一寸先は闇、一寸先も闇
2人は早速ダンジョンに入るべく、衛兵へと近づき話しかけた。
「お疲れ様です。勇者パルファと、パートナーのユウです。」
パルファはそう言って、ダンジョンを守っていた衛兵にガイから貰った証明書を見せようとしたが、
「いや・・・大丈夫です。あなたの首に付いていた物をみて、すぐ分かりましたよ。」
そういって衛兵は、ユウの首を指さした。ガイがこれを渡してくることは周知のことだったらしい。
「この先は場所も敵も財宝も、なにも分からない未知の世界です。あなた方が道を切り開いてください。我々も楽しみにしています」
衛兵はそう言って、パルファとユウに中に入るよう促した。ユウが暗闇に向けて1歩を踏み出そうとすると、パルファが手を握ってきた。
「パルファ?・・・もしかして怖いの?」
「ち、違うわよ!ダンジョンに入る時は、はぐれないように手を繋ぐの。入ったものを別々の場所に転移させる意地の悪いダンジョンもあるらしいから・・・」
顔を赤らめつつ、パルファはそう言う。そっかとだけ言い、ユウも手をギュッと握り返す。
どちらが合図をしたわけでもなく、ユウとパルファは同時にダンジョンへと踏み出した。
〜〜〜〜〜
『まぁ定番は洞窟だろう。変化球で砂漠か花畑だったら面白そうだ』
ダンジョンに入る少し前のユウは、気楽にそんなことを考えていた。
パルファから意地の悪いダンジョンについて話を聞いても、2人なら何とかなると楽観視をしていたからこそ、軽く返事を返した。
久しく忘れていた。楽観視をすると悪いことが起こるということを。
ユウは今、気絶したパルファを守りながら魔物の軍勢を相手取っている。
頭や体から流血をして、少しの余裕もない中で多くの魔物を相手取り戦っていた。
これがスタンピードのように、広い場所で弱い魔物を相手にするならどれほどよかったことか。
自由がきかない環境で、あのレッサーデーモンが可愛く思えるほどの魔物を相手にしているユウは、自分への戒めとして迷わずに行動を起こした。
ーー危機感を変換し、適所に統合します。
ダンジョンに入って初日、ユウから大切なものがまた1つ欠落した。
〜〜〜パルファside〜〜〜
丘陵地帯の岩壁に空いた漆黒の穴、ダンジョン。
そのダンジョンに踏み入った瞬間、私たちは驚愕した。
目の前にあったのは洋館。教会と周囲の土地だけを残して消滅したかのような、闇と静寂の中にひっそりと建っていたの。
「なによ・・・これ・・・」
「ダンジョンに決まった形は無いとは聞いていたけど、教会か・・・」
隣にいるユウも、予想だにしないダンジョンの形式に少し驚いているみたい。ためしに地面に落ちていた石を、周囲に広がる闇に向かって投げ入れてみる。
石は転がった音すらせずに、闇に吸い込まれていった。
「どうやら、この教会がダンジョンってことで間違いないね」
「えぇ。・・・1階建てのようだけど、下へ降りる一般的なタイプのダンジョンね。中身だけは」
教会を改めて見る。周囲の闇に対して、質素だけど清廉なこの教会からは、逆に不気味さを感じるわ。
そもそもこの暗闇の中、教会だけ視認できるのは何故なの?
月も太陽も見当たらない、光源が無い空間において、目の前の教会は異質にしか見えない。
それを考えて少し身震いをすると、ユウは洋館に向かって歩き出した。
「とりあえず中に入ってみよう。」
「・・・そうね。そうしないと始まらないものね。」
胸のざわつきを感じつつ、2人で扉を開けて教会の中へと入る。
中は周囲の闇に比べるとマシなものの、十分に黒く淀んだ暗闇が広がっていた。
光源を生み出すライトの魔法を使い、辺りを照らす。
周囲は荒れ果てているわけでも、魔物が蠢いているでもない、普通の教会。
(でも、だからこそこれは・・・!)
そう、それがまたパルファには恐ろしく感じた。異常な状況下での正常や通常は、それこそがなによりも異常なのだ。
隣にいたユウが、先に進もうと促してきた。
そうして1歩踏み出した瞬間。
バタン!!!
開けたままだった扉が締まり、ライトの魔法が強制解除された。
「パルファだめだ!!」
「えっ?な、なにが・・・」
ユウが止めるより早く、私はライトの魔法を再発動させた。そうしてやっと止めた理由を理解した。
先程まで何もいなかった空間に、夥しいほどの魔物が充満していた。
それら全てが、今まで単体でしか相手をしたことがない高ランク。
魔物たちの赤い視線は、1人暗闇で照らされる私に向けられていた。




