旅立ちと血統
それからダンジョン出立までは早かった。
アルは宣言通りユウの家へ毎日訪れた。ときには仕事終わり騎士の姿のまま、ときには非番の日に新しく買った服を見せに。
最初こそリリアと揉めていたようだが、3日目くらいからコソコソと話をしたり、一緒に料理をしながらコソコソと話をしたりしている。仲良くなってくれてよかった。
そうして今、ユウとパルファは朝早く王都の門の前に来ていた。
アルとリリア、ジィファやオッドたち春風の一行、バラモスまでも見送りに来てくれている。
「ユウくん!本当に、気をつけてね」
「無理は禁物ですよ。パルファさん、ユウさんをよろしくお願いします」
「ユウ!ちゃんと仲間を頼れよ!」
「入念な準備をして、無理は禁物だよ」
・・・・
・・・
さまざまな声をかけられながら、ユウとパルファは向かい合い頷く。そして皆の方へと向き直り、一言を告げた。
「「いってきます!」」
そうして2人は、ダンジョンへと歩き始めたのだった。
〜〜〜〜〜
「今更だけどごめんなさいね。馬車の用意もなくて・・・」
王都を立ってしばらくの林道で、横を歩くパルファが申し訳なさそうに言う。用意しようと思えばできたのだが、ジィファさんからストップがかかったのだ。
「いえ、この旅路もきっとパルファさんが勇者となるのに必要なことなんですよ。でも意気揚々と出発して、結構な距離見られていたのは恥ずかしかったですね」
いってきますと言って、しばらく背中に沢山の視線が突き刺さっていた。思い返しても気が抜けそうになる。
「ふふふっそうね。・・・ねぇユウ、せっかくパートナーになったのだし、さん付けと敬語はやめにしない?」
パルファがそう提案してくる。
「えっと、わかりま・・・わかったよ、パルファ・・・さん」
「あっははは!まぁ少しずつでいいから、慣れていってね。」
違和感に負けてさん付けしてしまったことを笑われるユウ。パルファさんくらいの年齢の人を呼び捨ててタメ口を使うのは、この世界に来て始めてだから仕方ないだろう。
「でもパルファ・・・さん、会ったばかりの頃よりも朗らかになったね。最初はもっとこう、クールビューティって感じだった」
「今が素なんだけどね・・・立場上、誰にでもこうは出来ないの。父だって実は、家だともっとひょうきん者なのよ?」
あのジィファさんがひょうきん者・・・想像ができず少し唸っていると、脇の雑木林から別の唸り声が聞こえた。王都をでてまだ1時間もしていないが、やはりすんなりとたどり着くことは出来なさそうだ。
灰色の狼型の獣――シルバーウルフが、ぐるぐると喉を鳴らして前後左右を取り囲む。パルファとユウは両脇の林に向かいあって背中を合わせ、見晴らしの良い道沿いを左右に置き換える。
「久しぶり、そしてこのパーティー初の共闘ね」
「うん!なにはともあれ、初日の食事には困らなさそうで助かる」
二人の旅路の初戦闘は、状況に似合わない和やかな雰囲気から始まった。
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十数匹のシルバーウルフを、2人は無傷で討伐した。素材や肉の剥ぎ取りをしているとパルファがウルフの肉に向かって魔法を使っているのが見えた。
「浄化魔法のひとつよ。新鮮だから大丈夫だとは思うけど、殺菌しておこうかと思ってね」
視線に気づいたパルファが、何をしているかをユウに説明する。
「そういえば、パルファ・・・はダブルホルダーなの?魔法剣士とか。」
パルファは剣士だ。だが今の浄化魔法や、スタンピードのときには回復魔法も使っていた。それを思い出し、ユウはそう聞いた。
「えっとね、実は私もユウと同じユニークホルダーなのよ。【純白】というスキルのね」
パルファはそういって、勇者家系の説明をはじめた。
初めてこの世に出現した魔王を討ち取った初代国王ノワール・ネグザリウス。勇者家系とは、その子孫であるらしい。
建国をした後、ネグザリウスの家系は2つに分かれていった。王を継いで国を導く「国王家系」と、勇者を継承し民を守る「勇者家系」に。
勇者であり国王だったノワール・ネグザリウスの血は濃く、勇者の家系では戦いに秀でたユニークスキルが、国王の家系では統治に秀でたユニークスキルが発現するのだ。
現代まで脈々と、その血と役割は守られて受け継がれている。
「そのせいか、ユニークスキル発現者は初代国王の血と何か関係があるんじゃないかと言われているの。」
まぁ本当かどうか分からないけどね、とパルファは続ける。
(ユニークスキルにはそんな説もあるのか・・・)
自分のスキルはどうなのだろうか。とユウが考えるのをよそに、その場を片付けた2人は歩みを再開し始めた。




