暗闇の中の勇気
ユウの蹴りあげがハイドの顎を捉えた。クリーンヒットだったようで、ハイドは仰け反りつつ少し距離をとろうとする。
そしてユウは、アークデーモンを複数体相手取るパルファを確認する。ユウの瞳には、今まさに攻撃を食らう寸前であるパルファが映っていた。
ユウは超速で近づき、パルファを押しのけて攻撃から守る。アークデーモンの手刀はパルファの代わりに自分の右胸に突き刺さったが、ただではやられずに一瞬で3体のアークデーモンの頭を素手で刈り取った。
「ユウ!そんな、どうして・・・」
少し吹き飛ばされた自分を追って、パルファがこちらに駆け寄る。
「いった・・・いわけないか。パルファにはシャドウストーカーのときに助けてもらったから、今回は僕の番かな?ってね」
よいしょと言いながら立ち上がり、ユウはまたハイドに向き合う。
「本来もっと効率よく動ける身体性能でしょうに・・・。不器用な身体で頑張りますねぇ」
ハイドがユウに言う。殴り殴られ蹴り蹴られの応酬をしているが、ハイドは固い皮膚と魔物ゆえの特殊な体内器官によってさほどダメージを受けていない。
対してユウは痛覚などを失っていて問題なく動けるというだけで、体に蓄積されているダメージは深刻だ。危機感による「避けなきゃヤバイ」「これを食らったらまずい」といった反応が出来ないことが、こんなにも大きな問題となるとは思ってもいなかった。
ハイドの言動を受けて、ユウが返事をする。
「大切な人を守るためなら、どんなに歪な身体になっても構わない・・・!」
ユウはそうしてハイドへと向かっていく。激しい肉弾戦が再度始まるが、やはり時間が経つにつれてユウの打撃は入らず、ハイドの打撃は吸い込まれるようにユウにヒットする。
「そろそろ飽きてきましたね。終わりにしましょう」
ハイドは興味を失ったかのような平坦な声色で、大きく翼を広げる。
翼が羽ばたくような動作をして、ユウへと強風をぶつける。その瞬間、ユウの視界は真っ暗になり腹部へと強い衝撃が走った。
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【固有スキル】
常闇
〈空間を闇で支配し自在に操る〉
〈暗闇の中での戦闘能力UP〉
〈一定量の攻撃を与えた相手の視界を奪う〉
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~~~パルファSide~~~
ハイドの巻き起こした風を受けた直後、ユウの動きが目に見えて悪くなった。
「目が・・・見えていないの?」
一方的に打たれ続けるユウを見てパルファは異変に気付く。だがそれに気付いたところで、パルファにはどうすることも出来ない。
パルファはユニークスキル【純白】をレベル2にしており、魔法と剣技に大きく秀でている。たゆまぬ努力によって強度もBで、一般的な冒険者としては、かなり優秀で強力な力を持っている。
でもそれはあくまで一般的な冒険者として、だ。
今目の前にいる化け物。そして蹂躙されている少年。双方は一般的という範疇を大きく逸脱した存在だ。
強度がBあっても聖騎士のスキルを有していても、この1人と1体の戦いには何も手出しができない。
目の前で傷つく少年を見て無力さを感じ、無謀でも動き出せないことに嫌気がさす。
こんなとき、もし偉大で強い父であればすぐさま戦いに割って入り、勇猛果敢に魔物を討伐するだろう。
だが自分には、そんな大いなる力は無いのだ。
(また・・・同じ・・・)
過去に組んでいたパーティー『希望の炎』の時も、ユウは一人で恐ろしい敵と戦っていた。あのとき敵の恐怖や不気味さに苛まれていた自分が許せず、父やその知り合いの有名冒険者にお願いして自分を鍛えた。
短期間で強度もBにして、ユニークスキルのレベルも2に上がった。
今ならあの気高く心身が強い少年と並び立つ資格がある。そう思いが固まった時に、パートナーになってもらうことを志願した。少しでも早く伝えるために、スタンピードの現場に先行部隊として駆け付けたのだ。
(あの時もユウは、傷だらけになりながら無理をしてでも何かを守ろうとしていた)
再会したユウはさらに強くなり、偉大な戦果をあげて多くの人たちを救っていた。
思えばあの時また、差は大きく開いていたのかもしれない。それなのに自分は並び立てると勘違いをしていたのかもしれない・・・
弱気に支配されそうになったとき、前方から強く鈍い音が鳴った。
「ぐっ!・・ふふふ、しぶといですねぇ」
視界を封じられていたユウの一撃が、偶然ハイドの顔面をとらえたのだ。
してやったり、と見えないはずのユウの目じりが下がるのを見て、パルファははっと気づいた。
(違う。違う違う違う。本当の強さは・・・!)
―――父ならたとえ自分では勝てない相手でも果敢に立ち向かう
―――――ユウは勝てない相手にも絶対に諦めない
―――――――勇者は、勇者としての強さとは
それは脈々と受け継がれる偉大な血のせいか、それとも目の前の勇気ある少年のせいか。弱気を弾き飛ばしたパルファは、この状況で新たなる力を目覚めさせた。




