何かがおかしい
「嘘でしょう?」
「・・・・・」
ダンジョンを進むパルファとユウの2人は、予想だにしなかった事態に戸惑っていた。
一階層で恐ろしい規模とランクのモンスタールームを経験したので、二階層に入る前には入念な準備をして、入ったあとも油断なく進行をした。
そんな2人の目の前にあるのは、つい先程降りてきたのと同様の下に降りる階段だった。
「ここまでリビングアーマーやインプ、ミミックとかのDランク以下の魔物しか倒していないわ。なのにこんな・・・」
「あっさりしすぎ・・・だよね・・・」
ユウもこの二階層の肩透かしには、少し違和感を覚えた。
(これは罠なのか?もう一度油断させようとしている・・・とか・・・)
・・・まぁ、考えても分からない。
それに、このタイミングで入って次もモンスタールームでした、なんてことになったらたまったものではない。
「パルファ、今日はもう上の魔物の素材を回収して戻ろう。ここまでの距離感が掴めただけでも収穫はあったよ」
「う、ん・・・そうね。今日は戻りましょうか」
パルファも少し後ろ髪を引かれるような感じだったが、今日はここまでという意見に賛同してくれた。
そうして2人は、一階層の階段がある場所まで戻っていく。
〜〜〜〜〜
「・・・ねぇ・・・本当にどういうことなの?」
「ごめん、全く分からない」
一階層に出たパルファとユウの目に飛び込んできたのは、荒れ果てた教会ホールだった。
もちろん、これらは自分たちが戦った跡であり、この跡をみて2人は驚いているのではない。
ごっそりとあったはずの魔物の死体が、戦いの跡だけ残して無くなっていたのだ。
「たとえばダンジョンが魔物の死体を吸収するとか・・・?」
「・・・冒険者が殺して素材をはぎ取らないで、死んだそのままの状態で放置した場合は起こらないのよ。たとえばパンドラボックスは、私たちの攻撃じゃなく自身の絶叫と引き換えに死んだから、死体が無かったでしょう?」
たしかに、朝ここに来た時の光景を思い返すとパンドラボックスの死体は無かった。
「わざと死体を残して出現率を減らすっていう攻略法もあるくらいだから・・・まさか、私たちの他にも冒険者がきたの?」
そう言って、パルファは出口の扉の方へと歩いていく。おそらく見張りの衛兵に尋ねるのだろう。
ユウもそれについていき、2人が出たあとの教会には暗闇と静寂だけが残った。
〜〜〜〜〜
「なんと・・・面妖な・・・」
目の前のガイは話を聞き率直な感想を述べる。
解隊を予定してダンジョンを切り上げた2人は、魔物の死体が無くなったあと「やっぱり攻略再会しよう」とはならず、1度ルーグまで戻ってきていた。
ダンジョンの外にいた衛兵に聞いても、ユウ達以外に入ってきたの者はいないと言っていた。
時間を持て余したので、ガイの元にこの話をしに来たのだ。
「・・・まずそもそも大原則として、ダンジョンは最初の階層より奥に行くほど手強くなるのじゃ。大規模なダンジョンで中層ボスなどおる場合は、その階層だけ強いということもあるが、最初の階層が1番強いなど聞いたことがないですぞ」
深刻な顔をするガイは続ける。
「ダンジョンにはまだまだ未知な部分が多い・・・パルファ殿ユウ殿。お2人が引き当てたのは、恐るべき魔境だったのかもしれませぬ」
いつものワクワクとした楽しむ様子でなく、真剣な眼差しでガイはそう言った。
この好奇心の塊のような老人が、今は本気で2人の命を心配しているのだ。
「ガイ殿は、このような事態を引き起こす魔物に心当たりはありませんか?」
「・・・申し訳ない。この老いぼれの記憶を掘り返しても、そんな不可思議な魔物は覚えがないですのう」
パルファの問いにガイは申し訳なさげに答える。
「とにかく、明日もう一度行ってみましょう。三階層目を見たら、何か分かるかもしれないわ」
そう言ってパルファは立ち上がり、ユウもそれに続く。
「何度も言いますが、十分気をつけてくだされ。勇気と無謀は違いますからな」
ガイは2人を見送る際、最後にそう告げた。
〜〜〜〜〜
そうして次の日、パルファとユウはダンジョン三階層へ続く階段まで来ていた。
昨日と同じく一階層は戦いの跡のみ残り、二階層も別段強い魔物は登場していない。
「・・・問題はここからだね」
ユウは階段の奥を見つめながら言う。ここまで奇怪な事象を発生させてきたダンジョン。次の階層では、何が待ち受けているのか。
「えぇ。行ってみましょう」
2人は次なる階層へと踏み出して行った。




