友の来訪
「イライラしてたの伝わっちゃったかなあ?」
チャールズの屋敷の草原に寝っ転がって、ユウは青い空を見上げながら1人つぶやく。
先程部屋を出るとき、チャールズに対しての不満は表に出さなかった。それが逆に、路傍の虫を見るような冷たい視線になったのではないかと、後々思ったのだ。
「・・・まあいっか。それにしても、庭で待機ならリリアさんにお弁当とか作ってもらえばよかったな」
チャールズのあの調子だと、自分のための食事には期待できないだろう。お昼時も若干過ぎた今、ユウはお腹をさすりながら後悔する。
「・・・ユウ」
するといきなり名前を呼ばれる。声のした方を向くと、その場に似つかわしくない人物がそこにはいた。
「え?メリィ、どうしてここに?」
出来たばかりの友達、メリィだった。
〜〜〜〜〜
「そっかぁ。アランさん達に・・・」
ユウはメリィが買ってきてくれたサンドイッチを食べながら、メリィがここにいる理由を聞いた。
なんでもアラン達が帰った際、人によっては護衛先から帰れないこともありえると聞いたそうだ。
そして気になったから、散歩がてらチラッとこの屋敷に立ち寄ったらしい。すると寝っ転がりながらお腹を好かせたユウが見えて、こうして差し入れを買ってきてくれたのだ。
「ありがとう、本当に助かったよ。お腹ぺこぺこで困ってたんだ。今日は調子がいいの?」
食べ終えてお礼を言いつつ、メリィの体調を気遣うユウ。
「うん、今日は大丈夫。ユウも大変だね」
メリィにはチャールズに何を言われて、何故ここに居るのかなどを説明した。
労われて今の自分の扱いを客観視してみると、たしかにもう少しまともな人の家だと有難かったなと思う。
「そういえば、よく通してくれたね。門兵の人いたでしょ?」
「うん。でも普通に通してくれたよ」
メリィのその言葉に、ここの当主がいかに人望が無いかを感じるユウ。でも今回はそのおかげで助かった。
「でも無理はしちゃダメだよ?気遣ってくれて嬉しいけど、メリィの体も大切にしなきゃ。」
メリィの体を心配するユウ。差し入れは有難かったが、別の誰かに頼んでも大丈夫だろう、と。
「ううん、どうしても私が来たくて。ユウは初めての、友達、だから」
そう言って頬を赤らめて、潤んだ瞳で下を見るメリィ。その姿を素直に可愛いと感じたユウも、直視できずに目を泳がせる。
「もうそろそろ戻ろうかな。お父様達にも内緒で来ちゃったから」
メリィはそう言ってスっと立ち上がる。
「えっ、内緒でって・・・大丈夫?」
曲がりなりにも王族の血が流れているのに、秘密でここまで来るとは・・・。メリィは案外、行動力の塊なのかもしれない。
「まっすぐ帰るから大丈夫だよ。ユウも無理しないでね。明日はゆっくりできるといいな」
「そうだね。メリィも気を付けて帰るんだよ」
そう言ってユウは門まで送ろうとするが、ここでいいとメリィに言われる。
たしかに勝手に庭から離れると、チャールズに何を言われるか分からない。
「メリィ」
「ん、どうしたの?」
ユウは最後にメリィを呼び止める。
「ありがとう!」
「・・・うん」
そうしてメリィが門の方に歩いて行くのを、ユウ
見送った。
〜〜〜〜〜
夜が来た。
ユウは今、チャールズの私室の前の廊下にいる。
応接間以来、チャールズは全く目を合わせなくなった。だが夜食は簡素なものの提供して貰えたので、コンディションは万全だ。
(知覚範囲か・・・)
目の前の扉を見つめながら、ユウは先日のアランの話を思い出す。
王都全域での異変を察知するほどの知覚範囲。目に見えないところでの出来事も把握できる能力。
それがあれば、さらに多く大切な人を守れるだろう。それに憧れをもったユウは、ゆっくりと目を閉じた。
向こう側の見えないこの扉。その先にいるチャールズを知覚しようとする。
オッドのような気配の強い冒険者を察知するのとは違い、微弱な気配を意識の中で手探りで探す。
(・・・いた)
集中することで、チャールズの気配を掴めた。部屋の隅で何かしているようだ。
その感覚を覚えて、徐々に屋敷を這わせるように広げていく。掃除を行う使用人、門兵と密会するメイド、各所に配置された使用人に扮した用心棒。
トレーニングとしてさまざまな気配を察知しながら、ユウはある異変に気付く。
(チャールズさんの気配が弱まっている?)
先程居た部屋の隅から微動打にせず、その気配が弱まっていくことに強く違和感を抱くユウ。
反射的にユウへ扉を蹴破って中へ入った。その片方の目に飛び込んできたのは、宙に浮くブザーの魔道具と、腹部を裂かれて虫の息のチャールズだった。




