残火
アランとジィファ、パルファの戦いは熾烈を極めていた。
全員が息を切らし、激しく剣を打ち合う。時折アランが仕掛ける紫炎の爆撃は、ジィファが全てカバーしていた。
「なんだなんだ?」
「勇者様たちが戦っているみたいよ」
「うおっ!すげえ炎だな」
聞こえてきた声にパルファが建物の下を見ると、戦いの音や衝撃に気づいた民衆が野次馬のように集まっていた。遠くで騎士団が人払いをしようとしているが、ここまで密集していると難しいだろう。
だが不幸中の幸いというべきか、アランも今のところ誰彼構わず破壊活動を行うようなことはしていない。
1番の不安はやはり、ジィファの持久力。
腕を切られた出血が多すぎる。ジィファはパルファの常時回復を受けているにも関わらず、顔は青白く今にも倒れそうだった。
そしてパルファの予想通り、ジィファはしばらくして膝をついた。
パルファは急いで駆け寄り、ジィファを守るようにアランへ立ち向かう。
対してアランは、パルファへ剣を構えつつも眼下に広がる民衆達を眺めていた。
そしてアランは遠くにいる人にも見えるように屋上の縁に立って、声高々に宣言した。
「私はアラン、穢れた貴族共を粛清していた者だ!」
ざわめく人々をそのままに、アランは続ける。
「平和に見えるこの国にも影がある!私は全てを焼き尽くし、清らかな世界を実現する!」
そうしてまたアランの体から、禍々しい炎が噴き出す。
「悪しき者に平等に罰を与える、私こそが真の勇者だ!」
その言葉を聞いた観衆の中から、ぱらぱらと少しの拍手が起こる。言い終えたアランは、パルファ達に向き直った。
パルファは剣を構える。だが背後から、その剣を制するようにジィファが手を伸ばした。
「父上、少し休んでいてください。私が」
「パルファ。父として勇者として、最後のわがままを聞いてくれ」
パルファの言葉を遮って、ジィファは話す。
「アランは僕が止めたいんだ」
そう言ってジィファは、炎の翼を背中から生やし剣を構えた。
〜〜〜
満身創痍のジィファとアランの対決は、目に見えてアランが押していた。
だがジィファも、何度切られても焦がされても折れることなく、アランに少しずつダメージを与えている。
今2人の周囲には赤と紫の炎が逆巻き、何人も割り込むことはできない。
「ジィファ、いい加減諦めろ!もうお前はこの世に必要ない!」
剣を振り下ろしながらアランは言った。
「確かになアラン、俺はもうお役御免なのかもしれない。パルファも十分強くなった」
振り下ろされた剣を受け止めジィファは続ける。
「だがお前は必要なんだ!お前がいなくて、誰がメリィを守る!?」
ジィファは背中から生えた炎の翼をはためかせ、アランを吹き飛ばした。
「お前にメリィの何が分かる!あの子の覚悟を知らないお前に!!」
剣を床に突き立てて止まり、再びジィファへ距離を詰めるアラン。
「終わりだ、ジィファ」
ジィファの胸に、アランの剣が突き立てられた。
「ごふっ!・・・あぁ、終わりだ、アラン」
ジィファはその剣を握る右手をがっしりと掴む。直後ジィファを中心に眩い光が放たれて、上空に舞い上がる巨大な炎柱が立ち上がる。
その大きすぎる威力と余波に、パルファは隣の建物の屋上まで吹き飛んだ。
炎が収まったとき現れたのは、右腕を消し炭にされ苦しむアランと、うつ伏せに倒れ息絶える寸前のジィファだった。
「父上!」
パルファは急いでジィファの元に駆け寄る。
上半身を抱えて起こすと、体に凄まじい熱が篭っているのが分かった。
急いでスキルを発動させて回復を図るが、パルファ自身も理解していた。
もう助からない、と。
「パルファ、すまない、倒しきれなかったな」
ジィファが薄く目を開けて、アランがいる方向を見て言う。
「父上、死なないで・・・」
パルファは叫ぶこともできず、必死に声を絞り出す。
「パルファ、悪いがアランを頼む。お前が、勇者として・・・」
それだけ言い残し、ジィファの瞳は光を失った。
「・・・俺だったら、最後は娘として、言葉をかける。さすがは勇者様だ」
深手を負って荒い息のアランが、ジィファの死に際に対してそう言う。
最後までジィファは、勇者として生き抜いた。
「父娘として当然思うことはある。それでも偉大な父上を、私は誇りに思う」
パルファはアランへ剣を向けた。
「叔父様、あなたを止めます」




