追われている探偵
背広に眼鏡の小柄な中年男が通勤ラッシュにごった返す駅構内を歩いていた。イヤホンをつけて、せかせかと。どこにでもいそうな、あり溢れた会社勤めの男─少なくとも普通の人にとっては。
だが、彼は探偵である。しかも、尾行「されて」いる。
「ワトソン、尾行されている。」
イヤホンから流れる音楽の歌詞が少し変わった。
指示は、偽装のため、瞬時に歌詞の一部となって男に伝えられる。
「『姿』を変えろ。」
歌詞がつまらない命令になるという偽装方法については、この探偵は気に入ってないようだ。
探偵は雑踏を掻き分けて進んでいた。既に彼はダメージジーンズに大きなベッドホンをつけた長身の若者になっている。
「『刺客』がいる。」
探偵は急ぎ足になった。
『刺客』は『ルパン』側の暗殺者である。
『ルパン』の『アジト』はこの駅構内にあるのはわかっている。そして、その『アジト』は多分、『偽装』されている。
「ワトソン、相手側に偽装出来るのが、二人。」
ワトソンは小さく舌打ちをした。
「もう『アジト』は回収された模様。」
「2番出口、『アジト』の所持者は茶髪でパーカーの女。」
2番出口にはすぐに着いた。通勤ラッシュに疲れた人々の顔を押し分けて進むと、パーカーの茶髪女が忘れ物預かり所で何やら駅員と話しているのが見えた。
「『アジト』は傘に偽装されている。」 ちょうど流れる曲がメタル風だったので、指示がデスボイスでなされてしまった。探偵は少し失笑した。
なるほど、駅員がパーカー女から受け取ったのは水色の傘である。
「『刺客』は現在、女子高生の『姿』に偽装している。約180秒後に回収に来る。」
せっかくのギターソロも妙な歌詞がついてしまった。
パーカー女は多分、偽装する能力がなく、ワトソンに簡単に尾行される恐れがあるので、偽装能力つきの『刺客』が回収して逃走するものと思われる。
ワトソンは少し考え込んだ。きっと『刺客』は女子高生の『姿』で駅員に水色の傘を忘れたとでも言って傘もろとも『アジト』を回収するだろう。回収されてしまえば、もはや再発見は不可能に近い。 ここは、ワトソンが女子高生の『姿』に偽装して傘を回収すればよいが、『刺客』の偽装した女子高生と鉢合わせすれば、駅員にとっては傘の所有者が二人になり、不審がられる。
「ワトソン、男子高校生の『姿』に偽装して、兄として回収しろ。」
さすがホームズ、と思った。それなら先に回収して逃走すれば、その後女子高生の『刺客』が駅員に傘を求めても、駅員は「あなたのお兄さんが先ほど回収しましたよ。」とか言って済む話で、矛盾はない。
ワトソンは既にブレザーの制服にボストンバッグの好青年に『姿』を変えた。
「すいません。さっき妹から傘を駅に忘れたとLINEがあって。あの、水色で、柄がピンクの。」
「ああ、水色の傘ね。」
駅員は今さっき、パーカー女から受け取った傘をワトソンに渡した。
その時だった。
「あ。お兄。」
横には背の低い女子高生が立っていた。
─しまった。
回収するのが遅かった。
しかしワトソンにとっては後悔より恐怖の方が大きかった。今、「お兄」と呼んだということはホームズとワトソンの会話は筒抜けだったということである。
「ワトソン、走れ。」
ワトソンはおもいっきりボストンバッグを女子高生に投げつけた。そして唖然とする駅員を横目に、傘を持って脱兎のごとく走り出した。
しかし、次の瞬間、走り出した方向で爆発が起きた。
─!?
