花と花
「ごめんなさいね。せっかくのんびり出来る日だったのに」
「いえいえ、僕に出来ることならなんでも言ってください」
ユウは今カノンと共に、王都近郊の森まで来ている。
冒険者ギルドで、カノンはユウにある頼み事をしたのだ。
『私と一緒に、あるクエストを受けて欲しいの』
それを快く引き受けたユウは、臨時パーティーという形式でカノンとクエストを受注したのだった。
「でも今更ですけど、他の皆さんとのクエストはよかったんですか?」
「今日は近隣のゴブリンとかを間引く常駐クエストを受けるつもりだったから、4人だけでも大丈夫よ。それにユウにお願いだけするなんて、お姉さんとしてのプライドがね」
そう言って利発そうな顔に笑みを浮かべるカノンに、パーティーをいた時を思い出すユウ。
今日2人が行くのは、「永命花」と呼ばれる花の群生地だ。今いる王都近隣の森の中にある湖の周囲のみに開花するその花を、採取するために向かっている。
たかが採取クエストであるのに、何故Bランク冒険者のユウがいなければダメなのか。それは永命花が生えるエリアに生息する、ある生き物の存在が関係する。
「よし、着いたわね」
「・・・綺麗だ」
2人の視線の先には、名前の通り命を感じさせる真っ赤な花が生えていた。鮮やかな赤い花弁とそれを支える丈夫な茎、永命花という名前に恥じない力強い花の畑を前に、ユウは自然とそう呟いていた。
「じゃあ早速採取しましょうか・・・ちなみにユウの目にはどれがそうだか見えたりする?」
「うーん・・・すみません、全く分からないですね」
そんな会話をして、2人はその深紅色の花畑に向かって歩き出した。
そうして花畑まであと3メートルほどの距離まで近づいた時、ユウの足が何かに絡め取られて勢いよく宙へと投げられた。
「ユウ!」
「大丈夫です!これが・・・」
ユウの足を掴んだのは植物のツルだった。そのツルの先には1本の永命花があり、それを視認すると同時にその花はみるみる肥大化していく。
高い擬態能力を持ち、食人花とも呼ばれる魔物。マンイーターだ。
即座に足に絡みついたツタを切り、地面へと着地するユウ。周囲にはウネウネとツタが地面から伸びており、カノンとユウを囲んでいた。
人を喰うこの危険な魔物が永命花に擬態して生息していることによって、このエリアはBランク以上の冒険者がいないと入ることが出来ないのだ。
擬態を解いたマンイーターを視るユウ。
==========
種族名:マンイーター
強度:B
【スキル】
超擬態、待ち伏せ、共鳴
=========
マンイーターは強度Bだ。そして攻撃方法も、地面から伸びるこのツタで冒険者を捕捉し、自分の口に入れるというだけ。
ではなぜ永命花採取はAランククエストになっているのか。それはマンイーターの生態と、厄介なスキルの存在が理由だ。
カノンに背後を任せ、1番近くのツタを切り裂くユウ。だが切り裂くために1歩踏み出した瞬間に、新たなツタたちが周囲から伸びてユウを囲む。
そうして少し遠くにあった永命花がまた、マンイーターへと姿を変える。
目も耳もないマンイーターは、周囲の地中にツタを張り巡らせてそれをセンサーとして人を捕捉する。つまり下手に動き回ると新たなマンイーターのセンサーに触れて、どんどんと取り囲むツタが増えていくのだ。
こうしている今も、手の届く距離にマンイーターが姿を現した。
「ユウ!分かっているとは思うけど」
「はい!マンイーターは殺さないようにします!」
そしてさらに厄介な点が、マンイーターはセンサーであるツタ以外に、厄介な特性を持った根っこをかなり広範囲に張り巡らせていること。
その根っこの持つ効果は【同調】
マンイーターを討伐してしまうと、根っこが張り巡らされている範囲の植物系魔物が敵意を持って一挙に押し寄せるのだ。
トレントやマンドラゴラならまだしも、実体の無いアルラウネなんかが来たらユウとカノンでは太刀打ちができない。
ただ採取するだけではダメ、マンイーターを倒してしまうのもダメといういやらしさから、このクエストはAランク指定されているのだ。
よってユウとカノンは1歩も動くことなく、迫るツタのみをナイフで切り裂く。しばらくはそれを繰り返し、数十本とある周囲のツタを少しずつ減らしていく。
数十分が経ちようやく、2人に攻撃を仕掛けてくる範囲のツタは全て刈り取ることできた。
「はぁ、はぁ、なんとかここまでは来れたわね・・・」
「はい、あとは永命花を採取するだけです」
目に見える邪魔がなくなって、ようやく2人は花畑の中に入れた。
「最後ね。いい?永命花を抜くと、センサーを踏んだ以上のマンイーターが起きるの。だからクエスト納品分の・・・」
「はい。納品分と、カノンさんの分あわせて2本摘みますね」
そういってユウは、近場にあった永命花の花を2本摘み取った。カノンが背後で「あっ!」と言うのと同時に、視界を覆い尽くすほどの夥しい量のツタが地面から出現する。
「ちょっとユウ!摘むのは」
「大丈夫です!失礼します!」
カノンが何か言う前に、ユウはカノンを腕に抱え込んで猛スピードでその場を離れる。
ツタが伸びてくる隙も与えず、2人はその場から離脱したのだった。




