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傷の男を抜けてバランに駆け寄る。意外にも傷の男はそんなユウに対して邪魔をすることもなく横を通過させた。これは情けなどでなく、ユウの絶望を長く楽しみたいという考えからだろう。


バランに駆け寄ると、ユウはその血濡れの体を抱え上げた。こうして初めてバランを抱えたが、バランは普段の力強い雰囲気から考えられないくらい軽かった。バランも村のみんなと同じ老人で、自分が守らなくちゃいけない存在だったんだと今更気付く。


「バランさん!しっかりしてよ!」

「ぐふっ!・・・ユウ坊や・・最後にお前と居れてよかった・・・あの世で皆に羨ましがられるのう・・・」


すでに目の焦点はあっていないバランは、それでも自分に向けて微笑んで話を続ける。


「ユウよ・・・お前には才能がある。・・周りを幸せにする才能じゃ・・・お前のおかげで儂らは・・・毎日幸せじゃった・・・」

「・・・ううん、俺の方こそ幸せだった。・・・村のみんなと過ごせて、本当に幸せだった。」


そう言いながら涙がこぼれる。こぼれた涙はバランの顔に垂れ、それがかゆいのかバランはさらに笑う。


「ははは・・ユウや・・・約束通り・・・逃げ・・・るんじゃぞ」

「・・・分かったよ、バランさん。」


もう一度小さく約束じゃぞと言いながら、バランは目を閉じた。歴戦の騎士の最後は、大切な孫によって幸せに幕を閉じた。


唯一不幸なことがあるとしたら、生前最後に交わした約束を孫が破ろうとしている事だろう。剣を握りしめ、バランを殺した男へ向かい合う。


「おう、やっと死んだか。一緒に殺すと喜ぶ奴もいるからな、待ちくたびれたぜ。」


・・・こいつは完全な悪だ。何がこいつをここまで捻じ曲げたのかは分からない。こいつも辛い境遇があったのかもしれないし、顔についた傷が何か関係あるのかもしれない。でもどんな理由があったとしても、ユウは目の前の男に対する殺意を抑えるつもりはなかった。


「さあて、じゃあお前を殺して終わりだな。村の中央にまだ生きている奴らがいるかもしれねえし、そいつらの前で殺してやろうか。」

「・・・もう喋るな。お前は絶対に許さない。」


この時ユウは、自分がユニークホルダーだということを忘れていた。ただ純粋に傷の男を倒そうと、さまざまな考えを張り巡らしていた。

そしてそれが結果として、ユニークスキルを発動させるキッカケとなった。



『左目の見えが悪い。右目に集中するしかない。』



そう思った瞬間、頭の中に機械的な声が流れた。



――左目を変換し、右目に統合をしますか?



「・・・は?」

「あ?なんだ?」


気を抜けない状況の中でも、つい呆けた声が出てしまった。傷の男も反応しているが、頭に響いた声に驚いた自分と違って、傷の男はユウの出した声に対して反応している。


――左目を変換し、右目に統合をしますか?


再度頭の中に同じ声が響く。“変換”という言葉に、これが自分のユニークスキルなのだろうと理解した。


そして目の前の男を見る。筋骨隆々で目立った傷も負っておらず、戦闘勘も自分より大きく優れているだろう。このまま戦っても、万に一つも勝ち目はないなんてわかりきっていた。


・・・ああいいよ。よく分からないけど、変換できるものは何でも変換してくれ。その代わり目の前のこいつを殺せるだけの力をくれ。


そんな自暴自棄で歪んだ思いに対して、機械的な声は答える。


――現状、「左目」「痛覚」「恐怖心」「焦燥感」の4つが戦闘で不要です。全て変換し、適所に統合します。


その声が流れた瞬間に、ユウの身体は状況を打開するために組み変わった。



~~~傷の男side~~~


ガキの気配が変わった。


目の前でジジイを殺して、これからガキをどう絶望させながら殺そうかと思っていた矢先、いきなり驚いたような変な声を出しやがった。


一瞬おかしくなっちまったのかと思ったが違う。その直後の顔は覚悟を決めた、諦めにも近い顔だった。こういう奴は総じて、必ず厄介な事をしでかす。


もう遊んでいる暇はねえ。さっさとやっちまおう。

そう判断してガキに向かって走り出し、剣を振り下ろした。ただのパンチに反応できなかった戦闘慣れしていないガキだ。これで終わりだろう。


だがその意に反してガキはするりと横を通り抜けて避けやがった。さっき殴ったダメージや部下にやられていた傷、さらには素人であることを考えると確実に出来ない動きだ。


どうなってやがる?そう思ってガキを振り返ると、その拍子に何かが俺の足元に落ちた。下を見ると俺の愛剣が落ちていた。

そして剣の柄には、見覚えがありすぎるゴツゴツした手が肩口まで一緒に付いていた。

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