爆風に吹き飛ばされるワトソン。
人々の悲鳴。
『ルパン』は用意周到なことに、爆弾まで用意していたようだ。
気付けば、傘が手元にない。衝撃で落としてしまった。
起き上がって振り向くと、さっきの女子高生が刹那に、青白い顔をした灰色のトレンチコートの大柄な男になった。水色の傘も、同時に黒い革の鞄に偽装された。
鞄を拾って黙って走り出したトレンチコート男をワトソンは追った。
白煙から逃げ惑う人々と一目見ようと立ち止まる野次馬たちの間をトレンチコート男は器用に縫って逃げる。ワトソンも追うが、距離が開いてしまった。
人波に揉まれながらも、辛うじて『刺客』を追う。
ワトソンは『姿』をひっそりと背広の若者に変えた。
どうやら、ワトソンは尾行しているが、尾行されてもいるようだ。
「ワトソン、約11メートル後方、革ジャンサングラスの大男は二人目の『刺客』。」
チラと振り返ると、確かに追ってきている。
イヤホンから、テンポの速いロックが流れ出した。
雑踏は、爆破テロから逃げる者と興味本意で見に行く者と泣きわめく者と怪我人と救急隊員と警察官と駅員と何が起こったかわからず戸惑う者と爆破テロ犯とそれを追う探偵とそれをまた追う爆破テロ犯の一味で、完全に混乱状態にある。
階段を登る。
そして、乗り換えのための連絡橋。
トレンチコート男の背中はなんとか追う。
間隔:約10メートル
だんだん間隔を詰めていく。
間隔:約5メートル
ワトソンが懐から、グロッグを取り出す。鞄を撃ち抜けば、全て終わりだ。
間隔:約1メートル
と、その時、トレンチコート男は踵をかえした。ワトソンと一瞬、目が合う。
─ドスッ
ワトソンはおもいっきり、革の鞄で殴りつけられた。
少しだけよろめく。 気付けば、トレンチコート男の右手にはデザートイーグル。銃口がワトソンの眉間にピタリとあたる。
トレンチコート男が引き金を引くか引かないかという辺りで、ワトソンは咄嗟にトレンチコート男の手首を掴み、捻る。 デザートイーグルの銃声。
弾丸は真上の電光掲示板を貫いた。
人々はまたも悲鳴をあげて逃げてゆく。 トレンチコート男は、右手にデザートイーグル、左手に例の鞄。ワトソンは右手にグロッグ、左手は相手の右手首。
トレンチコート男は左手の鞄で何度もワトソンを殴ったが、一回目のように上手く急所に入らない。 先にワトソンが膝でトレンチコート男の肋骨をへし折る。
しかし、トレンチコート男は同時にワトソンのみぞおちを蹴りつけた。
うめき声をあげて倒れる両者。拳銃は二人とも落とす。
トレンチコート男の左手の鞄が、短刀に偽装された。あいにくワトソンには何か武器に偽装できそうな手持ちの物はない。
トレンチコート男が走り寄り、短刀をかざす。ワトソンはギリギリのところでかわすしかない。
何ヵ所か切り傷を入れられたワトソン。トレンチコート男は懐から、もう一本短刀を取り出す。こちらは、ただの短刀だ。ワトソンになすすべはない。
何人かの警察官が駆け寄ってくる。なにやら、ワトソンとトレンチコート男に、武器を捨てて投降しろと呼び掛けている。増援を要請する警察官もいる。
トレンチコート男はワトソンに致命傷を与えるべく、短刀を握りしめた。
走り寄るトレンチコート男─。
と、その時、二発の銃声がほぼ同時に鳴り響いた。片方はワトソンの頬を、もう一方はトレンチコート男の肩をかすった。
片方の弾丸は、革ジャン男のウージーから、もう一方はホームズのコルトから発せられたものであった。
ホームズ現る!
トレンチコート男は走るのをやめて、少し後退りした。
遂に、4人は連絡橋のちょうど真ん中で対峙した。
ホームズは分厚いコートを羽織った老年の男の『姿』。
警察官たちは何が始まるのかわからず、一歩引き気味だ。
─シューーーー
奇妙な臭いが立ち込める。野菜の腐ったような悪臭─メチルメルカプタンだ。
革ジャン男が放ったのだ。
悪臭に混乱する警察官たち。
ワトソンがふと気づくと、トレンチコート男が器用に両手の短刀をくるくると入れかえている。全く同じデザインの2つの短刀。もはや、どちらが『アジト』かわからなくなってしまった。
すると、トレンチコート男はいきなり、片方の短刀を投げつけた。
一人の哀れな警察官の足に刺さる。
警察官の悲痛な叫び声。
革ジャンサングラス男は倒れた警察官の足から、ずるりと短刀を抜いた。
「追え!ワトソン!」
振り返ると、トレンチコート男が連絡橋から飛び降りた。
ワトソンも慌てて追う。
連絡橋の下にちょうど貨物列車が通っていた時だった。トレンチコート男とワトソンは車両の上で再び対峙した。
トレンチコート男は貨物車両に短刀を突き刺した。おもむろに立ち上がる。
時速100kmの風圧と狭く不安定な貨物列車の車両の上では、立っているのが限界だ。
二人はじりじりと近づく。
一方、ホームズは血のついた短刀を持った革ジャン男が地下鉄のホームへ逃げるのを追う。
人混みに飛び込み、階段を降りていく革ジャン男。ホームズも階段の手前まで来た。
が、突然、一人の警察官が立ちはだかった。
─?
