褒賞と冒険の香り
次の日の正午、春風の一行とユウ、そしてアルは冒険者ギルドに集まっていた。
今回クエストを受けたメンバーだけでなく、ユウの後見人であるアルもここに呼ばれていたのだ。
アルと春風の一行は、パーティー加入のときに一度会ったことがある。
今日は顔を合わせたとき、春風の一行はユウについての謝罪を。アルはユウを最後まで見捨てずに一緒にいてくれたことへのお礼をした。
アルにはこの時に、次期勇者パルファのパートナーになることを報告した。
話しかけた瞬間アルは恥ずかしそうにしていて、報告が進むにつれて少しムスッとした表情となった。
理由が分からず困っているとすぐそばで春風の女性陣はあきれたように。男性陣・・・主にオッドだがケラケラと笑っている。
「ほっほっほ、盛り上がっとるところ悪いが、お迎えじゃぞ。」
ソディスがそう告げて、一行は王城からの迎えの馬車に乗り込んだ。
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謁見の間。
前世で転生物を読みふけっていたとき、大体の主人公が功績をあげてここに呼ばれていた。その場についに自分もこれたのだ。
もちろん一人の力ではない。また、正攻法でここまで来たのではない。
だがこうして仲間と、さらに大切な人とこの瞬間を共有できたことにユウはさらに感動していた。
扉が開き先に進む。
赤絨毯がまっすぐと敷かれて、両脇には王を守護する第1騎士団が並んでいた。
さらに先には壁に沿って貴族たちが並ぶ。その中には、パルファとジィファの姿もあった。
荘厳な雰囲気の中、一行はどう歩いていったか覚えていないだろう。
長く伸びていた赤絨毯は、今や残すところ10メートルほどとなった。
そして一行は止まり、事前に言われた通り膝をつく。少し先は段差になっており、そこには神々しい玉座があった。
玉座に座るのは、金髪金目の初老の男性だった。
威厳があり、強くも柔らかいオーラを放って玉座にかけていた。
今まで見た人間とは根本から何かが違う、不思議とそんな印象をユウは抱いた。
「王のラグナルカ・ネグザリウスだ。此度の働き、誠に大義であった。国民を守ってくれたことを感謝する。」
そういってネグザリウス王は、春風の一行へと礼を述べた。
「さてスタンピード防衛についての褒美だが・・・ユウとは貴殿のことだな。」
王の目がユウ一人へと向けられる。ユウは少し息をのみ、はっ!と返事を返した。
「今後は次代の勇者と共にパーティーを組むということだが、それに間違いはないな?」
「はっ!間違いありません!」
ユウがそう返事をすると、王は「うむ、そうか」と満足そうに笑った。
「では、褒美の説明に関しても春風の一行と、勇者のパートナーであるユウとで分けさせてもらおう」
王はそう言い、書状を広げて褒美について読みはじめた。
「まず春風の一行、此度の戦いによって装備や道具も消耗しただろう。一人につき金貨200枚を進呈する。さらに功績として、各々冒険者ランクも1つあげさせよう。」
春風の一行は全員で返事をする。金貨200枚といえば、数年は働かなくても済む大金だ。さらに本来もっと時間がかかったであろう冒険者ランクまで上がったのだから、スタンピードの恩賞は凄まじいことが分かる。
「続いて冒険者ユウよ。金貨200枚は貴殿も同じだ。さらに貴殿に王都の正式な市民権と住居、国営の使用人雇用の権利を与える。」
ユウもそれに返事をした。正直聞き返したい気持ちはあったが、この後宰相から詳しい説明があるとのことなので我慢しよう。
「最後に・・・騎士アルよ。貴女の先見の明は大したものだ。これからも王国を頼むぞ。」
アルが力強く返事をした。そしてユウも、金貨よりも市民権よりも、アルが褒められたということが嬉しかった。
そうして謁見は終わり、一同は別室へと連れられていった。
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「さて、皆様の褒賞について詳しくご説明しましょう。」
そう言うのは、王国宰相であるサリムという白髪の老人だ。まだ若めのシルバとは違い、普通に歳の影響でこの色なんだろう。粛然とした雰囲気と相まって、王ほどではないがこちらもオーラがすごい。
「金貨はギルドの口座にすでに入金をしております。冒険者ランクについても、今ごろ新しいカードを発行しているでしょう。」
まずは春風の一行への褒賞について説明を行う。今になってようやく金貨200枚を実感してきたのか、オッドの喉がゴクリと鳴った。
「ユウ殿も金貨については同様。そして市民権も、これからは後見人制度による仮市民権でなく、王都で育った人と同様のものとなります。」
なるほど、つまりアルの負担を一気に減らせるということだ。これは助かる。
「もちろん、後見人制度を外すだけでは市民権を与えて居住を無くすのと一緒です。よって小さめですが屋敷もセットとして進呈します。」
屋敷をくれるというのは、言葉そのまま屋敷をくれるというものであった。だが気になるのは・・・
「最後に使用人についてです。此度の戦いによって、ユウ殿は片腕を無くしました。今後の日常生活のため王城仕えという扱いで1人、使用人を募集致します。その者にユウ殿の生活をサポートしてもらうということです。」
つまり、国がユウに使用人を1人つけてくれるということだ。王城仕えという扱いだから、給金も国が払ってくれる。
「そんな・・・そこまでしてもらうなんて・・・」
あまりの褒賞の大きさにユウが遠慮をみせようとすると、宰相サリムは微笑んで口を開いた。
「ユウ殿。貴殿のやったことは評価されるべきなのです。正しき行いをしたものに正当な褒賞を与えるのが我々の役目。それを遠慮されるとなると、いやはや・・・」
そういってわざとらしく困ったような素振りをみせる宰相に、ユウは謹んでお受けいたします!と返した。
「いやでも・・・まだ実感がわかないです・・・これで冒険者ランクまで上がってたら気絶してたかも・・・」
「はっはっ!強度は負けてるがランクはまだ俺たちの方が上だな!これで全員Cランク冒険者だ!」
ユウの発言にオッドがふふんと返すと、そこにサリムも入ってきた。
「あぁ・・・言い忘れていましたな。ユウ殿も明日にはCランク冒険者となっております」
そのサリムの発言に、一同は王城内の一室に居ることを忘れて素の反応で驚いた。
「ど、どういう事でしょうか。サリム様。」
驚く一同を代表してアルが聞く。確かに謁見の際は言われなかったことだ。
「勇者がパートナーを選ぶ時期は決まっております。そしてパートナーを選んだ際、ある事情によって勇者とパートナーの両名はランクをCまで引き上げる決まりとなっているのです。」
つまり、Fランク冒険者ユウの飛び級ランクアップは、スタンピードの褒賞でなく勇者のパートナーに選ばれたことによるものということだ。だから謁見で言われなかったのか・・・
「あああある事情とは!?」
ユウに並ばれたことに驚くオッドが事情について突っ込む。今度サリムは意地の悪い顔をして、一同に問いかけた。
「Cランク冒険者になると、実はある事が解禁されるのです。さて、なんでしょうかな?」
そうして考え込む一同。数秒後、ローランドが小さいがハッとした声で呟いた。
「ダンジョン・・・!」
「そう。ユウ殿とパルファ様の両名には、修行としてダンジョンを攻略していただきます。」
サリムが穏やかに、そして力強くそう述べた。




