次いで来る最悪の敵
「・・・ユウ!・・・・大丈夫かっ!」
「はい!問題ないです!」
「・・・ったく!・・・お前って奴は・・・本当にっ!」
背後にいるオッドがゼェゼェと肩で息をして、魔物を相手しながらユウへと話しかけてきた。
実際、ユウは問題がない訳では無い。確実に疲労などが溜まってきているが、痛覚も倦怠感も無いため気づいていないだけなのだ。
2人が離脱しただけで、戦況はさらに激化している。たった数分で今までの倍以上の負担が、ユウとオッドにかかっていた。
「・・・ユウ!・・・辛いなら無理しねえで!・・・逃げろよ!」
「はい、オッドさんを担いで逃げますよ!っと」
魔物を倒しながら軽口を交わし、少しでもこの逆境を軽減しようとする2人。
夕暮れの先頭開始からもうすぐ2時間ほど。
村の外壁にある松明とローラが放つ火魔法以外辺りは暗く、本来夜行性である魔物の凶暴さも増していた。
カノンは追加の火薬を調達した後、村の側面へ逸れていった魔物の中で、危険な奴がいないかを確認しに行った。爆発音が響いていることから、自分たちの場所を通り過ぎたあとに危険な魔物が加わっていたのだろう。
そうしてふと、明るさが少なくなったことに気づく。ローラの火魔法が飛ばなくなったのだ。
「オッド!ローラの魔力が切れた!MPポーションももう無い!」
やぐらからローランドが声を上げる。回復しながらも2時間ぶっ続けで魔法を放っていたのだ。ローラはもう退場だろう。
「そろそろ潮時かもな・・・っ!ユウ、撤退の準備だ!」
「はい!」
オッドとユウも、籠城するために少しずつ村の方へと近づいていく。
ローランドも2人の周辺の魔物を狙い撃ち、あと少しでも門へとたどり着くといったその時。
背後にいるオッドから呻き声が聞こえ、次の瞬間ユウの脇を転がり抜けていった。
「オッドさん!」
ユウはすかさずオッドへと駆け寄りつつ、振り返ってオッドを吹き飛ばした犯人を確認した。
「ゲヘヘェ!」
そこにいたのはゴーレムよりも人型に近く、羽と角が生えた黒っぽい肌の獣だった。
口をだらしなく開け、ニヤニヤとした表情を浮かべている。
「レッサーデーモンだと!?Cランクの魔物まで混ざってやがるのか・・・!」
吹き飛ばされた際に打ったのだろう。頭から血を流しつつ、オッドはよろよろと立ち上がる。
「ユウ・・・。悪いがコイツだけは倒していくぞ。コイツは壁を超えれるし壊せる、何より知能が高いから残しておくと厄介だ。」
オッドが剣を支えに立ち上がる。ユウも横に並び、2人はレッサーデーモンを2対1で相手取ることに決めた。
「・・・うおおおお!」
向かい合った刹那、オッドが声を上げてデーモンへと剣を振り下ろす。ユウもそれに続き突きを放つが、レッサーデーモンは両手でガッチリと2人の剣を止める。
だが、これで両手を封じた。
このチャンスに、ローランドがデーモンの頭目掛けて、渾身の矢を放つ。
(頼む!これで決まれ!)
3人が同じ思いを抱いていただろう。だがレッサーデーモンは細く尖ったしっぽを使い、ローランドが放った矢を止めた。
「カエス!カエス!」
さらに止めただけでなく、しっぽで掴んだ矢を近くにいた中型の魔物に突き刺す。そしてなんとその死体をしっぽで持ち上げ、ローランドがいるやぐらへと投げ放ったのだ。
100キロ近くある魔物の死体がやぐらに直撃し、ローランドを乗せたままやぐらは村の中に向かって倒れていく。
「「ローランド(さん)!」」
オッドとユウがそう叫んだ瞬間、オッドの体が後方へと吹き飛んだ。レッサーデーモンが蹴りを放ったのだ。
「ゲヘヘ!ゴロゴロ!ゴロゴロ!」
レッサーデーモンがそう言いながら、次はユウに向かって手を伸ばそうとする。だが手とユウの間に大きな影が現れ、それを邪魔した。
「ズーリンさん!大丈夫ですか!?」
「・・・んだ・・・ユウ待だせたな!」
中で休んだズーリンが出てきて、盾でデーモンの手を抑えていた。だがすでに息が上がっている。数百キロあるゴーレムを力で相手取った反動は、まだ消えていないのだ。
「ユウ・・・離れるど・・・」
ズーリンがそう言って、膠着状態のレッサーデーモンへと蹴りを入れる。
ダメージは無いが押す力は強かったようで、ユウとズーリンはレッサーデーモンと距離を置くことに成功した。
距離をとってすぐ、レッサーデーモンに向かって頭上から何かが投げられた。レッサーデーモンはそれを手としっぽで掴もうとしたが、触れた瞬間に爆発を起こしたのだった。
「ローランドは生きているわ!やぐらが倒れたのはアイツのせいね!最後の火薬も今ので持ってかれたわよ・・・!」
外壁の上にたったカノンが地上に降りてきてそう言った。先程のはカノンがレッサーデーモンに向かって爆弾を投げたのだ。
「それにしても・・・無茶しないでって言ったでしょう!?」
「わりぃ、ちょっと、アイツはまずいと、思ってな。」
爆煙の方を見ながらカノンが言い、フラフラと立ち上がったオッドが応える。
(頼む・・・これで・・・!!)
先程よりも人数が増え、また同じことを考えた。
だが無情にも、爆煙の向こうから未だ生きているレッサーデーモンが姿を現した。
「ギャアギャア!ギギギギ!」
着弾した右手としっぽはボロボロになっており、ダメージを受けたことでヘラヘラとした態度から一転して怒っているようだ。
「もうひと、頑張りして、あとは籠城だ・・・」
オッドがそう言って剣を構える。残りの3人も互いをカバーするよう並んで、レッサーデーモンと向き合った。
レッサーデーモンとの第2ラウンドが始まる。




