やすらぎ
「おーーいユウ!そっち頼む!」
「はい!」
あれから3週間がたった。
腹を貫かれたもののユウは強化された自然治癒力をもってして、わずか1週間ほどで現場復帰を遂げていた。
そんなユウは今、新たなパーティーとともに冒険者として活動をしている。
「ふぅ。よーし、全員ケガはないな!素材をはぎ取って休憩したら街に帰るぞ!」
そう言うのは、初日にギルドで話しかけてきた冒険者オッドだ。
あんなことがあり、ユウはしばらくソロで活動しようとしていた。
しかしユウの精神面を心配したリリアが、信頼のおけるパーティーを紹介すると言ったのだ。それが、オッド率いる『春風』だ。
おそらくリリアの目には、ユウがショックで自暴自棄になっているようにも見えたのだろう。
だが入ってみて実際、ケールのように大きな野心がなく、それでいて冒険者としてしっかりと地道な活動をする春風は、ユウにとってとても居心地が良かった。
そんなことを考えていると、頭をガシガシと強めに撫でられた。
「今日も討伐数一番はユウか!お前は本当に可愛げがないくらい活躍してくれるなぁ!」
「いてて!ちょっ、オッドさん!」
もちろん、痛覚を無くしているユウに痛みなんてない。ただ無くしていなかったとしても、これには痛みなんて無いのだろう。
ゴツゴツとした厚みのある大きな手に撫でられるのは、アルの抱擁にも似た心地良さがあった。
「やめなさいよ。若い子に絡むオジサンなんて誰も見たくないわ。」
「んだんだ。きっとユウが強くてイケメンだから、オッドが嫉妬してんだべ。」
そう言うのは春風のメンバーである盗賊のカノンさんと重戦士のズーリンさんだ。
カノンさんは赤い髪の気の強そうな顔をした女性、ズーリンさんは目が細く穏やかそうな顔をした黒髪のガッシリとした男性で、こちらを見て困ったような笑みを浮かべている。それにしても・・・
(イケメンだなんて・・・2度目の人生ではじめて言われた・・・!)
ユウの顔は地味だがブサイクではない。よって、100人に聞けば1人はイケメンだと言うだろう。今回はそれがたまたまズーリンだったのだが、ユウにとっては異性同性関わらずムズムズとした嬉しさがあった。
「あっ!おまえイケメンって言われて喜んでるな〜?」
2人に何かを言い返していたオッドが、ユウのまんざらでもない表情を見てニヤニヤとからかってくる。少しイラッとくるその顔をジト目で見ていると、また別の所から声がかかった。
「ほらほら皆!口だけじゃ無くて手も動かしてね!」
「早く終わらせて帰りましょうよ〜」
弓使いのローランドさんと魔法使いのローラさんが、サボっている皆をやんわりと注意する。2人は金髪で色白、顔も似ている。つまるところ兄妹だ。
へーい、とオッドが気の抜けた返事をして、全員が作業に戻った。
この春風というパーティは、全員が同じ田舎の村から出てきた幼なじみで構成されているらしい。
他の皆は王都での暮らしで慣れたそうだが、ズーリンさんだけは未だに慣れずに訛りが抜けないのだと。
春風は全員が全員を思い合っていることを感じられる良いパーティーだと思う。そして、だからこそユウは自分がここに居るべきではないと考えていた。
彼らはこれで完成されている。歪な形をした自分がいると、何かを不吉なことが起きるのではないか・・・時折そんな意識に苛まれるのだった。
だが、幸せは麻薬だ。この居心地の良さを知ってしまい、ユウは中々ソロに戻る決心が出来ずにいた。
(もう少しだけ。もう少しだけここに・・・)
皆が早く帰りたいと思って作業をする中で、ユウだけがそんなことを考えていたのだった。




