伝説への登竜門
―――ザン!―――ガキン!
ある森の中に戦闘音が鳴り響いている。
「ユウ!そっち頼む!」
「はい、任せてください!」
「ふぅ。ミュア、そろそろかしら?」
「・・・えぇ。みんな離れなさい!」
ミュアの声がした瞬間、ユウ達前衛3人は魔物達から距離を取る。次の瞬間、さっきまでいた場所を巨大な光球が通り過ぎた。
光球が通り過ぎた後には、ホブゴブリンなど先ほどまで戦っていた魔物が黒焦げで事切れている。
「まったく。聞いてはいたけど、本当にこの辺りは中級の魔物が多いわね。」
「だな!だが中堅クラスの冒険者でも手を焼くこの辺を、俺たちみたいな駆け出し冒険者パーティーが難なく進めてるなんて凄いことだぜ!」
ミュアが愚痴を吐き、ケールがモチベーションをあげるために持ち上げる。
希望の炎の一行は、今王都から4日ほど離れた「深淵の森」と呼ばれる区域に来ていた。
パーティー加入から2週間程経った。数回の依頼をこなして、ユウはこのパーティーにようやく馴染んできたところだ。
そんな時に、希望の炎が先行受注していたクエストが決まったのだ。
ユウの加入が決まった時にケールが急いで受注しにいったクエスト、「深淵石の採集」が。
深淵石とは、この深淵の森の奥にある洞窟、その中の湖で生成される原石のことだ。
深淵の森には中級の魔物が多く発生しており、報酬も特別良いというわけでもない。
俗に言う「割に合わない」このクエストを、好んで受ける冒険者は全くいない。
それなのに何故ケールはこのクエストを受注したのか。それは数多くの有名冒険者達が、このクエストを最低1回はクリアしたことがあるからだ。
いわば伝説への登竜門。「自分たちもその領域に行く。だから早めにクリアしておくんだ。」と言っていた。
そのため一行は現在、深淵の森にて何度も魔物との戦闘を繰り広げながら進んでいる。
「もうすぐ日が落ちるわ。野営の準備をしない?」
パルファの提案に皆が頷く。
「俺はミュアとテントの準備をしておく。パルファとユウは火種と食料の準備を頼むぜ。」
ケールがそう指示を出して、2つに別れて作業を行うこととなった。
〜〜〜〜〜
「このくらいで十分ですかね?」
「十分・・・過ぎるでしょうね。ふふふ、戻って驚かせてやりましょう。」
今ユウは、持ち前の眼力で探し出し仕留めたウサギ型の魔物を6匹肩に担いでいる。
草花の些細な動きなどをユウの目は見逃さず、ケールたちと別れてからかなり短い時間で食料の確保に成功していた。
「あなたは本当に何でもできるわね。パーティーの動きも良くなったわ。」
野営場所まで帰っている最中、パルファがそう言う。
「いえそんな・・・。パルファさんこそ、あの鮮やかな剣技はどうやって身につけたのですか?」
謙遜しつつ、ユウはそう尋ねた。
実際このパーティーにおいてパルファの剣技は異色だ。アルが使う騎士の格式ばった剣術とも違えば、冒険者のシルバが使う粗暴かつ効率的な剣術とも違う。
いつか聞いてみようと思っていたことを、ユウはここで聞いてみたのだった。
「あぁ、私の剣術は父から教わったの。ちょっとまぁ・・・特殊な家庭なのよ。」
パルファは少し言いづらそうだ。今後この話はやめた方が良いかもしれないな。
そうして野営場所まであと少しというところで、前を歩いていたパルファが「あら」と一言口に出して立ち止まった。
「・・・仕方ないわね。もう少し時間を潰しましょう。」
そういってパルファは、ユウの肩を持ち回れ右をさせる。パルファの肩越しに見えたのは、ケールとミュアがキスをしている姿だった。
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「まったく・・・ユウが入ってきて落ち着いたと思っていたら。」
歩きながらパルファは呟く。
「お二人は・・・そういう関係なんですか?」
「えぇ。昔馴染みで、王都に来る前から付き合っているみたいね。ケールはサバサバして分別があるのだけど、ミュアがヤキモチを焼いたりどこでも甘えたり、少し子供っぽいのよ。」
どうやらユウが加入する前から、ちょこちょこパルファは苦労をしていたらしい。
「そういえば、あなたの事はまだあんまり聞いていなかったわね。ユウはどこで育って、誰に戦いを教わったの?」
・・・確かに。人に聞いてばかりで、自分の過去については話していなかったな。丁度時間もあるし話しておこう。
そうしてユウは過去の話をパルファに話し始めた。




