ダンジョンと束の間の休息
『ダンジョン』
冒険者の夢とも言われる場所。
その範囲は有限だが、出現する魔物や得られる資源は無限の理想郷。
ダンジョンは途絶えることなく湧き続ける神の泉だと誰かが言った。
だが別の誰かは、ダンジョンは終わることの無い魍魎の渦巻く地獄だと言った。
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「もしや、第2騎士団が確認したダンジョンのことでしょうか?」
ユウとパルファでダンジョンを攻略すると言われたあと、アルがサリムに尋ねた。
「えぇまさしく。先日発見されたノワール帝国との国境にあるダンジョンです。場所的にも後々火種になりそうですから、勇者修行として使い潰すこととしたのです。」
アルの問いにサリムはそう答えた。
「確かに、あそこまで帝国側に近いと不法入国などを誘発させそうですからね・・・。消滅させた方が、不要なトラブルを避けられるかもしれません。」
アルもサリムの狙いを納得したようだ。
ダンジョンごとに階層が決まっており、その最深部にはダンジョンコアと呼ばれる宝玉が眠っている。
それを破壊することで、ダンジョンは内包する魔物と共に消滅するのだ。
ダンジョンコアさえ生きていれば、ダンジョンは無限に魔物を生み出すし、定期的に宝も生み出す。
だが、そんな金脈が争いの絶えない隣国の近くにあった場合・・・確実に要らないトラブルが巻き起こるだろう。
つまりユウとパルファの2人で、修行がてらダンジョンを攻略もとい破壊してきてほしいということだ。
「今は一般の冒険者など入らぬよう、現地の騎士達に見張りをさせております。つまりそのダンジョンは、ユウ殿とパルファ様2人の専用だということです。」
サリムは続ける。
「新しく発見されたダンジョンなため、地図も魔物構成も分かっていません。未開の地へと踏み出す勇気はありますかな?」
迷うことなく、ユウははいと返事をした。
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『出立は2週間後です。来週には志願者の募集が終わり、屋敷の入居準備も完了するでしょう。』
あの時サリムにそう言われてから、今日でちょうど1週間だ。
ユウはこの1週間、さらに強化された身体に慣れるための修行や、春風メンバーとの送別会、アルとのデートなど、無理せずリラックスして過ごしていた。
強化された身体でカムス村まで走ってみようかとも考えたが、リミッターが無いこの身体で腱でも切ったら大変だと断念した。
だが、痛みも疲労も感じない身体の状態を判断する良い方法を見つけることができた。
それは右目を凝らして視ること。
以前カムス村で生きている人をすぐ見つけられたり、アルの狸寝入りが分かったりなど、強化された右目の便利さは感じていた。
きっかけは、アルとデートしたときに見た宝飾の露店販売だった。
綺麗な青いブローチを見て、アルに似合うかなと強く集中して見つめた際に、ブローチの情報が見えたのだ。
鑑定スキルに近いのかもしれない。その後に試しに自分の身体を見てみたら、疲労蓄積度やダメージ量を確認できた。これで限界を超えて倒れるといったことが防げる。
ちなみにブローチはもちろん買ってアルへプレゼントした。
(さて、そろそろかな)
今ユウはお世話になっていた避難民用の宿屋の入口に、自分の多くない荷物を持って立っていた。
まもなくの時間に、遣いの方が迎えに来てくれるとのことだった。
そう考えた矢先、角を曲がってこちらに向かってくる馬車が1台見えた。王国の紋章が入っていることから、これで間違いないだろう。
ユウの前に停車して、中から筋骨隆々の短髪褐色の騎士が現れた。
「冒険者ユウだな。お待たせしてすまない、第1騎士団団長のバラモスだ。迎えにあがった。」
ユウの迎えに現れたのは、思っていた以上の大物であった。
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ガラガラガラガラ・・・
乗り込んで数分、馬車は少しずつユウが知っている区画から離れていく。
「あの・・・どうして騎士団長様がお迎えに?」
アルは1番気になっていたことを質問した。以前聞いたことがある。第1騎士団団長は王国騎士の中でも最強の存在であると。そんな大物が、ユウの迎えとして遣わされた理由を聞きたかった。
「・・・自分の胸に手を当てて考えてみるのだ。盗賊、殺人未遂、スタンピード・・・キミは何故かさまざまな事に巻き込まれすぎている。」
言われてみると確かに、自分は普通の人よりもそういったことに多く巻き込まれているな・・・
「もしかしたらキミの活躍をよく思っていない輩もいるかもしれない。無いとは思うが万が一、王国が遣わした馬車の中で襲撃にあったなんてことになったら、な。」
・・・なるほど理解した。つまり「ユウって色んな事件に巻き込まれすぎているから、念の為お前行っとけや!」という感じでバラモスさんが来させられたのだろう。
なんとなく自分の不幸体質に罪悪感を抱いていると、バラモスさんがまた口を開いた。
「だが、キミはその逆境を全て乗り越えてみせた。騎士団でも噂になっていてね、実の所1度会ってみたかった、というのもある。」
そういってユウを見るバラモス。
バラモスの強度はさっき確認した。Aランクで間違いのない猛者である。そんな人に会ってみたかったと言われて、ユウは素直に嬉しく感じた。
そうしてようやく、馬車が停車した。
着いたのは第2騎士団詰所の近く。庭もそこそこ広い、落ち着いた色合いのレンガの屋敷だった。
「ここが今日からキミの家だ。すでに清掃は済んでいる。案内しよう。」
そうして内覧会が始まった。




