国家間の問題
「よくぞ参ったな、勇者パルファよ」
絵の具をぶちまけたような、色彩がぐちゃぐちゃな風景のなかで、凛とした声が響き渡った。
数秒かけて徐々にその視界は落ち着き、色や光があるべき所に収束していく。
ユウたちがいたのは玉座の間、王国が赤を基調とした内観だったのに対し、ここは青を基調としている。
その眼前に広がる青の中に、藍色の長い髪とドレスが特徴的な女性がいた。
女性がいるのはーーー玉座。
「妾はカリセリア・ノワール。この国の帝王だ」
凛とした声と態度、そしてネグザリウス王にも似た統治者独特のオーラ。
平衡感覚を取り戻したユウとパルファは、改めて膝をつき礼をとる。
「初の転移酔いをこの短時間で克服するか。話どおり若くして有望らしい」
フッと笑って声をかける女帝。面をあげよと言われて、ユウたちは改めて目の前の現実を直視する。
目の前には3人の人物。フードの女性と黒いドレスの少女リサ、そしてノワール国帝王。
何をどう切り出すべきかと考えていると、カリセリア・ノワールはまた口を開いた。
「このような形で呼びつけてすまない。ただ国家としての都合上、大手を振って出迎えるわけにいかないのだ」
「・・・はい。存じております」
パルファが返事を返すと、女帝は頷きリサへと何かを耳打ちした。
「では、これ以上堅苦しい挨拶はよいな。食事を用意させてあるゆえ、続きはそちらで話そう。リサに案内させる」
リサの肩に手を置いた女帝とフードの女性は、リサと共に玉座の間から居なくなる。
ほどなくリサだけがまた玉座の間へと戻り、ユウ達一行にまた手を差し伸べた。
手を取った4人と取られた1人はその空間から居なくなり、部屋に残された1人は深いため息をついた。
〜〜〜〜〜
「ふぅ。ヌーのやつめ、堅苦しい真似をさせおって」
「カリセリア様、勇者一行が見ております」
2度目の転移は、1度目よりも身体が慣れて楽に感じた。最初から視界もクリアだ。
そんなクリアな視界に映るのは、窓の無い部屋に豪華な料理が並ぶテーブルと、立膝でダルそうに椅子に座る女帝。またそれを諌めるフードの女性だった。
「なにを突っ立っておる!はよう座れ!」
女帝のその言葉に動き出す一行。
友好的なもてなし、豪華な料理、豹変した女帝、先ほどの格式ばった挨拶・・・
聞きたいことはさまざまあるが、とりあえずユウ達は食卓についた。
「では、2度目になるがよく来てくれたな。もう先ほどのような礼節はいらぬ。好きに話そうではないか」
快活に言う女帝が手を打ち鳴らすと、数名の侍女が飲み物を注ぎにやってくる。
ワインが入ったグラスを軽く掲げた女帝は、グイッと一気に飲み干した。
「はぁ・・・今年もよく出来たものだな」
うっとりしながらワインが入っていたグラスを見つめる女帝は、次にジトっとした目でこちらを見てくる。
「まだ固いのう・・・好きに話そうといったろうが。なにか質問とかはないのか?」
(聞きたいことはたくさんあるけど・・・)
ユウがタイミングを見計らっていると、ベルベットが無神経に恐ろしい質問を繰り出した。
「帝国と王国って仲悪いんじゃないんですか?」
ピタリ、と一同の動きが止まった。動いているのは肉に食らいつくベルベットのみ。
(いやいやいや、それは踏み込みすぎでしょうベルベットさん・・・)
聞き方から礼儀まで全てがアウトだ。
そう思いながら女帝の方をゆっくり見ると、ユウの心配とは裏腹に満足そうな表情をしていた。
「ハッキリしておって良いなお前。その通り、帝国と王国の仲は悪い。名目上はな」
「じゃあ、本当は仲良いんですか?」
女帝に対して遠慮なく質問をするベルベットは、意外にも好印象らしい。
「以前は本当に仲が悪く、戦争も頻発していた。今は仲が良いかと聞かれると、王としてはイエス。だが国としてはノーといったところか。」
「・・・昔は仲が悪かったけど、王同士で和解して関係回復に向かっている。でも国全体としてはまだ割り切れない人もいる・・・ってこと?」
ベルベットの考察を聞いて、女帝は身を乗り出し目を輝かせる。
「お前頭もいいな!気に入った。帝国にくればすぐに貴族にしてやる」
「えぇ・・・いいですよ俺は」
ベルベットは謙遜でなく、心から面倒くさそうな顔で引き抜きを断る。
「ちょっと待っ、お待ちください!私を始め国民は、幼き頃より帝国には注意せよと教わっております。我が国の宰相もそのように・・・」
パルファがふたりの会話に割って入る。
いきなり本当は仲悪くないです、と言われても信じられないだろう。
「だが、『帝王』に注意しろとは言われなかったろう?上の考えは変わっても、下はまだ根深いのだ。お前たちも入国した際、身を持ってそれを味わったのではないか?」
「っ!それは・・・」
その言葉に初日のことを思いだして、パルファは押し黙った。
「その割には、まるで見知ったかのような言い方だ・・・ですね」
シルバがぎこちない敬語で女帝へと言う。たしかに、あの時の扱いの悪さを知っているならば、なぜ阻止しようとしなかったのか。
「報告はこの者から受けていたからな。だが知見を広める意味もある旅で、良い部分だけ見せても意味は無いだろう。だからあれに関しては黙認をした」
女帝はフードの女性を指さしながら、悪びれる様子もなく述べた。
「それに関しては・・・わかりました。では、そちらの女性は?」
「・・・お前も楽にしろ。そろそろフードを取ったらどうだ」
パルファの言葉に女帝も口添えをすると、フードの女性はついに顔を見せた。
「へぇ、キミだったのか」
「・・・」
リブラの街でベルベットに助けを求めた、奴隷の少年ハイロがそこにいた。




