侵入者な使用人
ユウは今リビングでくつろいでいた。
ソファなどの家具も置いてくれており、すぐに生活を開始できる準備が整っていた。
LDKを除く部屋数は4つ、風呂も大きく何不自由ない暮らしが出来るだろう。
あとは使用人の方が来るだけだ。
だが、ユウはすでに使用人の情報を得ていた。
内覧をし終わってバラモスと客間で話した時、志願者リストを見せてもらったのだ。
どうやら最終的な選考は自分に任せてもらえるらしく、明日にでもどの人を採用するか言ってくれと言われた。
そしてリストをパラパラと見ていったとき、あるページで手が止まったのだ。そして大いに驚き、バラモスが帰る前にその場でその人を雇いたいと伝えた。
バラモスは「すぐ伝える」と言っていたが、おそらく挨拶は明日だろう。
(まさか・・・あの人が・・・)
ふかふかのソファでくつろいでいたユウを、心地よい眠気に頭が襲ってきた。
(レストランがディナーメニューを出し始めるまで、少し眠ることにしよう。)
そうしてユウはゆっくりとまどろみの中に落ちていった。
〜〜〜〜〜
コトコトと何かを煮込む音と、良い匂いがしてユウの意識は少しずつ覚醒する。
「あれ・・・ここは?・・・あぁ、そうだった。」
寝起きで引っ越してきたことを一瞬忘れていたが、すぐに思い出す。だがこれは・・・
先程から鼻腔をくすぐる匂いと、料理の音を発生させている侵入者の元へと慎重に向かうユウ。
(多分あの人だけど、まさかこんなに早く・・・)
そろりそろりとユウは厨房へたどり着き、壁から覗き込むように侵入者のことを視認した。
ユウはその人の職業柄、今まで外見的特徴をあまり意識したことがなかった。
髪はミディアムで赤みがかっており、ふんわりとした毛質はその人の雰囲気にとても会っている。
とても女性的で感触の良さそうな身体は、いつもと違う私服の上からでもはっきりと分かる。
子供が母親の後ろ姿を眺めるようにそうしていると、可愛い侵入者は視線に気付いてこちらに微笑んだ。
「ユウさん起きたんですね!採用してくれて嬉しいです!」
侵入者、もといユウが驚き採用した使用人の正体は、ギルドの受付嬢リリアだった。
〜〜〜〜〜
「でもビックリしましたよ。リリアさんが志願者リストにいて、しかもこんなに早くに来てくれるなんて。」
「ユウさんのお世話は私がするって言ったじゃないですか。連絡を受けて嬉しくて・・・つい驚かせようと渡されてた合鍵で入っちゃいました。」
2人は向かいあい食事をしながら会話をしている。一応使用人だからとリリアは遠慮したのだが、ユウが一緒に食べたいといってこうして時間を楽しんでいる。
リリアは募集がされた瞬間、ソディスに頼み込んで使用人に志願をしたらしい。受付嬢を辞める時の引き継ぎなどを心配したが、いつでも寿退社できるようその辺はバッチリだったそうだ。
「でもいいんですか?寿退社するための準備だったのに、僕の方で消費してしまって・・・」
「え?だからよかったんじゃないですか」
あれ?とお互い噛み合わないような反応をする。まぁ食事も美味しいしいいか。家のことやダンジョンのことを話しつつ、食事の時間は終わった。
食事を食べ終え、ユウは今風呂場でリリアに背中を流されている。
〜〜〜〜〜
(どうしてこんなことに・・・)
"身の回りのお世話"にまさか洗体まで入っているとは思わなかった。最初は拒否をしたのだが、「そうですよね・・・私なんて要らないですよね・・・」と悲しそうな顔をされて断り切れなくなった。
やっぱりお願いしますと言った時の微笑みは少し歪んでいた気がするが、おそらく気のせいだろう。今も頑張ってゴシゴシと色んな所を洗ってくれている。だが頑張るほどにポヨンポヨンとなにかが背中に・・・
煩悩を変換してやろうか思うほど葛藤をしていると、お湯で流し終わった背中にリリアがピッタリとくっついてきた。
「あ、あの・・・リリアさん?どうしました?」
「・・・ユウさんの体、とっても傷が多いです。まだ若いのに。」
そう言うリリアはユウの背中に頬をくっつけており、そこに少し冷たい1滴の水を感じた。
リリアはアルより年下だが、自分よりは年上だろう。年上なのに泣き虫で無鉄砲な使用人に、ユウは声をかける。
「傷や怪我はこの先もあります。もしかしたら今より、もっともっと増えるかもしれません。」
「っ!・・・」
「だから僕がここに帰ってきたとき、しっかり手当てしてくれませんか?おかえりなさいって言って、冒険の話を聞きながら。」
そう言うとリリアはピクっと反応し、少し上ずった声で返事をした。
「あああ当たり前です!任せてくだしゃあ!」
なんとか元気が出たようだ。少し噛んだのが恥ずかしいのか、背中に伝わる温度も熱くなってきた。
〜〜〜リリア side〜〜〜
ユウさんは罪な男です。
私は一応、モテる人の部類に入っていると思います。男性冒険者の方に声をかけられたことだって、今まで沢山あります。
受付嬢として働きながら、ずっと運命の人を待っていました。いつでも恋に走って辞められるように、仕事も完璧にこなすのが一流の女なのです。
それでも中々ピンとくる殿方がおらず、誰かと付き合うということもないまま「もうすぐ20歳になるなぁ」なんて考えていました。
ある日ギルド職員の朝礼で、騎士の方が冒険者登録の付き添いに来られるとの話を聞きました。付き添いってことは何か問題があるか、もしくは未成年ってことです。
どっちもナシだな〜なんて思って、頭から忘れたころにその2人がやって来たんです。
ライバ・・騎士のアルさんと、後に罪な男となるユウさんのお2人が。
出会ったあとは全てに驚いたんです。強くて誠実で仲間思いで謙虚で。
でも、私のせいでユウさんには2回も辛い思いをさせてしまったんです。希望の炎と、スタンピードの救援依頼・・・。
少し前から自分の気持ちには気づいていました。そして決めたんです。私がユウさんを支えるって。
方法を考えた時に募集の話が出たのは運命だと思いました。すぐにギルド長に掛け合って許可が出たのも、普段の行いのおかげですね。
だからユウさん。私が来たのは罪悪感だけじゃないんです。それなのにユウさんは・・・
私の気持ちを知ってか知らずか。いや、確実に知らないんでしょうね。
平然とあんなことが言えちゃうんです。きっと色んな人に、胸が疼くような言葉や行動を無自覚に捧げているんです。
ほんっとーーーに!罪な男です!
とりあえず今だけは、ユウさんのことを好きな女性の中で私が1番近くに居れる、というだけで我慢してあげます。・・・今だけですからね?




