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見えざる者

「そっかぁ、サリムさんが・・・」

アルとリリアと家に帰って来たユウは、なぜ2人が一緒にいたのかを聞いた。

なんでも宰相であるサリムが、気を利かせてユウの関係者に帰還を伝えてくれたらしい。


そしてアルはノーツ団長に半休を申し出て、ノーツはこれを快諾。ユウの家に行くとまだ帰っておらず、リリアとともに夕食の買い出しに出かけたのだそうだ。

(そうしたら見覚えのある少年が、道端で頭を抱えていた、と)


事の顛末を理解したユウは、2人が作ってくれた食事を終えて冒険の話をした。

モンスタールームで危機感を失ったこと。

自由を求めた悪魔のこと。

パルファのスキルやナイフのこと。

Sランクダンジョンとして認定され、Bランク冒険者へと昇格したこと。


危機感のくだりでは、やはり2人とも浮かない顔をした。だが意識の変化によって欠点は補えたと伝えると、少しだけ安心してくれたようだ。

(話さないと、あとでもっと悲しませちゃうからな)


「でも、こんなに短い期間でBランク昇格、それにSランクダンジョン攻略なんて流石ですね!」

リリアが自分のことのように喜ぶ。そう、今回の冒険はユウにとって得るものはとても多かった。


「そうね。危ないことはして欲しくないけど、ユウくんが色んな人に認められるのは私も嬉しい」

アルもそれに賛同し、以前からの名残か頭を撫でてくる。リリアが羨ましそうに見てくるが、撫でられるのが好きなんだろうか。


「はい。とりあえずしばらくは王都にいるので、危ないことはないと思います」

ユウが照れつつもそう答えると、アルは少し心配そうな顔をした。

「それがそうとも言えなくて・・・今王都では今連続殺人事件が起きているの。ユウくんも気をつけてほしいな」


「連続殺人事件ですか?それってどういう・・・」

話を聞こうとすると、アルはユウの顔の前に手のひらを向けてそれを制した。

「ダーメ!守秘義務もあるし、ユウくんが詳しく知ったらなんだか巻き込まれちゃう気がする」

アルがそう言うと、リリアもうんうんと頷いていた。


「えぇー、気になるなぁ」

「・・・まぁ、多分じきに知っちゃうと思うんだけどね。捜査には勇者様も協力しているし、パルファ様が帰ってきたってことはユウくんも協力すると思う。」

だからせめてその時まで、ね?と言われて、ユウは引き下がった。


そして夜は更けていく。

その日はアルも泊まっていった。

お風呂や寝る時にリリアと一悶着あったのは、言わずもがなだろう。



〜〜〜同刻 王都のとある場所〜〜〜


大きな屋敷、センスのよい調度品が並ぶ一室。

ここで今、ひとつの命が潰えようとしていた。

身なりが良くふくよかなその男は、今起きていることに強く驚愕している。

(な、なんでこんなことに・・・)


王都で殺人事件が連続していることは耳に入っていた。そしてその被害者の共通点も。

男も心当たりがあり、だからこそ使用人に見せかけて私兵を屋敷の至る場所に紛れ込ませていた。


磐石の布陣だと考えていた。唯一、自分が狙われる原因や証拠が集まったこの部屋を除き、屋敷内には100を超える荒事専門の使い手が潜んでいるのだ。


そんな男は今、大量の血を流して床へと這いつくばっている。多くの奴隷や娼婦を物のように転がした床に、今は主である自分が横たわっているのだ。


それは突然だった。今も部屋の隅にいて怯えた目でこちらを見る奴隷に、日々国を守る貴族ゆえのストレスを発散させる役目を与えようと近づいたとき、いきなり体をバッサリと斬られたのだ。

口を押さえられたかのような圧迫感もあり、悲鳴すら出すことができずそのまま倒れ伏した。

(いっ、今なら・・・助けを呼ばねば・・・)


横たわり口元への圧迫感がない今ならば助けを呼べる。この殺人鬼は当主以外を狙うことをしないという。きっと屋敷内には、まだ精鋭が残っているはずだ。


大きく息を吸い込み声をあげようとしたとき、息苦しさとともに男の体は浮遊感におそわれる。その感覚と状況によって男は理解した。

(なにか・・・いる・・・)


首根っこを掴まれて持ち上げられている。男の現状は正にそれだった。締め付けられる首にはたしかに手の感触を感じる。通常のそれと違うのは、相手の姿が全く見えないこと。


そして男の生涯の終わりは、無情にもすぐそこまで迫っている。首へかかる力がギリギリと強まるなか、もはや男はまともな思考すらできない。


ボキン!という音がして、男の体はべしゃりと床に落ちた。


その一部始終を見ていたのは、下手人ともう1人いる。その部屋に縛り付けられていた少女の奴隷だ。

恐ろしい光景を目撃した少女の瞳には今、血の足形が自分の方に近づいているのが見えた。


1歩前まで近づいたとき少女は目を瞑る。目撃者である自分は、おそらく始末されるのであろうと悟ったのだ。

そんな意に反して、少女には一向に何も起こらない。バキッという音がすぐ近くからしただけだ。


おそるおそる目を開けると、少女の足に付けられた足枷の鎖が破壊されていた。

窓もなく鍵がかかったその部屋には、もはや少女しかいないのだった。

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