ホームズは一瞬、立ち止まる。
そこに警察官はホームズの脇腹めがけて回し蹴りをした。
─そういうことか!
天才ホームズ、一生の不覚。警察官はすぐに、ブロンドの長い髪の黒のパンツスーツ姿の女に『姿』を変えた─この警察官は『ルパン』の一味の偽装姿だった。
「3人目は想定外だぞ。」
「残念だったな、ホームズ。」
女は冷酷に言い放った。手の拳銃をホームズに向ける。
だが、ホームズはニヤリと笑った。
「3人目が想定外なのは、こっちだけではないぞ。」
はっと気付いた女。 後ろから、別の警察官が女に飛び蹴りを喰らわす。
女が吹っ飛ぶ。
今来たこの警察官も紺色のスーツを着た30代の男の『姿』に変貌した。
ガニマール警部である。
「ホームズ、革ジャン男を追え。」
ホームズは頷いて、立ち上がる。地下鉄のホームへ向かった。
その頃、貨物列車の車上でワトソンとトレンチコート男が壮絶な肉弾戦を繰り広げている。
怪我している上に、単純にトレンチコート男の方が強いので、ワトソンはかなりダメージを受けていた。
トレンチコート男の強烈なアッパー。ワトソンは反撃する間もなく、右ストレートを喰らう。
トレンチコート男の肋骨を再び折る。
しかし、トレンチコート男はものともせず、ワトソンの膝を蹴る。
崩れるワトソン。
トレンチコート男は無言でワトソンの腹を蹴り飛ばす。
危うく、車上から落ちかけたワトソン。両指で貨物車両の縁を掴む。
トレンチコート男はゆっくり近づいてきた。容赦なくワトソンの指を踏みつける。
ワトソンはまさに絶体絶命である。
ホームズは地下鉄ホームで革ジャン男を見失いかけていた。「……。」
溢れんばかりの人混み。既に革ジャンサングラスの『姿』ではないかもしれない。
今はちょうど通勤電車が大量の人を吐き出したところ。
ホームズは人々の濁流に逆行していた。 もし、あの列車に乗られていたら、もう見つからないだろう。
反対ホームには回送列車。扉は開いてある。ホームズは怪しいと踏んだ。
「お客さま、こちらは回送…」
「どけ。乗る。」
駅員は気迫に押され、何も言い返せなかった。
革ジャン男は、ホームズがこっそり乗り込んだ回送列車の車両の4つ後ろの車両に堂々と乗り込んでいた。
回送列車が発車する。
ガニマールは後悔していた。
(この女、スピードだけじゃない、パワーも半端ない。)
女は拳銃を金属バットに『偽装』している。
ガニマールがあらかじめ用意していた警棒(ガニマールも拳銃に『偽装』していた)は、一瞬で破壊された。今、ガニマールの手には、虚しく折れて、ほとんど柄しか残っていない警棒「だった」ものがあるのみだ。破壊されてしまうと、別の物に『偽装』することは出来ない。
(一番厄介な『刺客』だったか…)
女は無言でバットを降り下ろす。
読んで、かわす。
バットは連絡橋の欄干に当たる。殴られた欄干は、30センチメートル程凹む。
当たれば、即死だ。
「ここは、バッティングセンターじゃないぜ。」
ガニマールは、危機的な状況であればあるほど、こんな冗談をかますのだ。相手は聞いて無さそうだが。
ガニマールは横殴りに一撃を再びかわす。バットは連絡橋の床タイルを粉々にした。
(危険な相手だぞ。) ガニマールも絶体絶命である。
地下路線を進む回送列車。窓は白い蛍光灯に照らされた無機質な黒い塀を映すばかり。
ガラガラの車内。
回送列車だから当然だが。
車両の端と端に二人の男。
言うまでもなく、ホームズと革ジャン男である。
革ジャン男は足元に短刀を投げ捨てた。
一瞬、時間が止まる。
先に仕掛けたのは、革ジャン男。
