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旅路が俺を嫌っている  作者: 葛来 奈都
初っ端から時間旅行

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柔らかい琥珀 ③

ゼファは唖然としながらシエナとアッシュを何度も見返した。

状況が掴めなくて、頭の中が混乱していた。

聞きたいことが沢山あるはずなのに、何も言葉が出ないでいた。



そんなゼファに、シエナは告げる。

「ごめん、ゼファ」

そしてシエナは目に涙を浮かべながら、ニッと笑う。

「……ありがとう」



その言葉を最後に彼は青い光に包まれた。

「シエナ!!」

消えゆくシエナにゼファは叫んだ。

光は強くなり、輝き出す彼の姿はもう見えない。

光に囲まれながら、シエナは述べる。



「大丈夫、未来はあるさ」

その眩しい光の中で、彼は精一杯笑った。

最後に見たその顔は優しく、それでいて和やかだった。

そして、光が弱くなったと思うと、もうそこにはシエナの姿はなかった。



ゼファは絶句した。

シエナが消えた。

アッシュは死ぬ。

友が次々といなくなる中、自分はこれからどう生きればいいと言うのだ……どう、この国を統治すればいいのだ。

不安と怖さと、友をなくした悲しみが一気に彼に押し寄せた。

 


一方、アッシュはもう目を開ける力すら残っておらず、目をつぶりながらただ静かにゼファとシエナのやり取りを聞いていた。

それでも頬に落ちるゼファの涙から、彼の泣き顔は容易に想像ついた。



「安心しろ、ゼファ」

吐息に紛れながら、アッシュはゼファに言う。

「風も、大地も水も……時の流れだってみんなお前の味方だ」

その言葉に反応するように飛んでいたオーブたちが上下に動いた。

中にはゼファの周りを飛ぶ物もいて、アッシュの言葉に肯定しているようにも見えた。



「だから、大丈夫ーー」

だがその言葉を呟くと同時に、アッシュの腕は落ちた。

「……アッシュ?」

弱々しく彼の名を呼ぶ。

しかし、彼は返事をすることはない。

静かで、もうピクリとも動かないアッシュに、ゼファは全てを悟った。



ゼファは泣き叫んだ。

悲しみも、不安も、嘆きも、全部吐き出すように心の底から叫んだ。

冷たくなったアッシュの体を握りしめ、涙も拭わずただただ流した。

だが、アッシュの表情は満たされており、笑っているようにも見えた。



陽の光が彼らの姿を照らして行く。

その陽だまりの中でアッシュ・グライスは息を引き取った。



ゼファの泣き声はこの処刑場に虚しく響き渡っていた。

そして、瓦礫に潰れたシエナの落としたローブだけが寂しそうに風で靡いていた。



 * * *



ーーあの忌まわしい事件から幾日が経過した。



ウィスタリアとアッシュは別日で、それぞれ手厚く葬られた。

街の崩壊は最小限に食い止められたとは言え、尊い犠牲に誰もが涙を流した。

中にはすでに死んだと言われていたアッシュの死に疑問を持つものもいたが、すぐに兵士たちが白状し、国民に真実を告げた。



それでも、誰もウィスタリアを責めることはしなかった。

ウィスタリアの悲哀的な運命に同情した訳ではない。

ウィスタリアなりに国を考えていたことに気づいていたからだ。

ただ、誰もが彼の力を正しく導くことができなかっただけ。

そのことも国民はわかっていた。



そんな目まぐるしく過ぎ去った日々を思い返すように、ゼファは王宮のベランダからアクバールを見下ろしていた。



あれから国民は国を立て直そうと粋がっていた。

それに、鎖国で抑え込んでいた反動もここに来て爆発したのか、これまでより活発になっていた。



ーーさて、これからどうするか。

ゼファは深くため息をつく。

国民にやる気はあるとはいえ、鉱山で取れた魔法石はウィスタリアに使われてほとんど残っていないし、何より魔法石を研究していたグライス家はもういない。

残された財産で、どう国を繁栄させるか。ゼファはとにかく悩んでいた。



そんな厳めしい顔をするゼファに、彼は和やかな声で話しかけた。

「お悩みですか?」

その優しい声にゼファは振り向いた。

「……アイビーか」

名を呼ばれたアイビーは、ニコリと微笑んで会釈した。



あれからアイビーは店をたたみ、再びゼファの下に付くことになった。

ただし、今回は使用人ではなく、側近だ。

長い関係だからこそ、ゼファ直々に彼に請いたのだ。

これからこの国を立て直すパートナーとして……そして何より、国を救った彼らの存在を知る者としてだ。



あれから国中を探しても、シエナはどこにもいなかった。

まるで初めからシエナ・メイズなんていなかったかのように、ぽっかりと彼の存在だけ抜けてしまったようだった。

アッシュの言った通り本当に未来へ帰ったのか、今となってはわからない。



「不思議な人でしたね」

そう言うアイビーに、ゼファはコクリと頷いた。

そんな彼らに暖かく、優しい風が吹いた。



その風に長い髪を靡かせながら、ゼファはアッシュの言葉を思い出した。

風がこうして種を運び、大地には草花が咲き乱れる。

水は我々の命を恵み、時の流れと共にこの国は再構築される。

それが、この国の在り方だ――少なくとも、ゼファはそう思っていた。



風を感じながら、ゼファはどこまでも続く青い空を見上げた。

ゼファ・フィルン・セレスト。

ーーここに、新たな国王が誕生しようとしていた。

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