謝罪と謝罪
スタンピードから数日。
シルバと勇者が、さらに遅れて騎士団も到着し、魔物の群れを広域にわたって殲滅したことによって、スタンピードは終息した。
そして春風の一行、主にユウの活躍により、今回のスタンピードでは奇跡的に死人が出なかった。
怪我人こそあれど、命を失った者はいない。
結果的に見れば、スタンピード防衛は大成功といって間違いないだろう。
そして春風の一行も、この数日間で戦える程度に回復をしていた。
たった1人を除いて。
「「・・・・・」」
あの日から何度目かも分からない沈黙。向かい合うのはいつも2人で、1人は先のスタンピードの功労者であるユウだ。
ユウは意識こそあるものの、首から下の身体が一切動かない超重症で、病室のベッドに横たわりながら応対をしている。
そしてもう1人は日によって違う。今までオッドやズーリンなどパーティメンバーが見舞いに来ており、今日は村長であるフウの番だった。
「・・・ユウ、本当にごめんなさい。」
そして訪問者たちは、決まって哀しい目をしてユウに謝罪をする。
その目線は、あったはずの左腕に注がれているのだ。
「謝らないで下さい。これは僕が選んだことなんです。」
謝罪に対し、ユウは今日も同じ言葉を返す。
「・・・ユウのおかげでこの村は救われた。でも、そのためにあなたの左腕を・・・」
そして誰しもがそう言う。やはり割り切れないのだろう。自分が逆の立場でもきっとそうだ。
だが本当にユウは後悔もしていないし、もちろん誰かを恨んでもいない。だが、みんなはそれでも思うところがあるのだろう。
(こんな時、ゼレやバランだったらどうするんだろう・・・)
そんなことを考えた時、ユウのいる部屋のドアがガラッと開いた。次いですぐ軽い足音を立てながら、村の子供たち3人が飛び込んできたのだった。
「にいちゃん!だいじょうぶか!」
「じいちゃんにやくそうもらってきたんだ!」
「おにいさんの・・・おうでが・・・!」
フウが諌めようとするが、子供たちはユウのベッドから離れようとしない。
その中のシャナという少女が、目に涙を溜めながらゆっくりと話し続けた。
「どうして・・・なくなっちゃったの・・・!」
頭の中で「この村を守ろうと」と考えたとき、ユウは自分が何をすべきか、みんなに何を言うべきかが分かった。
子供たちに優しく笑い、ユウはフウに向かって言う。
「すみません。村の方と、春風の皆を呼んできてくれませんか?」
〜〜〜〜〜
ほどなくして、春風の一行とフウをはじめとする村人数人がユウの病室に集まった。子供たちもベッドのそばに居る。
「すみません・・・いきなり呼びつけるようなことをして・・・」
「いや、いいんだ。・・・それで、どうした?ユウ。」
未だ悲しい目をしているオッドが、代表して集まった理由を聞く。
一呼吸おき、ユウは話し始めた。
「最初は、どうしたら皆さんの悲しみを払えるのだろう?と考えていました。」
「でもさっきやっと気付いたんです。皆さんを悲しめているのは、他でもない僕自身だったことを。」
オッドが口を挟もうとしたが、そばに居たカノンに制される。
ユウは自分の左腕があった場所を見ながら話を続けた。
「腕が無くなったことが悲しいんじゃない。腕を無くすという選択を、僕がしてしまったことが皆さんを悲しめたって、ようやく気付いたんです。」
そうしてユウは、その場にいた全員を右目で見据えた。
「僕は今後も同じような状況があったら、その時も同じように何かを犠牲にします。でも、それでも・・・・」
「僕も、ごめんなさい。自分だけで背負って、そのせいで皆さんを悲しませてしまいました。大切に思ってくれていたのに、自分で自分を傷つけてごめんなさい・・・!」
そうして首だけを下に倒し、ユウはあのスタンピードから初めて謝罪をする側に立った。自己犠牲の謝罪を。
「違う、お前は立派だった!・・・すまん、ユウ。」
「ユウ・・・頑張ったな。ありがとう、そして、すまない。」
「ユウごめんなさい。そして、皆を守ってくれて本当にありがとう。」
それぞれが思い思いの言葉を返し、ユウのベッドの周りを取り囲む。
悲しい目は少し残っているが、きっと、もう大丈夫だ。
そのやりとりを、3人の男女が病室の外で聞いていた。
黒髪の女性は何かを決意し、白髪の男性は満足したようにその場を後にする。
もう1人の黒髪の男性も、その場に留まりつつ同じように満足した表情で呟いた。
「彼こそが勇者に相応しい」




