表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/108

守ってくれてありがとう

鮮血が舞い、上半身と下半身が両断されて崩れ落ちる。

剣を振り抜いたデュラハンに殺戮以外の思考回路があったなら、その光景が脳裏に過ぎったことだろう。


だが、現実は違った。

確かに少年は無傷とはいかなかったものの、両断されることは無かった。

さすがに流血こそあったものの、鮮血が舞う程でもなかった。


デュラハンの一閃を受けた少年ーーユウは身に持つ膂力と反射神経によって、剣戟を生身で受け流したのだ。

もちろんそんな高等技術を、絶叫で三半規管がやられていた時に完璧にできるわけがない。

剣が当たる際にわざと跳ぶことで、吹き飛ばされつつも体を両断されることを防いだのだ。


(・・・本当はシルバさんみたく受け止めたかったけど、さすがに真剣は無理だよな。)

身体能力と自ら吹き飛ばされることで緩和したダメージだが、そこそこ切られた脇腹と打った頭からは緩和できたとはいえない量の血が流れている。


それでもユウは前に出る。自分を信じてくれた勇者を守るために。相性が悪く倒せないデュラハンを、何度も何度も切りつけた。


アンデッドで再生するといっても、その凄まじい剣戟に怯んだのか、デュラハンは少しずつ後退していく。

そうしてユウは倒れた勇者パルファを抱き上げ、壁際へと避難した。


(大丈夫。息はしっかりある。)

すぐには起きない。だが、命に別状はないくらいの呼吸と心拍数がパルファから確認できた。


おそらくユウが自分なら大丈夫だと自己判断したように、パルファは自分を犠牲にしてでもユウのダメージを軽減した方が良いと考えたのだろう。


そして実際に、その判断は正しかった。パルファが自分で耳を塞いでいたとしてもダメージは凄まじかっただろうし、ユウが生身でアレを受けていたらすでに倒れていたかもしれない。


パルファの頬を軽く撫でて、光源が消え去った暗闇に潜む魔物達に向かい合う。

(あの声で死ななかったのは、魔物側にもチラホラいるみたいだな)


デュラハンは耳がないため、そもそもパンドラボックスによるダメージがない。その他にも、ミノタウロスをはじめとする高ランクの魔物達は、気絶しただけで徐々に起き上がってきていた。


(まだまだ数は多いな。・・・守ってもらったんだ、今度は僕の番だ。)


そうしてユウは、自身の歪なスキルを発動する。楽観的な考えをしてしまうなら、初めからこんなものは要らない。そんな思いの元に。



ーー危機感を変換し、適所に統合します。



魔物でさえ敵を見失う暗闇の中で、誰に知られることも無くユウはまた1つ欠落したのだった。


〜〜〜〜〜


変換スキルを使うと、まずはじめに形容しがたい虚無感に襲われる。だが虚無感を感じてすぐ、自分は生まれつきソレを持っていなかったような感覚に陥る。


そうして次は残った部分に、これまた言い表せない何かが循環する。朝起きて血がめぐり、全身の神経を感じるように、力がじわりじわりと脈打ちながら広がる。



危機感という、古来から生命の存続を支えた感性を変換した効果は絶大だった。



==========

名前:ユウ

種族:人間

強度:AA

【ユニークスキル】

変換 Lv1

==========



ユウは手始めに1番近くにいたデュラハンへと肉薄し、鎧を纏った胴体を蹴り飛ばす。魔物にしては細身といえど、重量感のある2m近い巨躯がくの字に折れて、数体の魔物を巻き添えにし反対側の壁に衝突した。


それに気を取られたミノタウロスを背後から両断し、その片割れの足を右腕で抱え込んで周囲を薙ぎ払う。

こと切れた筋肉の塊のフルスイングは、周囲にいた魔物を生体死体問わず吹き飛ばす。

そうしてユウは1度パルファの元に戻り、先程からコソコソと無防備なパルファを狙う四足歩行の魔物と対峙する。ライオンのような体躯で人の顔を持つ化け物マンティコアだ。


知能の高さを窺えるニヤニヤとした顔面は、自分たち魔物の優位を信じて疑っていないのだろう。ユウはその不愉快な表情を崩させる間も与えず、頭蓋を掴んで壁に打ち付けた。

グシャッという音がして、ずる賢い獅子の体は壁伝いに落ちていく。


(次はあの目障りな上のやつだが、その前に)

チラリと天井の方を見やるのも一瞬、ユウは先程吹き飛ばしたデュラハンが近づいているのに気づく。

「お前はまだ寝てろ」

またもや距離を詰め、本来首の付け根がある部分に手を当て床にめり込ませる。ユウではデュラハンを完全に倒しきることができないので、こうして身動きを取れないようにさせるのだ。


床にめり込ませたデュラハンの体を踏み台にして、ユウは頭上をチョロチョロと飛んでいた4足の鷲の魔物グリフォンに迫る。

空中にたむろする数匹のグリフォンの中心にとびあがり、直後ユウの体が一瞬ブレた。滞空時間が過ぎてユウは落ちていくが、その周りには細切れになったグリフォンもいっしょだった。


落下する最中に、少し離れた椅子の影に忌々しいあの宝箱を発見する。口を少し開いており、またあの絶叫を放とうとしているのだろう。

ーー好都合だ。


次の瞬間、2度目の死を運ぶ声が教会内部に響き渡った。残りの魔物たちが膝をつき泡を吹いていく中で、ユウは無防備な魔物を蹂躙していく。その間パルファも、穏やかに横たわったままだった。


もちろん、死んでいる訳では無い。パルファはユニークスキル【純白】によって、1度受けたスキルに絶対耐性を得るのだ。あのマリという男に精神をやられなかったのも、このスキルのおかげだろう。


変換して強化されたユウ、純白によって耐性がついたパルファにとって、パンドラボックスの絶叫は応援に等しかった。


そうして残るは床に固定されたデュラハンのみというところで、そのデュラハンがいる方向からザス!と剣を突き刺す音が聞こえた。

振り返るとパルファが頭を抑えながら、白銀に染まる聖属性を纏った剣をデュラハンに突き刺したところだった。


「さすがに清々しい目覚ましとはいかないわね。守ってくれてありがとう」

「パルファおはよう。こちらこそ、守ってくれてありがとう。」

多くの魔物の亡骸に包まれた2人はフッと笑い、無事だった椅子にもたれかかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