違和感
外では花火が打ち上がり、街中は多くの人や店で賑わっている。
あれから3日後。王都の建国記念式典はすでに始まっている。
3日間、王の護衛は過剰過ぎるほどに行った。
寝室には常に腕利き魔法使いを置き、結界で部屋を包んだ。
身代わりの魔道具や防御魔法を併用して、王が攻撃を受けたとしても無事なようにした。
結果として、王は今日この日まで無事だった。
だが今日こそ、本当に気を引き締めるべき日だろう。脅迫状によって、今日この国は終焉を迎えると書かれているのだから。
「ラグナルカ様。どうかお考え直しくだされ」
今、宰相のサリムが王に向かって頭を下げてあるお願いをしている。だが王は、その希望を叶える気が無いようだ。
「ならぬ。民衆から隠れたままで、式典は終われぬのだ」
そう、建国記念式典では恒例行事として、王が凱旋用の馬車に乗り街中をパレードとして見て回るのだ。
サリムのお願いは、その恒例行事を今年だけ自粛してくれというもの。街中で襲われるより、城の中で集中的に護衛をする方が確実だからだ。
だが王はお願いともいえるその提案を飲まなかった。それが王族の務めだと。
だが基本的に、馬車の上には王と側近しか置いてはいけない。
「ではせめて、敵の姿が見えるユウ殿を傍に置いてくだされ。ユウ殿これを」
サリムはそう言って、ユウに赤い装飾が施されたグローブを差し出した。
「ユウ殿の攻撃は敵をすりぬけたと報告を受けております。このグローブには炎属性が付与されており、精霊系やゴースト系の敵に対しても有効です」
たしかに、人間のスキルで一方的に攻撃ができるとは考えにくい。属性攻撃であれば、ダメージは入るかもしれない。
ユウはグローブを受け取って手にはめる。ナイフのナックルに指が通らなそうだが、今回は拳を使うことにしよう。
「さて、時間だな」
ラグナルカ・ネグザリウスは玉座から立ち上がり、外へと向かう。ユウがついて行こうとすると、ジィファが耳打ちをした。
「僕とアラン、パルファは見晴らしの良い建物の上から見張りを行う。もし敵の姿を視認したら、合図を送ってくれ。」
ユウは3人を見て頷き、王の後ろに着いて行った。
〜〜〜ジィファ・アランside〜〜〜
「ここまでは順調のようだな」
ジィファの言葉に、アランは返事をしない。ただじっと、王を見つめていた。
2人は今、4階建てほどの建物の上からパレードの見張りをしている。
王が城を出発してからもうすぐ1時間。今のところ怪しい人物もいなければ、ユウからの合図もない。
王に殺害予告が来ているとは考えられないほど、パレードは無事に進行していた。
「まぁ、今日無事だったからといって油断は出来ないか・・・必ず犯人を捕まえて、平和を取り戻そう」
「平和か・・・ジィファ、今の王都も平和じゃないか」
アランは続ける。
「市民に被害は及んでいない。善良な貴族にもな。今のところは巷で言われているとおり、王都が綺麗になっただけだ」
そう言われて少し考えつつも、ジィファはその発言を否定する。
「・・・ここまではそうだとしても、王を狙うことは間違いなく悪行だ。平和な国は、よき王なくしてありえない」
ジィファは王に視線を合わせたまま、アランに告げた。しばらくの沈黙、何回か風が通り過ぎたあとに、アランが口を開く。
「・・・たまに分からなくなる。我々は何を守っているのかを」
「我々が守るべきは全てだ。王も国も民も、全てを守って平和は作られる」
ジィファのその言葉に、アランはそうだなと小さく呟いた。
「まぁ連日の護衛疲れで、センチメンタルな気分になるのも分かる。犯人が捕まったら、昔を思い出しながら祝杯をあげよう」
ジィファのその言葉に、アランの返事はなかった。
〜〜〜パルファside〜〜〜
パルファもジィファ・アランとは別の見晴らしのよい場所で、パレードを監視していた。
王とその脇に控えるユウを見つつ、今回の事件について考えていた。
パルファが1番引っかかっていたのは、あの脅迫状についてだ。相手に察知されず、通常の攻撃も通じないスキルを持っているならば、ひっそりと殺しを重ねた方がスムーズなはず。
それなのに脅迫状を送って、わざわざ貴族たちに警備させる隙を与えた。
快楽主義者かと思えばそうでもない。今まで一貫して悪徳貴族しか狙わず、使用人や護衛も無傷で済ませている。
(一体なにが目的なの?)
脅迫状に関しても、悪徳貴族だけを狙った殺害に関しても、犯人の狙いが分からない。
今まで屋敷でも常にジィファ達と過ごしていたパルファは、1人になって冷静にこの事件について考察をしていた。
そしてパレードを遠くから見つめる今の状況のように俯瞰して考えると、ある1つの可能性に気づく。
「もしかして、護衛させるのが目的だった・・・?」
1日1人だった殺人が複数人に増えたのは、全ての悪徳貴族に護衛が付いたその日だ。
言い換えると、あの日護衛が付いたのは全員悪いことをしていた貴族ということ。
「・・・護衛によってターゲットを割り出した?」
たとえば最初犯人は、悪徳貴族について数人しか確証を得られなかったのかもしれない。
だからそれらを順番に殺すことで、悪事を働く貴族達にプレッシャーを与えようとしたのかと。
実際、次は自分かもしれないと用心棒を雇う貴族は多くいた。でも、そこにはひとつ問題があった。
それは、護衛をつけた貴族全てが悪事を働いているとは限らないということ。念の為に護衛を雇った普通の貴族もいるかもしれないからだ。
だがあの日の護衛は違う。アランの案であの日騎士団とパルファ達が介入したのは、悪事を働いたと自白をした者達だ。
自分たちは利用されたのかもしれない。そう考えたとき、胸の内に悔しさが溢れてくる。
「式典まで続く連続殺人だと分かりやすいように、脅迫状を送った・・・?」
そう考えたがまだモヤモヤは拭えない。
予告のない殺人を重ねる圧倒的な動きやすさを天秤にかけるには、そんなメリットだけでは足りない気がする。
そうして思考をめぐらせていると、突然それは起こった。
パレードから少し離れた場所での人の悲鳴。悲鳴をあげた人の視線の先には、片腕を切られた一人の男が倒れていた。
男が倒れている場所には、砂埃が舞っている。腕を切られただけでなく、高所から落下もしたのだろう。
そしてその男に、パルファは強い見覚えがある。
「・・・そんな、どうして!!父上!!!」
パルファの視線の先には血溜まりに沈むジィファと、それを建物の上から見下ろすアランがいた。




