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あの日から

とっさに右腕で頭部を守ったが、しっかりとガードできた。

(よかった。ガードをすり抜けて当てたいところにだけ攻撃を当てられるのなら終わってた)


サイドステップで衝撃を受け流して体勢を立て直す。以前対峙したとき、そして今回の件も併せて、ユウは敵の能力を考察する。


おそらくこいつは、攻撃をする箇所だけその都度実体化している。パンチなら拳だけ、キックなら足先だけを。以前チャールズ邸で魔道具を持っている時に攻撃がすり抜けたのはそのせいだろう。


そしてすり抜ける場所は細かく設定できない。でなければ先ほど、ガードの腕をすり抜けて首元に直接攻撃をしているはずだ。

だがその前の頬を掠めた一撃もある。おそらく余裕があればそういった器用なすり抜け方もできるのかもしれない。


(それなら・・・)

追撃をしようと向かってくる相手を、ユウは全神経を研ぎ澄ませて待ち構える。

(パンチか・・・蹴りか・・・)

相手の挙動を探るユウ。相手の選んだ攻撃は、顔面へのパンチだった。


「ここだっ!」

迫る拳に対して、自分の拳を合わせるユウ。実体化する部分に合わせたカウンターだ。

狙いは的中して、ユウの拳は幻影アランの攻撃を弾き、その体勢を大きく崩させた。


「・・・はぁ、最悪だ」

その姿を見てユウは思わず呟く。

実は先ほどの考察に加え、ユウは目の前の敵に対してある可能性を抱いていた。それが的中してしまったのだ。


「砕くつもりで殴ったんだけどな」

そう言うユウの目線の先には、折れてそうもない全く無事な幻影アランの右手。

『物理ダメージが通らないかもしれない』という最悪の予想が的中した瞬間だった。



〜〜〜パルファside〜〜〜



王城の目と鼻の先。

王が演説を行うテラスと同じほどの高さを持つ建物の上で、パルファとジィファはアランと向き合っていた。


「懐かしいなジィファ。子供の頃、父上が先代王のそばに仕えていたのをここからよく眺めていた」

2人と対峙しつつ、首だけ王城の方に向けてそう言うアラン。

「・・・あぁ。しばらくして2人で忍び込んでいるのがバレて、次からは私達も揃って王のそばにいることを許可された」

切られた右腕からはまだ夥しい流血の跡がある。こんな状況の中だが、ジィファも昔を懐かしみ頬を緩ませた。


「父上は当時の魔王と刺し違えて平和を守った・・・歴代でもよくあることだ。だが、私は魔王討伐後もこうして平穏に暮らせている。それはアラン、お前が居てくれたからだ」

ジィファが声を震わせながらアランへ語りかける。

「アラン、今からでも間に合う!自首をしてくれ・・・!」

残った左手をアランへと伸ばし、ジィファは懇願した。


「・・・魔王討伐か。アレが俺たちの終わりであって、俺の始まりだった」

アランはその手を取らず、一瞥すらくれずにジィファの目を見る。

「勇者でなかったせいで、どんな努力も功績も評価されなかった。だが魔王討伐を果たしたときこそ、周囲の評価は変わると信じていた。その最後に抱いていた希望が潰えたのがあの時だ」


体から紫炎を燻らせて、アランは静かに激昂する。

「そして俺が変えられなかった俺自身の評価は、俺の大切な人にまで絡みついた」


ーーーーーー


ーーーー


ーー



〜〜〜20年前〜〜〜



王都より離れた辺境の地。大きな街と小さな街を繋ぐ道で、1台の装飾がなされた馬車が盗賊に襲われていた。

「ハッハッハ!魔王討伐で魔物が減ったから仕事がしやすいなぁ!勇者サマサマだぜ!」


豪快に笑い飛ばしながら残虐の限りを尽くすのは、この十数人の盗賊たちを束ねる体格のよい男。

今斬り殺した護衛でちょうど4人目。残りは5人ほどで、自分たちの勝利は確定したようなものだった。

「護衛の質と人数的に貧乏貴族みてえだが、まぁどうとでもなる」


売ってもいい、人質にして金を要求してもいい、女なら自分たちで楽しんでもいい。

結成したばかりの盗賊団が幸先よいスタートを切ったことに、男は喜んでいた。


もうそろそろカタがつくな。

残りの護衛も切り伏せられて行くなかで、男は喉を鳴らしながら馬車の扉に手をかけようとした。

「ボス!なんか来るぞ!」

部下の1人が声を上げて、伸ばした手を引っ込めてその方向を見る。


迫り来るのは太陽だった。

メラメラと燃え盛り、影が差す余地を与えないほど眩しく赤い炎の塊。


「なんだ!?火の大魔法か!?」

猛スピードで迫る炎に対して、盗賊団の一行は為す術なく焦がされていった。

炎による侵略は数秒のうちに完了し、生きていた盗賊のみを燃やし尽くして静止した。


「・・・遅くなってすまない」

炎は最後に残っていた今にも死にゆく護衛の兵士に対し謝罪の言葉をかける。言葉を発したのと同時に、炎は鎮まり1人の男が現れた。


「たの、む・・・あの方・・・を・・・」

馬車へと指を伸ばし、言葉の最中で事切れた兵士に敬礼を取って、男は馬車の扉に近づき手をかけた。


「・・・失礼する」

そういって扉を開ける。馬車の中にいたのは、不安げな表情で目を瞑る女性だった。

「あの、貴方様は・・・?」


「見ての通り・・・いや、すまない。一介の冒険者だ。盗賊に襲われているのを見つけて助けに来た」

男は最初に言おうとした言葉を飲み込んだ。この女性の様子を見て、目が見えないことを察したためだ。

「冒険者様、この度は助けていただきありがとうございました。そしてお気遣いも」


目を閉ざしたまま、弱々しくニコリと微笑んだ女性は馬車の外へ出ようとする。

手探りで進もうとするその手を男はとり、馬車の外へと女性をリードした。

「皆、死んでしまったのですね」


見えていないはずの惨状を見渡し、女性は悲しげに呟いた。

そしてその場の全ての死体に向かい、静かに手を合わせる。


「すまない、争いを察知して急いで来たのだが、間に合わなかった」

男の言葉に、女性は首を横に振る。

「何もできなかった私が、貴方様を責めることなんてございません。私にとって貴方様は英雄です」


「英雄か・・・小さい頃から、勇者になりたかったんだ。一歩前進だな」

かけられた言葉に対して男が自嘲気味に言うと、女性が口を開いた。

「私はサシャと申します。勇者に憧れた冒険者様、貴方様のお名前は?」


男は少し間を開けて答えた。


「俺の名前は・・・アラン」

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