自由をその手に
次の日ユウとパルファは、ゲノムの工房までやってきていた。
今日はパルファも一緒に入るらしい。天才鍛冶師ゲノムへの興味、そしてユウの新しい剣を少しでも早く見たいとのことだった。
ーコンコン
「「失礼します」」
2人が入ると、昨日と同じくゲノムは奥の通路から出てきたところだった。
「お世話様です。ご依頼していた剣を取りに来ました。こちらは・・・」
「初めまして、ユウとパーティを組んでいますパルファです」
「・・・あぁ、ゲノムだ」
最低限の挨拶をして、ゲノムは何かを机の上に置く。
布に包まれたそれは、言わずもがな新しいユウの剣であるだろう。だがその中身よりも気になるのは・・・
「あれ?あの・・・」
「少し小さくないでしょうか?」
そう。布に包まれたその物体の輪郭が、どう見ても元の剣よりも小さいのだ。
ゲノムはそれに答えず、黙ったまま包みを開く。
ーーー中から出てきたのは、刀身から柄に至るまで全てが漆黒色のナイフだった。
実際にはナイフよりも少し長く、全長は40センチほどだろうか。
そして刃も以前の剣のように鋭いという印象から変わって、サバイバルナイフのように攻撃的で獰猛な刀身になっている。厚みも増して、1番分厚いところは1センチ以上あるだろう。
また印象的なのはメリケンサックを兼ねた強靭そうなナックルガードがついていることだ。
これならば、打撃に切り替える際にわざわざ武器を仕舞うといったことをせずに済む。
ここまでの仕事を見れば、ユウの戦闘スタイルにピッタリの武器だと考えられる。だが、
「あの、剣にはやっぱりならなかったんでしょうか・・・」
ユウも今まで剣を持っていて、いきなりナイフを渡されたら少し戸惑いがある。
「・・・正直、剣にしようと思えば出来ただろう。だがお前はそのナイフを使うべきだ」
ゲノムはそれだけ言う。多くは語らないのだろう。
「あの、部外者が口を挟んですみません。このナイフが業物であることは分かりますが、いくらなんでも・・・」
パルファももう少し説明が欲しい、とフォローをしてくれる。
「これが1番適した形だと判断した」
ゲノムはそれ以上、説明をしなかった。
「分かりました・・・ちなみに魔石によってどんな効果が付与されたのでしょうか?」
パルファが気を取り直し、ゲノムにそう尋ねる。
「・・・魔石の効果は【自由】。効果はすぐに分かるだろう」
自由、か・・・
記憶の中のあの悪魔が、少し笑った気がした。
ナイフを手に取ってみる。
見た目通り普通のナイフよりも重厚なそれは、2本分の剣が使われたことを想像させる。
そしてナックルガードに指を通したとき、ナイフに自分の神経が通じたような感覚を覚えた。
「あっ、ありがとうございます!」
その感覚に呆然としつつ、気づくとユウはゲノムにお礼を述べていた。
〜〜〜ゲノムside〜〜〜
2人が帰った工房で、ゲノムは旅の支度をする。
ゲノムの工房は各地にある。それこそ隣国のノワール帝国や、宗教国家であるエリアゼラ皇国にも存在している。
ゲノムはそれらを定期的に転々としているのだ。
だが、今回はそれらのどこに行くわけでもない。
そして今や存在するゲノムの工房は、今いるここにしか無い。
明日になれば、ここもただの空き家となるだろう。
「どうだった?未来を見通すあなたが、自分自身の目で見て」
片付けをしているゲノムに、突然現れた水色の髪の少女が話しかける。
突然現れて話しかけられる。普通ならば誰しも驚くことだが、ゲノムはそれに驚かず淡々と答える。
「分からない。まだ、あの少年は」
そう述べたゲノムに、少女はさらに質問をする。
「じゃあ武器は、手を抜いたの?」
将来、どんな立場として現れるか分からない少年の武器を、手を抜いて作ったのかどうかを聞く。
「・・・鍛冶師として武器は最高の物を作った。それに、」
ドサッ
1冊の本が床に落ちて、ゲノムは屈んでそれを取る。その際に頭に巻いていたターバンが、スルリとほどけた。
「同胞の願いだからな」
ゲノムの額よりも少し上の部分には、2本の角が生えていた。
「そう・・・もう準備は出来たの?」
少女が尋ねると、ゲノムは頷く。
「先にいけ。俺は自分の足で歩いて向かう」
分かった、という声をのこして、部屋にはゲノムしか居なくなった。




