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突如現れる

アランの宣言から数十分、ユウ達の戦いは膠着していた。

攻撃力に特化したアランのスキルはガードをしても深刻なダメージとなる。

かといって避けすぎると、カウンターなど決定打を叩き込めない。


一方のアランも、パルファが展開する仲間への回復によって、自身の攻撃力の高さを相殺されて決めきれずにいた。

炎の広範囲攻撃も、ジィファが察知して完璧に防いでくる。


この膠着状態のなかで、ユウは2つのことを考えていた。

答えが出たことと、謎のままのこと。


答えが出たひとつは、王が自分をここに遣わした理由。

ユウでないといけない、と王は言った。

ここに来るまで何故なのか分からなかったが、先程のアランの思いを聞いてやっと分かった。


ここには騎士団も冒険者も、誰も来てはいけなかった。勇者であるジィファとパルファ、勇者のパートナーであるユウでないとダメだったのだ。


勇者の家系で、双子の兄として生を受けたアラン。だが勇者に選ばれたのはジィファで、アランは勇者のパートナーに収まった。

その後の冷遇の話は、パルファから聞いたことがある。それまで良い顔をしていた貴族などが、手のひらを返したように陰口を言い始めたと。


王もそれを知っていたのだろう。そしてアランが暴走したと聞いて、その背景を悟ったのだ。

だから他の誰でもない、アランと同じく勇者のパートナーであるユウをここに向かわせたのだ。

他の誰が行っても、アランは救えないと思って。


だがその解消したことよりも、もうひとつ謎のままなことがある。

今まで貴族を殺していた方法だ。

ここまで戦っていて、アランの【業火】に姿と気配を消す能力は無いと判断できた。


アランはどうやって殺人を重ねていたのか。戦いのなかで、それがモヤモヤとユウの頭に残ったままだった。

(いや、とにかく今は集中だ。なんとか隙を探さないと・・・)


そしてまた意識は戦いに戻る。このまま戦いが長引けば、有利になるのはユウ達だろう。

アランの脅威は広範囲の爆炎とガード不能ダメージだ。だが双方とも、ジィファとパルファのスキルで相殺されている。

アランも息を切らし始めており、いつ均衡が崩れてもおかしくない状況だった。


だが油断もできない。パルファを狙い撃ちにして回復を断ち切られたらお終いだ。もちろんジィファも片腕が切られている分、最後まで戦い抜ける保証はない。

(隙は、作るしかない!)


三位一体で戦っていたバランスをわざと壊し、ユウはアランへと肉薄する。

アランも意外だったようで、ほんの刹那ユウへの対処が遅れた。

ユウの拳はアランの脇腹へ下から抉るように直撃し、鍛え上げられた体が数センチ宙に浮く。


堪らずアランは下がり、距離をとるためにまた爆炎を巻き上げたが、その炎はジィファによって防がれた。

そのとき、今まで以上に炎に近かったユウは、炎の向こうにうっすらと見えるシルエットを見て確信した。

(あの姿は、やっぱり)


チャールズ邸で自分が見たシルエットとアランの姿は全く同じだった。

(貴族達を殺したのは、ア)

思考中に、自分の体が横へと吹き飛んだ。

左肩への衝撃から、何者かの攻撃を食らったのだと分かる。


「ユウ!どうしたの!?」

パルファが駆け寄ろうとするが、ユウはそれを手で制して前を見る。

目に力を入れたとき、あの日と同じくうっすらとしたアランの姿が見えた。


「・・・なと言っ・・・に」

ぼそっと呟き声が聞こえて、ぶつかりあった炎が消えた。そこにも先程まで戦っていたアランの姿があった。



パルファとジィファの目には、この異常事態が見えていない。



ーーユウの目の前に、2人のアランが立ちはだかった。


〜〜〜〜〜


もうすぐ1時間を超えるだろう屋上での戦い。

傍から見れば、今の状況は異常極まりないだろう。


満身創痍のジィファ、パルファの勇者2人がアランと戦う中、ユウは虚空に向かって拳を振るっている。

時折何者かに攻撃されたかのように吹き飛んだり、攻撃を当てたかのように拳が止まったりするが、その場所には当然何も居ない。


だがユウには見えている。今まで貴族を殺してきた犯人の姿が。数歩先で戦いを繰り広げる、アランと瓜二つのその姿が。


ジィファとパルファもすぐにその状況を理解した。ユウに声をかけることなく、2人でアランの対処に乗り出した。

だが先程まで3対1で均衡が取れていたアランとの戦い。ユウがダメージをとおしたものの、2人だけではまだ分が悪いだろう。


対してユウは、アランの姿をしている見えない敵になんとか1人で対抗していた。

姿かたちや戦い方は同じだが、先程まで戦っていたアランほど強くはないようだ。

何故か剣を抜くこともせず、体術のみでユウへと向かってきている。


また、サリムから預かったグローブもしっかり効いている。以前はすり抜けた攻撃も、ぶつかるようになった。

それでも、右手の攻撃しか当たらないのは不利だ。加えてこのうっすらとしたアランは、ダメージがとおっているのかも判断できない。


(このままじゃまずい・・・)

そう思ったとき、さらに最悪な事態に見舞われる。アランの拳を右手で止めたとき、貰ったグローブについた装飾が砕けたのだ。

その瞬間、受け止めたはずの拳はすり抜けてユウの頬を掠めた。


「諦めろ。属性攻撃がないお前じゃそれには勝てない」

ジィファと鍔迫り合いをしながら、アランがこちらに向けて叫ぶ。たしかにもう、打つ手は完全に消え去った。


その後アランはジィファの剣を弾き、今居た屋上から飛び上がって建物を移動し始めた。

向かう先にあるのはーー王城。

「2人とも、アランさんを追ってください!」

ユウは自分が戦う姿の薄いアランを牽制しつつ、2人にアランを追いかけるよう促した。


ジィファは即断して追跡する。パルファも迷いつつ、アランを追いかけた。

(さて、どうしたものか・・・)


グローブが無くなった今、こちらの攻撃は相手に届かない。

残されたユウはそれでも、目の前の幻影のようなアランに向き合う。

今でこそ自分に対峙しているこいつが、気が変わって王城へ向かうと厄介だ。

(そもそもこいつはなんなんだ?アランさんのスキルじゃないのか?)


先ほどユウの追撃からアランを庇ったことで、共犯者であることは間違いない。

でも目の前のアランの姿をしたこいつは、アランとは別の意思の元動いている気がする。


考えを張り巡らせていると、目の前のそれはユウへと近付き鋭いハイキックを打ち込んだ。

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