結束
「これが・・・」
ユウは今、昨夜起こった殺人事件の現場にパルファと共に来ている。
少し離れた場所にはジィファとアランもいて、騎士から話を聞いていた。
今でさえ死体は片付けられているが、ユウとパルファが来る前の現場は惨憺たるものだったらしい。
切り裂かれた腹からこぼれた臓物、不自然に曲がり細くなった首。状況報告を聞いただけで、今いる一見普通の書斎に言い難い不気味さを感じる。
窓も無く鍵もかかった部屋で起こった密室殺人。
何より印象的なのは、部屋の一角に向かって続く血の足跡。被害者の作った血だまりを踏んでいったのだろう。サイズからして男性だろうか・・・
ジィファとアラン、騎士たちに近づくと少し会話が聞こえた。
「またか・・・」
「また王都が少し綺麗に・・・分かったよ。すまん」
そんな言葉を交わしていた2人はこちらを見る。ジィファは気まずそうな顔をして、2人に告げた。
「すまんね。帰ったら少し、話したいことがある」
そう言ってジィファとアランは、騎士に連れられて2人の前から居なくなった。
「一体王都で何が起こっているのかしら・・・」
パルファの呟きに、ユウはなにも返せなかった。
〜〜〜〜〜
ユウとパルファはジィファの屋敷に戻り、事件の詳細を聞いた。
被害者の共通点、そしてことごとく目撃情報が無いということ。
「なぜ皆さん、殺人が起こっていることに気づかないんでしょう・・・」
「我々も最初はまったく見当がつかなかったんだがね。今回ついに目撃者が現れたて、その理由が分かったんだ」
進展があったにもかかわらず、ジィファは少し悩ましげにそう告げる。
「目撃者ねぇ・・・皮肉か?ジィファ」
アランが少し意味ありげに言うと、ジィファはため息をついてまた口を開いた。
「・・・今回の被害者の部屋には奴隷の少女がいてね、その奴隷が事件を目撃していたんだ。いわく、姿の見えない何者かが当主を殺し、いつの間にかいなくなっていたらしい」
(皮肉とはそういうことか・・・)
たしかに事件は目撃したが、犯人に関してはなにも目撃をしていない。
「ちなみに父上、その・・・奴隷の少女とやらが、嘘をついている可能性は・・・?」
パルファがそう問いかける。当主による隷属から解放された恩義から、犯人をかばっているのではないか?と。
「念のため、嘘を見抜く【看破】のスキル所持者に確認をして貰ったのだが、嘘はついていなかったそうだ」
ジィファが答えると、次いでアランが口を開く。
「だが、まったく情報が無いわけじゃない。少なくともこれで犯人がどのように犯行に及んでいるかが分かった」
「実際に現場に現れていること、さらに姿を見せないスキルを持っているということですね」
ユウが言うと、ジィファとアランが頷く。
「あぁ、さらに言えば密室から消え去る、転移系のスキルも持っているかもしれない。」
ジィファがつけたした言葉に、ユウは一人の少女を思い浮かべた。不思議な雰囲気で、いきなり目の前からいなくなってしまった水色の髪の少女。
(いや違う、足跡は男のものだった。)
足跡の存在を思い出して、ユウは自分の思考を否定した。
「父上、国内のユニークホルダーを調査しましょう」
パルファが提案すると、ジィファは首を横に振った。
「すでに国内で確認されているユニークホルダーは調査したよ。隠密系統スキルを持っている男性のユニークホルダー。だが全員アリバイがあったり、事件がスキルの限界を超えていたりしてね・・・」
「隠密系統のユニークホルダーか・・・帝国のアイツを思い出すな」
(アイツ?誰のことだろう・・・)
ジィファの言ったことよりも、その後のアランの言葉が気になったユウ。だがその疑問も、次のジィファの言葉でさらに上書きされる。
「まぁそもそもこの事件は、ただの貴族を狙った殺人事件ではないんだ。」
「それは・・・どういうことですか?父上」
そういったパルファに対し、ジィファは一枚の紙をテーブルの上に乗せる。
――――――――――
次ノ 建国記念ノ 式典デ
コノ国ハ 終焉ヲ迎エル
王ト勇者ノ 血ハ絶タレ
民ハ絶望ノ淵ニ立ツ
王トシテ 勇者トシテ
我ガコノ国ヲ
貰イ受ケヨウ
――――――――――
その内容は国家転覆を宣言するものだった。
「王として勇者として、ですって?・・・っ!」
パルファがその言葉にわなわなと震える。おそらくその言葉が、受け継がれる勇者の血筋を卑下するように思えたのだろう。
「今回の事件は、これに関係があるということですか?」
ユウの質問にアランが頷く。
「無関係ではないだろうな・・・式典が起こる前のこのタイミングで、政治に関係する貴族が狙われている」
「現状誰が狙われるかは分からない。悪いことをしていて狙われるから守ってください、なんて誰も自己申告しないからね。まぁ、いきなり使用人を沢山雇ったり、兵隊の出入りが激しかったりで自白しているようなものなんだけど・・・」
ジィファがそう言う。それでもきっと、ユウたちが手分けしても足りないくらい、汚いことに手を染めている人は多いのだろう。
「我々は騎士団と連携して事件の解決、及びに建国式典の成功のために動く」
「真の勇者の力を、見せつけてやろう」
ジィファとアランの言葉に、ユウとパルファも頷いた。




