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居る女と来る女

新居での初めての朝。

ユウが起きると、昨夜は確認できたもう一人分の温もりは既にベッドから無くなっていた。

そう、昨日はリリアと一緒のベッドで寝てしまったのだ


もちろん、本当に普通に寝ただけで変な意味合いはない。最初は遠慮をしたのだが、「寝ている時に何かあったら大変です!」と聞かなかった。

それならばとリリアはベッドで、ユウがソファで寝ると言うと「それじゃ何も意味がないです!」と言われ、ついには風呂の時とおなじ泣きそうな顔をされてユウは諦めた。


(でも、誰かと一緒に寝るっていいもんだな・・・)

誰かと身を寄せて寝るというのは、前世からの人生でも初めてのことだった。相手の温かさや鼓動が伝わって上手く言えない安心感があり、いつもより数段深く眠れた気がする。


しばらくぼーっとして寝起きのまどろみを楽しんでいると、部屋のドアが開かれた。

「ユウさん、おはようございます。ご飯の時間ですよ。」


家庭を持ったような幸せを感じながら、ユウは寝ぼけ眼をこすりつつ食卓へ向かった。


〜〜〜〜〜


時刻は正午、今ユウはゆさゆさと体を前後に強く揺さぶられている。

(これはどういうことなのか。)


「ユウくん!これはどういうことなの!?」

ユウを揺さぶる犯人のアルは、揺さぶられているユウと全く同じことを考えていた。加害者と被害者の思考がシンクロするなんて、こんなことってあるんだなぁ・・・


家が決まった次の日にアルが遊びに来るということは、以前から決まっていた。そして先ほど昼前に、予定通りアルが家を訪ねてきたのだ。


ユウ自らが出迎えて客間へ通したところ、リリアがメイドのような格好をして飲み物を運んできた。そうして今に至る。


「ねえなんで?なんでリリアさんがここにいるのかな!?ユウくん!?」

「ユウさんが使用人として選んでくれたんです。私選ばれたんです。」


飲み物を置き終えたリリアのその発言に、アルのゆさゆさが止まる。

「ふ、ふーん。じゃあ、使用人さんならお掃除でもしてきたらどうかな?私は今からユウくんと2人きりでお話があるから・・・!」

「そんな、ユウさんに不便をかけるわけには行きません。リリアは常にユウさんのそばに居ることにしています。」


そう言われてたじろぐアル。

「っ!でもでも、そんなこといったらお風呂とか・・・寝る時も一緒ってことになっちゃうよ!?それは違うでしょ??」

「・・・ふふっ」

「ななな、なんなのおぉぉぉ!!?」


そう言ってまたアルのゆさゆさが再開する。もしかしたら1番精神年齢が低いのはアルなのかもしれない。そんなことを考えながら、落ち着くのをただひたすらに待つユウであった。


〜〜〜〜〜


「すみません、驚かせちゃって。」

「む〜。まぁユウくんのお世話はちゃんとしてくれてるみたいだからいいけどさ・・・」

リリアが掃除のため退室し落ち着きは取り戻したが、少し拗ねたようにアルはそう言う。


「・・・1番最初は私がよかったのに。」

「・・・えっ?」

アルは出された飲み物のストローを咥えながら、上目遣いでユウに言う。その姿と純情な乙女のような言葉に、ユウは惚けてしまう。


お互い見つめ合い5秒ほど・・・


「・・・ん、ん〜!でもいいお家だねぇ!詰所からも近いし、気軽にユウくんの顔を見にこれるよ!」

自分が言ったこととユウの視線に耐えかねたのか、伸びをした勢いで立ち上がり背中を向けるアル。


「は、はい!僕もアルさんとの距離が縮まって、すごく嬉しかったんです!」

まだ照れながらも、ユウは自分の正直な思いを伝える。


「そう?じゃあ毎日きちゃおうかな?・・・もうすぐ、しばらく会えなくなっちゃうし・・・。」

アルは背を向けたまま言う。騎士とは思えないその華奢な肩が、その時少し震えた気がした。


もうすぐとは、いわずもがなダンジョンのことだ。ダンジョンがあるノワール帝国との国境は、どれだけ急いでも王都より3日以上かかる。


それにまだユウの左腕のショックから、完全に立ち直っていないのだろう。この冒険で、また何か起こってしまうのではないかと心配なのだ。


「・・・毎日来てください、アルさん。僕が次の冒険から帰ってきた後も毎日。」

片腕で不器用に、ユウはアルのことを後ろから抱きしめた。回した腕を抱きかかえるようにして、アルもこくりと頷いた。


少し開いた扉の先、廊下でそれを見つめている者も、「まぁ、今だけなら特別にいいです」と一人言をいって、元の仕事に戻ったのだった。

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