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旅路が俺を嫌っている  作者: 葛来 奈都
初っ端から時間旅行
5/54

「会いたい」とは言ったけれども ①

シエナが最初に感じた違和感は日照りだった。



先ほどまでの雨による冷気は一切ない。

雨音もない。

代わりに聞こえるのは雑踏と騒がしい話声だ。



シエナは恐る恐る目を開ける。

そして飛び込んできた光景に息を呑んだ。

世界が、一変している。



壊滅していた街のはずだったのに、目の前には人が行き交っている。

それだけではない。

建物も何一つ壊されていないし、目の前にある噴水も勢いよく水が出るほど機能している。

ふと後ろを見ると長い石坂が続いていた。

その端には人を拒むように高い塀がある。



この坂にも、塀にも、噴水にも、シエナには見覚えがあった。

それと同時に「そんなはずはない」と必死に否定していた。

なんせ今まで彼がいたところは石坂も噴水も真新しくないし、そもそも人がいない。



あの青い光に幻でも見せられているのか。

そんなありもしない疑惑がシエナの脳内に過る。

しかし、この感じる陽の光はとても幻なんかには思えない。

噴水の水を汲んでみても感触も冷たさも本物にしか感じない。

つまり、これは夢でも幻でもないのだ。



「これは……どういうことだ?」

自分の身に起こった事態が理解できず、シエナは頭を掻く。

濡れた髪からはポタポタと水が滴る。

あの雨で髪も服もびしょびしょに濡れていた。

しかし、こんなにも濡れているのはシエナだけで、通りかかる人々は不思議そうな目で彼を見つめていた。



その視線にばつの悪さを感じていると、シエナの隣から「ねえねえ」と可愛らしい少女の声が聞こえてきた。



シエナが声のしたほうを見ると、まだ十歳にも満たない少女が彼を見上げていた。

腕には抱えなければ持てないほどの木の籠を持っている。

着ている服も所々やぶけるほどぼろぼろで薄汚れていた。



少女は尋ねる。

「お兄ちゃん、どうしてそんなに濡れてるの?」

その濁りのない澄んだ瞳で見つめられ、シエナは返答に窮した。



「あー……水に落ちたから?」

誤魔化すようにシエナは返すが、少女は余計おかしそうに首を傾げた。



怪しまれるかと思って構えていたシエナだが、少女はすぐににこっと笑う。

「変なお兄ちゃん」

誤魔化せたことに安堵するべきなのだろうが、シエナはどこか複雑だった。



ため息をつきながら視線を落とす。そこで見えた彼女の抱える籠の中身に自然と目が行く。

そこには茶色の石が数個だけ転がっていた。



「なんだこれ?」

「お父さんが作ったのを売ってるの」

 少女の答えにシエナは「ふーん」と言いながら品物に手を伸ばす。

その石は一見透明な茶色の石だが、太陽に照らすとうっすらとオレンジ色に輝いた。



「『こはく』って言うんだって。木の「じゅし」が長ーい時間をかけて石になった物ってお父さんが言ってたよ」

「へー、『琥珀』って『樹脂』の化石なんだな。初めて知った」



少女の話を聞きながら、シエナは琥珀に何度も陽光を照らす。

そうしていると少女から熱い視線を感じた。

「買ってくれないか」とわくわくしているような視線でもあった。

そんなに期待して見つめられると、こちらも退きにくい。

 


「仕方がない」とシエナはショルダーバッグに手を伸ばす。

これは、迂闊に商品に手を伸ばした彼のせいでもある。

「これ、いくら?」

そう訊くと少女の表情がぱあっと明るくなった。

だが、少女が言った金額にシエナは耳を疑った。



「五十ゴルド!」

「ゴルド?」



確認するように尋ねると少女は「うん」と大きく首を縦に振る。

だが、彼が持っている通貨の名は「ガル」だ。

「ゴルド」なんて聞いたことがない。


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