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旅路が俺を嫌っている  作者: 葛来 奈都
初っ端から時間旅行

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47/54

青い雨、茶色の大地と、灰の空 ②

* * *



いつの間にか街の中央に立っていた時、シルフがここまで飛ばしてくれたのだとゼファはすぐに気づいた。



混乱する住民たちは我を忘れて街の中を右往左往している。

誰もがヴァルヴェルンから逃れたくて、塞いである大きな扉へと向かっていた。

しかし、案の定そこには兵士たちが扉を守っている。



だがこの事態に兵士たちもどうすることも出来なかった。

王には開けるなと言われる。

住民には開けろと言われる。

いつもなら制圧できたとしても、今のこの混乱と渋滞では兵士たちもたじたじになっていた。

あげられる罵声も最早絶叫にしか聞こえない。

 


ゼファの出番はそこから始まっていた。

「聞け、皆の者!」

荒げた声と同時に風がぶわっと舞い上がり、彼の長い髪を靡かせた。



その怒声と吹き荒れた風に誰もが動きを止め、彼を注視した。

「ゼファ様……」

中には縋るように彼の名を呼ぶ者もいる。



注目を浴びる中、緊迫した空気が流れこむ。

そんな張り詰めた場面でもゼファは澄ました顔で彼らに現実を突き刺した。



「見ての通り破壊の召喚獣であるヴァルヴェルンが召喚された。そして……ウィスタリアも死んだ」

この残酷な現状に民衆の誰もが言葉を失った。

それでもーーゼファは彼らを奮い立たせる。



「国王が死んだ今、王位継承者はこのゼファ・フィルン・セレストになる。だから、俺の言葉をよく聞け!」



ゼファの細い体からは考えられないその果敢な声にその場にいた誰もが顔を上げた。

彼らに主張するように、ゼファは吼える。



「絶望の淵に立たされた今だからこそ、残された希望に縋りつけ! 自分に出来ることを考えろ! 大切な奴らを守れ! そして、何より冷静さを見失うな! 守れる者も守れなくなる!」



彼の鬼気迫る説得に、誰もが耳を傾けた。

静まり返り、兵士もいつの間にか構えた剣を下ろしていた。

声高にしたせいでゼファの息は切れ始めていた。

だが、あれだけ錯乱していた住民たちの足取りも止まり、少しばかり熱が冷めていることに彼は気づいていた。



「……これより命じる。兵士は住民の避難誘導と護衛に徹底しろ。力のある男もなるべく誘導に回れ。誘導場所と護衛の人数等はお前らに任せる。守るのは『アクバール』じゃない。『国民』だ。わかったな」



そう言うとゼファは一つ深呼吸をし、ゆっくりと民衆に背を向けた。

その背後からは「はっ!」という揃った掛け声と鉄製の鎧が揺れた音が聞こえた。

兵士が彼に向かって敬礼していたが、ゼファは見ようとしなかった。



そんな彼の背中に一人の男が声をかけた。

「ゼファ様……」

弱々しく、それでも彼の内心を汲み取るような悲しい声にゼファは振り向いた。

そこにいたのは、アイビーであった。



「……行かれるのですね?」

アイビーは気づいていた。

アッシュとシエナの姿がないことも、ゼファには行かなくてはならない場所があることもーー彼は気づいていた。



だが、本来ならばゼファを止めるべきだった。

王位継承者として、彼は戦いの前線でなく、ここで『生き延びる』という選択をしなければならないはずなのだ。



しかし、ゼファ自身がそれを望んでいないこともアイビーはわかっていた。

だからこそ、彼は言うのだ。

「……絶対、生きて戻ってくださいよ」

ここはもうゼファの国。

そして彼の民であるアイビーが出来ることは彼を信じ、彼に従うことだ。



「後のことは、任せてください」

そう言ってアイビーはそっと背中を押した。

「……恩に着る」

ゼファは静かに口角を上げ、ゆっくりと振り向いた。

そこには国民である群衆が街いっぱいに広がっていた。



この光景を見て、彼は改めて思い知らされた。

国を作るのは、王族でも貴族でもない――民だ。

だからこそ、王位継承者として、貴族として、自分は彼らを守らなければならないのだ。



「任せたぞ、お前ら!」

ゼファは最後にそう声を荒げた。

それが、彼にとって別れの合図で、シルフもそれをきちんと看破していた。

民衆の気合いの入った熱い雄たけびを背中にゼファは再び風に乗った。



その後、兵士たちが迅速に動きだした。幾日も封じられていた扉はようやく開かれ、そして彼らは数ヶ月ぶりに国の外へと出た。

その息あった行動力はとても長らくウィスタリアに制圧されていたものとは思えないものであった。



歩み出す民衆だったが、アイビーだけが足が止まっていた。

雨粒が降り注ぐ空を見て、アイビーはポツリと呟いた。

「頼みましたよ……ゼファ様、アッシュ、シエナ君」

その言葉は誰に届くこともなく、静かに雑踏に消えていった。

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