うべきです。私はまだ、勇者を名乗るには力不足なので」
ぎゅっと自分の腕を抱くパルファに、ジィファが優しく語りかける。
「僕が勇者を継いだ時よりも、今のパルファはずっと強い。これからはパルファが、国を守るんだ」
その言葉を受けて、パルファは意を決して建物の縁へと立つ。
「おい、また違う人だぞ」
「あれは、次期勇者のパルファ様じゃ」
「アラン殿はどうなったんだ!?」
ザワつく民衆を前に、パルファは力を振り絞ってスキルを発動する。
光り輝くその高潔な姿に、多くの者が釘付けになった。
「アランは確かにこの国の闇を晴らしました。でも粛清によって生み出された平和は、また新たな闇を生み出すでしょう」
民衆は静かにパルファの言葉に耳を傾ける。
「アランは私と先代ジィファ、冒険者ユウが止めました。これから先、この国の闇は私が照らします。私が皆を照らし続けます」
そうしてパルファは剣を掲げた。
「私が勇者よ」
少しの静寂のあと、周囲から拍手や歓声が上がる。
新しい勇者の誕生を祝っているのだ。
だが、中には何もせずただ俯く者達もいた。それはきっと、曲がりなりにも国を変えようとした、アランに対する黙祷なのだろう。
「ユウ、私たちは1度王城へ向かうが、キミはどうする?」
「すみません。僕は行かなきゃいけないところがあるので」
「・・・だろうな。分かった、頼むよ」
自分の問いに対するユウの答えに、ジィファも納得をする。
おそらくジィファも分かっていたのだろう。アランの嘘と、1番守りたかった者を。
「緊急用の暗号がある。これを伝えれば、私がいなくとも自由に屋敷に入れるだろう」
そういってジィファはユウに耳打ちをした。
「ありがとうございます・・・行ってきます」
そう言って、ユウは急いでその場を後にした。




