2人の勇者
「はぁー、少しやり過ぎたかなあ?」
その日の晩、ユウは案内してもらった宿屋の一室でベッドに寝転がり呟いた。
「でも手を抑えただけじゃどうせ引かなかっただろうしなぁ。それに片手だし。」
今後こういったことは増えるかもしれない。その都度トラブルを起こしていたのではさすがに・・・
だがしばらく、この街では平和なひと時を過ごせるだろう。
衛兵の大捕物があったせいで、表立って喧嘩を売るような輩は息を潜めるはずだ。
すぐに解決する問題でもないだろうし、ユウは今いるベッドのふかふかさ具合に酔いしれることにした。
〜〜〜パルファside〜〜〜
平静を装っていたけど、今日は驚いたわ。
もちろんそれは、ユウが傭兵の腕に串を貫通させたこと。
まずそもそも動作が速かった。強度Aというのは知っていたけど、ユウはそれにしても異常だわ。
私自身強度はBあるし、父の知り合いで強度Aの人が戦うところも沢山見てきたのに。
自分の能力や経験から、ある程度の目は養ってきたと思う。それなのにユウの動きは、ギリギリ目で負えないレベルの速さだった。
強度というのは総合力で決まるもの。魔力や体力、膂力や敏捷などの数値を足していって決まる。
でもユウの場合は、もしかしたら膂力や敏捷などの直接戦闘に関わる数字が、歪に偏っているのかもしれないわね。
でも直接戦闘スキルだけでは、どうしても倒せない敵がいる。パルファも得意というわけではないので、ダンジョンではそういった敵に出会わないよう願っておこう。
でも・・・恐怖心や焦燥感を変換したとは聞いていたけど、「人の腕に何かを刺す」という行動に少しも躊躇しなかったことにも改めて驚いたわ。
でもそれでいい。なにかを守るために戦えるのは、それもひとつの勇気なのだから。
やっぱり彼で間違いなかった。
・・・んぅ、ベッドがふかふかで気持ちいいわね。
そろそろ寝ようかしら。
〜〜〜〜〜
ディガイアにて一泊した翌日、ユウとパルファは街を出た。
「ユウも冒険者業を続けるのなら、今後ディガイアのコロシアムで行われる武術大会に縁があるかもね。」
街を振り返りながらパルファがユウに言う。そういえば、街の中心に大きな建造物があって、そこに向かって屋台は続いていたな。
「武術都市って名前はそこからか。どういう大会なの?」
「各国から腕自慢や推薦された有力冒険者が集まって、最強の称号を巡って争うの。シルバさんも過去に出たことがあるのよ。」
あのシルバさんも出た大会。
そのフレーズだけでも、強さに憧れるユウにはとても魅力的に感じる。
「シルバさんは何位だったの?」
ユウは最も気になる疑問をぶつける。
「2回戦まで突破したらしいからベスト8ね。信じられないでしょう?」
(あのシルバでさえベスト8・・・!)
世界は広いと分かってはいたが、改めてそれを実感する。もし自分が戦うことになったとき、色々なものを犠牲にして得たこの邪法の強さは、果たして真の強者に通用するのか。
「ちなみにジィファさんは何位だったの?」
「父上は出場していないわ。というよりも、勇者家系は出場を禁止されているの。人々の希望である存在が万が一敗北したら・・・ってね。」
パルファは肩をすくめつつそう告げた。さすが勇者というべきか、人々から尊ばれる存在にはそういった不自由さもあるのだ。
「帰りに寄ったとき、定期的にやっているトーナメントでも見ていきましょうか。」
「うん、そうしよう!」
武術大会の話をそう締めくくって、2人は次の都市に向かった。
~~~王都~~~
「どちらも、もうすぐ到着をする頃かな」
男は自宅の屋敷にて、ひとりそう呟いた。脳裏に思い浮かべるのは、愛娘であり次代の勇者であるパルファ、そして次代の勇者のパートナーとして認めた少年ユウだ。
だが、どちらもというのはこの二人を指していったわけではない。この男――今代勇者のジィファは、自分を訪ねてくる大切な来客を待っていたのだ。そしてその人物が着々と屋敷に近づいてくるのを、ジィファは感じ取っていた。
恨まれることも多い勇者という存在だけあり、ジィファの知覚範囲というのはかなり広い。その者の気配の強さも相まって、ジィファは正確にその者の位置を把握していた。
だがこの人物の気配を正確に感じ取れる理由はそれだけではない。
もうひとつの理由は―――
「当主様、いらっしゃいました。」
「あぁ、分かっているさ」
この来客とジィファには強い繋がりがあり―――
「やはり当主様とお顔が似ていらっしゃいますな。新米メイドが驚いておりました」
「小さなころはそれを利用してよく皆にいたずらをしたからね」
「お前との待ち合わせは待つことも待たされることも無いから助かるよ」
誰よりも長い時間を共に過ごしていたから―――
「おぉアラン。1ヶ月ぶりくらいかな?」
「メリィの誕生日以来だから、1ヶ月半ぶりだな。」
勇者ジィファのパートナーであり双子の兄―――アランが王都に訪れたのだった。
客間の前にある廊下。家主と来客が同じタイミングで現れ、固く握手を交わした。
勇者、そして勇者の子供。
ユウの知らないところで、運命は少しずつ動き出していた。
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