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悪魔の提案

「昨夜もですか・・・」

ユウがパルファ達の屋敷を訪れた翌朝、もう一度パルファ達の屋敷を訪れていた。そしてジィファからの話で、昨晩も同様の事件が起こったことを知る。

「あぁ。我々も夕食後に貴族が住む区画をパトロールしていたのだが、全く静かでノーマークだった家で事件が起こっていたようだ」

悔しそうに、だが悩ましげにジィファは目を伏せる。


「どうして我々の知覚範囲をくぐり抜けるのか・・・だろう?お前が考えているのは」

アランがそんなジィファをみかねて声をかける。

「知覚範囲?」

「あぁ、パルファはまだ分からないだろうな。お前は少しずつ感覚を掴んでいるんじゃないか?」


そう言ってアランはユウを見る。そしてそれに頷くユウ。

ユウは強度がAAとなり、さらにハイドとの死闘を含めて多くの戦いを経験した。

いつだったか、その感覚は突然芽生えた。自分が見えていないところでも、誰が何をしようとしているかが何となく分かるようになったのだ。


先日ギルドで背後からのオッドのイタズラを、見ることもせず避けられたのはそのお陰だ。だがマンイーターのツタに1度捕まったように、隠密系統のスキルが高いもの、女性や子供のように気配が弱々しい存在は知覚できない。


「自慢じゃないが俺やジィファは数多くの死線をくぐり抜けてきた。それこそお前らの冒険のように、床も含めて周囲が真っ暗闇の中での戦闘もな。そんななかで俺達には、大抵の隠密系統スキルも察知するほどの知覚が備わっている」

椅子に座っていたアランは立ち上がり、窓の外を見つめる。


「たとえば今からお前ら2人が街中に身を潜めるとしよう。たとえ目に見えない場所で息を殺していても、俺達には正確な場所がこの部屋に居ながら分かる。俺とジィファの知覚範囲は、王都中を網羅するほど広いからだ」

もしかしたらスキルの影響もあるかもだけどな、とアランは言う。


「そう、だからこそおかしい。先日の事件で犯人に実体があることは分かった。そして人を殺すという行為は、どんな手練であれ強烈な気配を醸し出す。なのに我々がこうも知覚できないとは・・・」

ジィファは腕を組んで考え込む。


「・・・どんなことをしていても、命には代えられないはずです。違法なことをしている貴族をピックアップし、罪を認めさせて四六時中見張るべきです。」

パルファの提案に、他の3人は押し黙る。それもそうだ、パルファが言っているのは悪事を働く貴族に対して、「私は悪いことをしているから狙われる。守ってくれ」と言わせるというもの。


実際問題ピックアップ自体は不可能ではないだろう。ここ最近の人の出入りが不審な貴族は全員、何かしら心当たりがあるはずだ。だが・・・


「貴族達が名乗りをあげるメリットが少ないな。またこちらから下手に声をかけると、この殺人も、王族ぐるみの晒しあげだと思われかねない」

ジィファの意見ももっとも。こちらが「命が危ない」と言っても罪を認めず、自力でなんとかしようとする輩は多いだろう。


また悪い方へ深読みして、王族が悪事を働く貴族を殺人に見せかけて粛清していると思う人もいるはずだ。

その間違った情報を貴族が吹聴しだすと、善良な貴族や市民にも混乱を招く。

パルファの案は解決への1歩なのだが、それが成功するための決定的なピースに欠けているのだ。


そんなとき、アランが悪魔のような案を出した。

「じゃあこうするか。ーーーーー」


〜〜〜〜〜


3日後。

あの日のアランの提案はさまざまな葛藤の元採用され、その日のうちに伝達。そして王都に住む貴族たちに激震を与えた。

ある者は怒り狂い、ある者は愉悦の笑みを浮かべる一案。


『悪事を働いてること、それと自分以外の悪事を働く貴族もセットで報告すれば、身柄を守り罪も軽減する』


その案に、王であるラグナルカ・ネグザリウスやサリムは当初難色を示した。

当たり前だ。そんな事を許したら、真っ当な貴族への冒涜に当たる。

また真っ当な貴族を集団で陥れたり、密告しあって不毛な争いが起こったりするだろう。


だが、これを採用すれば怒りの矛先は少なくとも王族へ向けられない。諍いは我が身可愛さに密告をし出す貴族間で完結するのだ。

その他に有力な案も出なかったこと、さらにこのまま殺人犯を野放しにすることの脅威が後押しをして、この報せは王都中の貴族へと瞬く間に伝わった。


そして今、ユウはある貴族の屋敷へと単独で来ている。

ここに住むのは、我が身可愛さに真っ先に自白と密告を行った貴族。

そう、ユウはこの貴族の防衛にあてがわれたのだった。


ジィファやパルファ、アランや騎士団もそれぞれこういった貴族の護衛へと向かっており、ユウの担当は目の前の屋敷に住むチャールズ・バイロンという貴族の男だった。


門兵に伝えて、ユウが来たことを中へと取り次いでもらう。応接間へと案内されしばらくすると、でっぷりと太った貴族が汗を拭きながら入ってきた。


「初めまして。あなたの護衛を担当する、冒険者のユウです」

「ふん!お前ごときアテにしとらん!大体なぜお前なのだ・・・」

自己紹介の返事もなく、出会い頭に失礼な発言をするチャールズ。その後もブツブツと何か言っているが、ユウは聞こえないふりをしていた。


「・・・そもそもなんだその目は?なんだその腕は?お前みたいな欠陥品を私にあてがうとは、話が違うではないか!パルファ嬢であれば見目麗しく、色々楽しめたものを・・・」

チャールズの失礼は止まらない。軽減されたとはいえ、自分が罪人であることを忘れているかの口ぶりでユウを貶す。


パルファのことが聞こえたとき少しカチンときたが、全てを聞き流して無視するユウ。

それがつまらなかったのか、チャールズはようやく実のある話を始めた。

「いいか欠陥品?お前は私の部屋の前に控えておけ。何かあったらこの魔道具で音を出す。それまでは何があっても部屋に入るな。そして眠るな。」


そう言ってチャールズは、なにかスイッチがついた魔道具見せてきた。防犯ブザーのようなものだろうか、まじまじと見ていると舌打ちをされて懐に隠された。


「以上だ!欠陥品、夜までお前は庭にでもいろ!」

傍若無人な態度でそう言うチャールズに従って、ユウは無言で外に出ようとする。


「おい!さっきから返事はどうした!たかが冒険者風情が無礼だぞ!!」

そう言われたユウはドアの前で、チャールズへと振り返る。


「僕の名前はユウですので」

それだけ言い残して、ユウは応接間から出ていった。一方、言われた側のチャールズは唖然としていた。

ユウがチャールズに向けた目が、一切の感情を抱いていなかったから。

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