穏やかなダンジョン、穏やかじゃない王都
次の日の朝、ユウとパルファはダンジョンへとやって来た。
『長年生き多くの魔物やダンジョンを知りましたが、階層を超えて影響を与える魔物など聞いたことがありませぬ。ユウ殿、しっかりと注意なされ。そのダンジョンは何かがおかしい』
闇の中に佇む異質な教会、それを見上げてユウは昨日ガイに言われたことを思い出す。
「おまたせ。周囲をぐるっと回ったけど、やっぱり他に入口や、変なところは見当たらないわね。」
教会の周りを確認してきたパルファがそう言う。やはり入口は、ここで正解のようだ。
「1回外に出たから、もう一度あの魔物達との戦いをやり直しってことはあるかな?」
「普通なら無いはずだけど・・・でもガイさんの言葉からしたら、ここはあると想定して警戒するのが間違いなさそうね」
そう言って2人は、熾烈な戦いの記憶が蘇る教会の中へと入った。
だがその意に反して、教会の中は先の戦いの跡が色濃く残っており、歩き出してもまた戦いをやり直すという気配を感じなかった。
「1度クリアしたメンバーは状態が引き継がれる。どうやら、この辺の仕様は普通のダンジョンと同じようね」
「うん。ちなみにだけど、このダンジョンのランクはどのくらいだと思う?」
ユウはパルファに質問をした。
魔物や冒険者と同じく、ダンジョンにもランクがある。基本的には出現する魔物のランクで決まり、例えばダンジョンボスがSランクの場合はダンジョンのランクはAとなる。冒険者は複数人で攻略に挑むため、難度として考えるとダンジョンボスのランクより1つ下がるのだ。
「そうね・・・この部屋にAランクの魔物が出たことを考えると、最低でもBランクはあるでしょうね。でもいきなりモンスタールームだなんて、いやらしさなら間違いなくAランクよ」
「ははは、たしかに。そういえばこの魔物たちの素材も、売ったら結構な額になるね」
ミノタウロスの角やデュラハンの鎧やグリフォンの翼など、貴重な素材が野ざらしで捨てられてる状況は改めて考えるととてももったいなく感じる。
「下の階層に行ってキリのいいところで、これを解体しに戻ってこようか?」
「そうね。どちらにしてもここは通るわけだしそうしましょう」
2人は今日の動きを決めて、祭壇近くの階段を降りていった。
〜〜〜〜〜
階段を降りると、そこは洋館の廊下のようになっていた。一本道には絨毯が敷かれており、この階層も上と同じく暗闇が充満していた。
「パルファ、ここも見えるの?」
「えぇ、問題ないわ。やっぱりこの暗闇は同一個体のスキルで間違いないわね」
少し様子を見て、2人はまっすぐ歩き始めた。
壁に絵画が飾られていたり花台が置かれていたりと、内装は本当のお屋敷と何ら変わらない。
しばらく歩を進めたとき、前方からガチャガチャと金属音をたてて何かが迫ってきた。同時に壁からもなにか嫌な視線を感じる。
「あれは・・・リビングアーマーね。私が行くわ」
「頼むよ!僕はこっちを片付ける!」
ガッ!!
ユウが突然絵画に剣を突き立てたことに一瞬驚いたパルファだったが、苦痛に歪む絵画の表情を見て察したようで、リビングアーマーへと向かっていった。
ユウが刺した絵画からは、赤子のような体格で紫色の肌をした魔物ーーインプがポトリと抜け出て落ちてきた。
それを皮切りに、周りの絵画からいっせいにインプが飛び出し、ユウを四方八方から攻撃しようとする。
だがユウはそれを完全に見切り、十数体いたインプを瞬く間に切り伏せた。
パルファの方も、数体いたリビングアーマーのちょうど最後の一体を倒していたところだった。
「分かってはいたけど、やっぱり上はモンスタールーム確定ね。出てくる魔物が弱すぎる」
「まだ2階層目だからね・・・油断は禁物だよ」
そうして2人は再び、この一本道を進み始めた。
〜〜〜勇者side〜〜〜
数日前の王都にて。
(あの2人は無事だろうか。)
今回新しくダンジョンが見つかり、場所的に勇者の修行の場として使い潰そうという結論にいたった。
だが逆にそのせいで、前情報が一切ない状態で我が娘たちは攻略に挑むこととなった。
(貧乏くじを引いていないといいが・・・)
「おいジィファ、俺の前で考え事をするために俺を呼んだのか?」
「おっ、と。すまないアラン。でも呼んだ理由については分かっているのだろう?」
娘とそのパートナーの心配から意識を戻し、ジィファはパートナーであり双子の兄であるアランへと話す。
「分かっているさ。建国記念の式典についてだろう?今年は出る」
「あぁ。毎回誘われて嫌だろうが、今年こそは出てく・・・え、なんて?」
思いがけない返事に、ジィファは呆けた顔で反応した。
「だから、今年は出席すると言ったんだ。メリィも最近は体調が良くてな。式典に一緒に参加させてやりたいのさ」
「そ、そうか!・・・それは助かる。本当に」
血を分けた兄弟の参加に喜ぶのもつかの間、ジィファの声のトーンは真面目なものに切り替わる。
「ん?どうしたんだいきなり。」
「いや、正直言うと今回は是が非でも参加してもらうつもりだったんだ」
コレが王宮にな、と言ってジィファは机の上に、一通の手紙を置く。その手紙をアランは手に取り読み始めた。
「・・・なるほどな。これは穏やかじゃなさそうだ」
そう言ってアランは、目を通し終えた手紙を机の上に戻す。そこにはこう書かれていた。
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次ノ 建国記念ノ 式典デ
コノ国ハ 終焉ヲ迎エル
王ト勇者ノ 血ハ絶タレ
民ハ絶望ノ淵ニ立ツ
王トシテ 勇者トシテ
我ガコノ国ヲ
貰イ受ケヨウ
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「アラン、久々に2人で暴れないか?」
「・・・真の勇者の力を見せてやるか」
2人はそう交し、ゴツっと拳を付き合わせた。