ウージーが切り裂くような銃声をたてる。
ホームズは器用に銃弾をよけ、コルトを発砲。
互いにかわしながら急接近。
ホームズが壁を蹴り、つり革を掴む。足を高く上げ、革ジャン男の顔を蹴りつけた。
大きく仰け反る革ジャン男。
ホームズは横をすり抜けるように飛び越えた。
革ジャン男はその場に倒れ、ホームズは4メートル程離れた地点に着地した。
着地した地点からほんの1メートルのところに、先ほど革ジャン男が投げ捨てた短刀が落ちている。 短刀は電車の振動にあわせて、カタカタと悲しげな音をたてている。
ホームズは左のふくらはぎに激烈な痛みを感じていた。
革ジャン男は蹴られる寸前に、素早くウージーを日本刀に『偽装』していた。すれ違う時に、ホームズの足を斬っていたのだ。
ホームズは足から血を流しながら、這って短刀を取りに行く。
銃声。
ホームズがもう少しで短刀にたどり着くところで、銃弾は短刀に当たり、短刀はクルクル回りながら飛んでいった。
後ろで、革ジャン男が顔を押さえながら、立ち上がる。
さっきまで日本刀だった物は、カラシニコフに『偽装』されていた。
革ジャン男がセミオートをフルオートに切り替えるのが見えた。
革ジャン男がカラシニコフを乱射するのとホームズが革ジャン男に向けてコルトを撃ったのは、ほとんど同時だ。
惜しくも、コルトの弾丸は革ジャン男のサングラスをかすめた。
サングラスが落ちる。
ホームズは急いで座席の裏に隠れる。
革ジャン男は執拗にカラシニコフを撃つ。
ホームズもコルトをスパス12に『偽装』して、隙を見て攻撃する。
ホームズもまた絶体絶命である。
ワトソンには打開策がなかった。
もはや指は折られ、気力だけでぶら下がっていた。
遠くからヘリコプターの音が聞こえる。 トレンチコート男がワトソンの指を踏みつけるのをやめる。
─?
次の瞬間、トレンチコート男がワトソンの視界から消える。
「ワトソン、今だ!」
イヤホンから声。ホームズの声ではない。
ワトソンは車両によじ登る。
トレンチコート男は左肩からひどく出血していた。
─ポアロか!
4人目の探偵は、線路沿いの小高い丘の上の小道を爆走するジープに乗っている。
「感謝しろよ、ワトソン。動いているところから動いている物を狙撃するのは簡単じゃないからなぁ。」
なんと、ポアロは貨物列車と並走する車から、トレンチコート男を狙撃したのだ。
イヤホンから聞こえるポアロの声は、ずいぶんと雑音が混ざっていた。
「ワトソン、悪いがもう援護はないぜ。こっちも『ルパン』に尾行されているんでね。」
「ポアロ!射程に相手が入った!」
イヤホンから別の人物の声─運転手の女の声である。
「わかってるよ、マープル。」
ワトソンにも、だんだん何が起きているか分かってきた。
つまり、ジープに乗ってポアロとマープルがワトソンの援護に着たのだ。しかし、その第4の探偵と第5の探偵もまた、尾行されているのだった。
左上半身を深紅に染め、呻くトレンチコート男。
ワトソンも指はことごとく折られ、血が滲んでいる。
予期せぬ援護でワトソンは戦いを五分に持ち込んだ。
ポアロは狙撃銃で追跡してくる『ルパン』のヘリコプターを狙っていた。
が、ヘリコプターに乗る『刺客』は機関銃でジープを穴だらけにしていた。
「伏せろ!」
「わかってるよ!」ジープは窓も天井も蜂の巣になっている。
「畜生め、このジープをオープンにするつもりかよ!」
『刺客』からの弾丸の雨がリロードのために、一瞬止む。
すかさず、ヘリコプターに乗って機関銃を撃ってくる『刺客』の脳天を撃ち抜く。
