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善良な商人と穏やかな旅路

「この度はどうもすみません・・・」

「いっ、いえいえお気になさらず・・・」

荷馬車の中で、パルファはマッシュに謝る。

荒くれ者の烙印を押されたベルベットは恨めしそうに見ているが、パルファには響かずマッシュをさらに脅かすことしかできていない。


「重ね重ねすみません・・・」

「いえ・・・職業柄、ああいった視線を受けることは慣れております。合法といえど、誇れる仕事ではありませんので」

マッシュは視線を下に落として言う。


「ですが、命を助けられたとはいえ初めて会った男に奴隷を差し出そうとしたときは驚きました」

「・・・扱っている商品が商品なもので真っ当な、とは言えませんが、私を含め奴隷商人を名乗る者は奴隷の扱いに細心の注意を払っております」

パルファの言葉に答えながら、荷台の方を見やるマッシュ。


「奴隷の健康管理は怠りませんし、身元が怪しい相手に販売もしません。然るべき人権と労働を与えてくれると信頼した相手にのみ、大切な奴隷をお任せするのです」

次いでマッシュは、ベルベットを見る。


「あの方は先ほど気まぐれや憂さ晴らしでなく、間違いなく私たちを助けに参られました。その心に、あの強さ。それをもってして奴隷を任せるに値すると判断したのです」

「ですが、タダで譲ってはあなたの利益にならないのでは?」

パルファのその言葉に、マッシュは苦笑いを浮かべた。


「・・・実は先ほどお見せした子供の奴隷は皆、さまざまな事情をもつ孤児なのです。私も貧しい村の出だからか、どうにもほっとけず引き取ってしまいまして・・・無償だとしても、相手が信頼できるお人で子供が無事に育つならそれでいいのですよ」

「それは・・・!不躾な質問をしてしまい、申し訳ありません」


パルファが謝ろうとしたのを、マッシュが止める。するとベルベットも2人の元へ近づいてきた。

「・・・いきなり殴ってごめんなさい」

目線を横に向けながら、マッシュへと頭を下げるベルベット。


「頭をあげてくださいベルベット殿。正しいと思うことを実行できるのは、素晴らしきことなのですから」

そう言って微笑むマッシュに、ベルベットもつられて笑う。

子供たちも徐々にユウたち一行に慣れてきて、リブラの街へ騒がしくも楽しく進んでいく。


「・・・くぁぁ」

その和やかな光景をちらりとみて、荷馬車の上にいるシルバも青空の下で昼寝を楽しむことにした。



〜〜〜〜〜



少しして、一行の目の前には大きな街が見えてきた。

「着きましたな。ここがリブラの街です」

「うわぁ・・・栄えていますね」

そこはネグザリウス王国王都に負けず劣らずの、活気に包まれた街だった。


「リブラは商人の街でして、新しいものや珍しいものが多く集まるのです。かの有名な鍛冶師ゲノムの工房も、ここにあったのですよ」

聞き覚えのある名前に、ユウはピクっと反応をする。だが、

「ここにあった、とは・・・どういうことですか?」

過去形であったことに疑問を持ち、ユウは質問をする。


「えぇ、突然のことでした。放浪の旅に出るため、ゲノム氏が店をたたむと言い出しましてね。国の重役や有力な貴族が焦って止めに来たのですが、すでに出ていかれた後でしたよ」

「その後はどこに行ったのか、分かりますか?」


ユウがこんなに食いつくのには理由がある。実は帝国に来る前、一行はディガイアを経由しているのだ。

その際ゲノムの工房に立ち寄ったのだが、工房が入っていた家屋は空き物件として売りに出されていた。


近隣の住民に聞いても、突然居なくなったことしか分からない。

魔石の能力とユウのスキルが合っていることを、何故か予見した不思議な男。

そのゲノムの足取りを、ユウは気にかけていた。


「そうですね・・・ゲノム氏はちょうど、今我々が歩いている道を来た方向へ歩いていったそうです。考えられるとしたら、ネグザリウス王国へ渡ったのかもしれませんね」

「そう、ですか・・・」

ということは、ユウがゲノムに会ったのはゲノムが帝国から出ていった後だろう。それでは何の情報も得られない。


少ししょげていると、それに気付いたマッシュが提案してくる。

「では街に着いたら、商人仲間に聞いてまわりましょう。商人のネットワークというものは大きいので、情報が手に入るやもしれません」

「あっ、ありがとうございます!」

マッシュの気配りにお礼を言うユウ。


「マッシュさん、私も少し欲しい情報がありまして・・・」

「もちろん協力いたします。なんでしょう?」

パルファも知りたいことがあったらしく、マッシュへと相談をしている。


そうこうしているうちに一行は門へとたどり着き、リブラの街へと入ったのだった。

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