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旅路が俺を嫌っている  作者: 葛来 奈都
初っ端から時間旅行

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柔らかい琥珀 ②

余りにも衝撃的な発言にシエナの心臓が一瞬止まった。

「今……なんて……」

うろたえながらシエナはアッシュにもう一度尋ねるが、アッシュは力なく微笑むだけだ。



「悪いなシエナ……お前呼んだの、やっぱり俺だわ」

静かに、それでいてはっきりと口をするアッシュにゼファもシエナも返す言葉がなかった。



それでもアッシュはちゅうを見ながらポツリと呟いた。

「なあ……時の精(クロノス)

アッシュに呼ばれた青いオーブがアッシュの前で舞った。

その青いオーブを見て、シエナはハッとした。

この青いオーブを、彼は見たことがあるからだ。



青い光はアッシュを見下ろすように止まるとぼんやりと広がり始め、やがて黒いローブを着た男の形と成した。

あるじ……」

アッシュを見つめながら、クロノスは静かに呟く。

その声も堅苦しい口調もシエナは知っている。

他でもない、彼自身をこの世界に連れて来た張本人だ。



「旅人、礼を言う」

悲しげな顔をしながらクロノスは言う。

「これで、主の願いは叶った」

それに同意するようにアッシュは小さく頷いた。



それでもシエナは混乱していた。

「お前……なんなんだよ」

シエナはこのクロノスと呼ばれた青い光の正体を理解できないでいた。



そんな彼を諭すように、クロノスは言う。

「我が名はクロノス。時を操る精霊だ」

その言葉に不覚にもシエナは今までの事態を納得してしまった。

過去に飛ばされたことも、彼が『主』と呼んだ人物のことも、その『願い』だってようやく理解できた。



しかしだ。

自分の身を犠牲にしてまでこの街を守るということが、彼の願いだというのか。

シエナは納得できなかった。



「お前が時を操れるなら……もう一度時を戻せよ!」

シエナは喚くように声をあげた。

その声は震えていて、目からは涙がこぼれ落ちていた。

だが、否定したのはアッシュだった。



「いいよ、もう……変えられないんだ」

そもそも、今の彼にはクロノスの力をもう一度使う力は残されていない。

それに、この未来こそが彼が望んだ運命だ。



「本当は、何回も時を戻してくれていたんだろ? クロノス」

アッシュの問いかけにクロノスは黙っていた。しかし、その沈黙こそが肯定の答えだった。



一体いつのアッシュがクロノスに命じたかわからない。

能力の高いクロノスが自発的にやったのかもしれない。

もうそれすら忘れてしまうほど、この街は何度も滅びと再生を繰り返した。



巡る時の中、滅びた先の未来でクロノスはたった一人で待っていた。

誰がこの街に訪れること、そして救ってくれる者が来てくれることを。

ーーそこで現れたのが、シエナだった。



きっかけは、アッシュとゼファを救ったから。

彼の勇気と力がこの街を変えたのだ。

これで、街は救われる。



空の切れ目から見える陽の光を眺めながら、アッシュは微笑んだ。

「ありがとうシエナ……これで、ようやく救われる」

力なく、それでも心のこもったアッシュの言葉に、シエナは途端に泣き崩れた。



未来を変えた。

この街は平和になる。

そのはずなのに、溢れる涙は止まらない。



アッシュは最後の力を振り絞り、ゼファに手を伸ばす。

それに応えるようにゼファはその震える手を優しく握り返した。

親友に手を握られながら、アッシュは静かに告げた。

「助けようとしてくれてありがとな」



街が再生する度にアッシュは死んだ。

同じ日、同じ時間、同じ死因で繰り返し時を駆け巡った。

それはゼファも同じだ。

ゼファだって何度も死んだ。

いや、何度だってアッシュを助けようとしてくれた。

それはやがて夢のような錯覚に陥った。

アッシュが何度も自分が死んだ夢を見る理由はここにあった。



だが、ゼファを助けたいのはアッシュも同じだった。

だからこそ、彼はこの結末を望んでいた。

滅びる街と共に彼の命だって消滅していた。

しかし、今はもう彼の命を脅かすものはいない。



「俺もなんだかんだ言って……この国が好きだったらしい」

これからこの国は変わっていく。

それは国民と、目の前にいる次期国王の手によってだ。

自分はそれに携わるより、空でのんびりと復興するのを眺めているのが性に合う。

アッシュはそう思っていた。



息を吐くと、途端に眠気がアッシュを襲った。

いよいよ、彼に残された時間がなくなってきた。

あとは、召喚士としての最後の仕事をするだけである。



「クロノス……シエナを元の時代に帰してやれ」

その命令にクロノスは「御意」と姿を青いオーブに変えた。

泣いて俯いていたシエナが顔を上げると、彼の周りに青いオーブが飛び交っていた。

「準備はいつでもできている」シエナにはそう言っているように見えた。



「さあ、行けよ。時間がない」

アッシュが死んでしまったら、精霊との契約は切れてしまう。

となると、シエナはもう元の時代には戻れなくなってしまう。

それだけは、断固避けたかった。シエナには託すことがある。

その役目は、アッシュが口に出さずともシエナはわかっていた。



「ーーわかったよ」

涙は止まらなかったが、それでもシエナは微笑んだ。

「未来はーー俺が見届けるから」

その言葉にアッシュは満足そうな表情で小さく頷いた。

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