『刺客』がヘリコプターから落下する。
「ざまあみろ。」
と、喜ぶのも束の間、別の『刺客』がヘリコプターの窓からぬっと姿を見せた。
「マープル、もっとヤバい奴出てきちゃった。」
「は?どうヤバいって?」
「RPG-7なんて持ってやがる。」
『刺客』がロケットランチャーを向ける。
「あとな、もうひとつ残念な知らせだ。」
「RPG以上に悪い知らせって?」
「狙撃銃が弾切れ。」
ポアロとマープルも絶体絶命だ。
ガニマール警部は戦いに決着をつけようとしていた。ガニマールは傷一つない。 一方、ずっと全速力で金属バットを振り続けた女の『刺客』は息が切れている。女のしたことはひたすら欄干を曲げ、タイルを叩き割っただけの徒労に終わったようだ。
ここからは一瞬の出来事。
ガニマールが女に駆け寄る。
女が右足を高く上げる。
かかと落とし。
ガニマールの左鎖骨が折れる。
ガニマールはものともしないで、右手の折れた警棒を持ちかえる。
直後に、女がバットを降りおろす。
ガニマールは頭を守るように左腕を横向きにして突きだす。
バットはガニマールの左腕の骨を折った。
が、ガニマールは歯を食い縛って、右手の折れた警棒を女の喉に突き刺した。
女は何も言わず、連絡橋からまっ逆さまに落ちた。
見れば、連絡橋の下の線路の上には何もなかった。
一人の『刺客』が消滅した。
ワトソンのイヤホンからはメタリックなインストロメンタルが流れる。
ワトソンは感覚のない両手でトレンチコート男と掴み合っていた。両者とも必死の形相。
ワトソンがトレンチコート男の腹を蹴る。
すぐにトレンチコート男が右足でワトソンの顎を蹴り上げる。
仰向けに転がるワトソンにトレンチコート男が飛びかかる。トレンチコート男が片手でワトソンの首を絞めにかかる。
ワトソンは相手の右手首を押さえながら、思い切り左肩を殴りつけた。
悲鳴をあげるトレンチコート男。
ワトソンは二三歩後ろへ這って下がる。
ワトソンの横には最初にトレンチコート男が刺した短刀があった。
トレンチコート男が懐からもう一本短刀を取り出すのが見えた。
トレンチコート男がこちらに短刀を突きつけながら、這って近づく。
ワトソンは横の短刀を引き抜いた。
『偽装』可能。
この短刀こそ『アジト』だった。
ワトソンは短刀をレイピアに『偽装』した。
トレンチコート男の短刀がワトソンの太ももに刺さるのと、ワトソンのレイピアがトレンチコート男の胸を貫いたのは同時だった。
トレンチコート男は白目を剥くと、列車の上から転がり落ちていった。
ホームズは右手を撃ち抜かれ、もはや革ジャン男を攻撃する術はなかった。
だが、ホームズは勝ちを確信した。
「『刺客』よ、時間切れだ。」
ホームズは高らかに言い放った。
列車が減速する。
止まるとすぐに扉が開き、20人ほどの特殊部隊員がMP5を携えて突入してきた。
革ジャン男はいかにも口惜しいと言いたげに口を歪めた。
革ジャン男は射殺された。
ポアロとマープルはジープが焼き払われる前に道路沿いの川に飛び込んだ。
ジープが爆発音とともに炎上するのが見える。
3台ほど別のヘリコプターが出現する。
『ルパン』のヘリコプターが警察ヘリに追跡されているのだった。
『アジト』は回収された。
『探偵』は負傷したものの全員生還。
『刺客』は3人を殺害、残りも逮捕。
『ルパン』は所在地を押さえられ、事実上崩壊した。
こうして戦いに決着がついたのだった。 (完)
読んでくださりありがとうございます。
初投稿で拙い文章ですが、今後ともよろしくお願いいたします。






