勇者に選ばれなかった男
「王、避難してください!」
悲鳴が聞こえたのと同時に、王は騎士団に連れられて馬車内部へと避難する。
ユウもそれについていくと、サリムやバラモスの話が聞こえた。
「まさか・・・アラン様が?」
「儂も信じられぬ。だが伝令によると、ジィファ様はアラン様によって片腕を・・・」
耳を疑うその内容に、ユウと共に避難をしていた国王ラグナルカが反応した。
「アランがか・・・なるほど」
そう呟き、ラグナルカ王は悲しげな顔をする。直後ユウを見て、また口を開いた。
「ユウよ、アランを止めてくれ。」
まっすぐとユウを見据えた王の発言に、サリムとバラモスが待ったをかける。
「いけませぬ!敵の姿が見えるのはユウ殿だけでございます!そのユウ殿が離れたら・・・」
「ユウよ、王の傍にいてくれ。アラン殿のところには我々が向かう」
サリムとバラモスが矢継ぎ早に言葉を並べるが、それを王が手で制した。
「よい、全て分かったのだ。これはユウが行かねばならん」
ラグナルカ王のその言葉には重みがあった。何かを悟ったような悲しみを帯びた重さが。
その言葉を聞いてサリムとバラモスも諦めたようで、2人も王と同じく無言でユウを見つめた。
「分かりました、行ってまいります」
ユウは何が起こったのかを知るべく、アランがいる場所へと走り出した。
〜〜〜〜〜
逃げ惑う民衆の中を縫うように移動し、ユウはアランとジィファがいた場所に向かう。
その場所が近づいてくると、剣を撃ち合う激しい音が聞こえてきた。
「上かっ!」
たどり着いた場所、建物の上から聞こえる音と、上に向かって続く壁に付着した血痕を見て、ユウも飛び上がった。
その目に飛び込んできたのは、残った左腕で剣を振るうジィファと、スキルを発動して発光しているパルファ。その2人を相手取り紫色の炎を体から巻き上げたアランだった。
ジィファも赤い炎を纏っているが、ダメージのためかスタンピードで見たような出力が出ていない。そもそも防御向きだと言っていたため、2対1でもかなり劣勢のようだ。
建物の屋上に着地したユウは、すぐさまその戦いに加勢をした。
「おぉ、来たか。てっきりバラモスが来るかと思ったんだが・・・さすが王だな」
割り込んだユウの拳を受け止めて、アランも王と同じく何かを悟ったような顔で言う。
「アランさん!何があったのですか!?」
「見てわかるだろう。弟であり勇者であるジィファを不意打ちで切った。脅迫状の犯人は俺だ」
そう言うと、ジィファはユウの腹を蹴って距離をとる。
「ユウ!」
蹴られて後ろへ下がったユウに、ジィファとパルファが合流する。
「何が起こっているのですか?」
「我々もまだ分からない。だがひとつ言えるのは、アランを止めないと王が死ぬということだ」
離れたアランを見ると、王がいるであろう方向を見ていた。脅迫状を出し貴族と王を狙ったというのは、間違いないようだ。
「アラン、お前を逮捕する。話はそれからだ」
ジィファがそう言うのと同時に、3人はアランへと向かって走り出した。
まずアランへと仕掛けたのはユウだ。
飛び上がり体を回転させ、遠心力をのせた回し蹴りを胴体に向かって放つ。だがアランは半歩下がってそれを避け、ユウに向かって剣を突き出す。
ユウは刀身に紫炎を纏うその剣を紙一重で避け、右手でがっしりと掴み動きを封じた。
直後ジィファが同じく炎を纏った剣をアランへと振るう。アランはすぐさま両手で剣を持ち、剣をユウごと持ち上げてジィファへとぶつけた。
力を入れて体制が崩れたところをパルファが狙うが、突如アランの全身から紫炎が吹き出してパルファも吹き飛ばされた。
「ふぅ、3対1だとさすがにヒヤヒヤすんな。1人をよってたかって、お前らそれでも勇者か」
いつものような調子で、まるで訓練でもしているかのようにアランはそう述べる。
「・・・なぜですかおじ様。貴方のような素晴らしい人が、なぜ謀反など!」
パルファが声を荒らげると、アランの雰囲気も少し変わった。
「素晴らしい?俺の何が素晴らしいんだ?勇者の兄であることか?勇者のパートナーであることか?勇者と同じくらい強いことか?」
パルファへと詰め寄りながらアランは話す。
「違う、違うんだよパルファ。お前に持たなかった者の気持ちなんて分からないよな。ジィファが勇者に選ばれてからずっと、俺は【勇者に選ばれなかった男】として誹謗中傷のなか生きてきた」
暴力的に剣を振るい、パルファを追い詰めていくアラン。
「勇者家系は王族の分家だ。つまり王の血も混ざっている。なのに他の連中は、勇者に選ばれなかったという一点だけで俺の価値をどん底まで引き下げた。この間の手合わせでも、勝った俺でなく負けた勇者のお前を褒め称える奴らばかり」
打ち合いに隙ができたパルファに迫った凶刃を、割って入ったユウが間一髪で止める。
「勇者か勇者じゃないか、それでしかものを考えないそんな奴らに俺はいつか後悔させてやろうと、ひたすら技を磨き己を高めた。その復讐心は【業火】のスキルと合わさり、今も俺を焦がし続けている」
アランの体が暗く輝き、纏う紫炎が強まる。先程の炎が来ると身構えた時、目の前に赤い炎の壁が出現してユウとパルファを守った。
「だからジィファ、俺はお前を殺し王も殺す。もちろんパルファもだ。そうすれば王の血と勇者の血を持つものは、俺一人しかいなくなる」
ぶつかりあった炎が晴れたとき、アランはジィファの方を向いていた。
「俺が真の勇者だ」
アランはジィファに剣を向けて、そう言い放った。




